井の中の蛙、

Spit It Out

第1話 はじまり


 遠くから響く鈴虫の声が、夢と現実の狭間に私を誘った。二度と明けぬような夜の底に、小さな私は確かに存在していた。心地よい秋の風が私の首をサラサラと撫でると、満天に伸びるカシオペア座が瞳の中でジワリと滲む。背後では、夜の闇が今か今かと私を攫う機会を窺っていた。

「その誘いに乗ってしまおうか」と、つゆ程の影が心に差した途端、その暗闇に巣喰うモノ達の血が騒ぎ、瞬く間に正気を帯びてゆくのを感じた。


 幼くして両親と数多くの兄妹を亡くした私は、夜毎この川に来ては自分だけが持っていないものを数える。四本ずつしかない手の指で、八まで数えて終わりだ。




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井の中の蛙、 Spit It Out @spirillar

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