第11話:璃音カーネーション01
んなわけで、
「引っ越し蕎麦だよ」
フレイヤは快活に言った。豪邸と言って過言ではない屋敷に鐵家プラス一名が招待されて、広い食堂で蕎麦をたぐることとなった。
ざる蕎麦だ。
父親と母親は食前酒を、それ以外には湯飲みに注がれた緑茶が出てきた。それから他愛ない話をして使用人が一人に対して一人付き、蕎麦を用意してくれた。
今ここ。
「いただきます」
と仏教圏の礼をして一拍。
それからフレイヤと鐵家プラス一名は蕎麦をたぐった。
「っ!」
絶句したのは誰だろう。薫り高い蕎麦に丁寧に作られたつゆが見事にマッチしていた。とても素人技や既製品のレベルではない。
「どうしたんだコレ?」
俺が聞いた。
主語が入ってはいない。
されど蕎麦を指していることくらいは大ざっぱに分かるだろう。
何にせよ異国人でも日本語は達者なフレイヤだ。
「ちょっとその道の人に出張してもらって作ってもらったよ?」
さも当たり前の様に言うが冷静に考えて有り得ない。蕎麦のプロの出張サービスって……いったいどれだけかかるんだ。それを引っ越し蕎麦のために為してしまうゴールドーンの家も空恐ろしい。
それからしばし無言で俺たちは蕎麦をたぐった。
「ご馳走様でした」
そう言って一拍するフレイヤを皮切りに俺らも食事を終える。
食後の茶が出てきた。
無論使用人によって、だ。
「お向かいさん同士仲良くやっていきましょ?」
とは彼女の言。
「で?」
とこれは俺。
茶を飲みながら。
「話があるだろ?」
「何か?」
本気で言ってるのかコイツ。
俺はフレイヤに少し厳しい視線をやる。
「お前が俺の母親だのどうのこうの……」
「母……」
「親……?」
クネリと首を傾げたのは父親と母親だった。妹の鏡花と幼馴染みにしてお隣さんの朱美は既に聞いているためか疑問を面に出したりはしない。
淡々と茶を飲む。
「そう、母親。私は金也ちゃんのお母さんなの」
「母親なら既にいるぞ」
俺は義母の水月さんを指差す。
「あらあら」
穏やかに笑う母親。
基本的に激情にかられることの無い人だ。
温和な性格というか何も考えていないというか。
「それは知ってる」
フレイヤは特にめげなかった。
「鉄也さんが璃音を亡くしてから、似たような境遇の水月さんと再婚したんでしょ?」
「おい」
「なぁに?」
「調べたのか?」
「そう言ったじゃん」
「失礼にならない範囲でと聞いたが」
「方便だよ」
――あの時、角を立たせるわけにもいかなかったし。
彼女は気兼ねなくそう言った。無礼なのか大物なのか……。
「それで」
とこれは鏡花。
「フレイヤが兄さんの母親とは?」
「言葉通り。私が金也ちゃんを産んだのよ? いわゆる実母?」
「はあ」
肯定でも否定でもない言葉を義妹は吐く。そしてまた淡々と茶を飲み始める。どうやら理解の拒絶を受け入れたらしい。
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