第42話 わかりあうこと
その状況を想定していたかのように両手を挙げる新。
「渡新だな?」
「そうだ。」
「新さん!」
「真由ちゃん。落ち着いて」
「やはり情報通り。この娘はお前の知り合いだったか」
「その娘を離せ」
「お前が俺の要求を聞き入れたらな」
「俺への要求?何故俺個人なんだ?俺はお前と今始めて会うはずなんだが」
「うるさい。お前は俺の要求を黙って聞けばいいんだよ!」
「…………。」
「その前にまずだ、俺の仲間がさっきから応答ないんだが、お前の仕業か?」
「…………そうだ。お前が行き場所を指定しないからお前の仲間をしらみつぶしにぶっ飛ばしてここだと聞いた」
「………手練って噂は本当のようだな」
「それで俺への要求ってのを聞かせてくれ、俺にどうして欲しいんだ?」
「…………聞かせろ」
「はっ?なにを」
「あいつがどんな最後だったかを」
「あいつ?………流川学のことか?」
「そうだ。貴様との決闘で敗れ、志し半ばでその生涯を終えた盟友の最後の生き様だ!」
「…………。」
「どうした?何故黙る?」
「なんで、なんでそんなことの為にお前は今、こんなことをやっている!」
「俺達に他のエリアに移動する自由は無いんだ。貴様と面識の無い俺がお前に問うにはこうする他無いだろうが!」
「そんなこと、こんなことしなくたっていくらでも伝えてやれただろうに」
「じゃあどうやる?今この瞬間が初めましての俺達がどうやってこうして面と向かい合うんだ?他のエリアに属する俺達が」
「……………。」
「そう基本的に俺達は交わることの無い存在だ、お互いを認知すること無く死んでいく。本来こうして言葉を交わすこともない関係なんだ!それをどうやってこの方法以外で聞き出す?」
「……………。」
「さぁ教えてくれ?どうやってお前に聞くんだ?この方法以外で」
「確かに。現状で桂木、お前とこうして話すことは難しいかもしれないな。でもなんで俺なんだ?司令部に聞くことだって出来たんじゃないか?」
「あいつらなど信用出来るか。あいつらの情報など」
「政府に属する組織だからこそ、より俺よりも正確な情報が手に入るんじゃないか?」
「そういう強大な組織だからこそ情報を捻じ曲げることだって出来る」
「掛け合うことは出来たんじゃないか?」
「………」
「それを断られたなら、この行動も理解を示すことは出来る。ただやれることをやらずに………やりきらずに自分の主張を強引に通そうとするのは、やっぱ誤りだったんじゃないか」
「新さん………」
「…………渡、貴様」
「流川は」
「!?」
「流川は………悲痛な最後だったよ」
「どういうことだ?」
「なんか、【戦わされてる】感じがして自分の意思で戦っているようには感じられなかった」
「そうか、やっぱりあいつは………利用されたんだな」
「利用された?」
「自分の現状に納得出来てなかったからな、そこをどっかの組織に狙われたんだろうな。変な奴らとツルンでいたし」
「変な奴らって?」
「詳しくは知らない。だがこの『パラテネ』の存在意義に疑問を問いかける………宗教的な組織だと流川は言ってた」
「…………お前達は自分の罪が認められないのか?」
「どういう意味だ?」
「現状に不満があるってのは、そもそもなにかしらの罪を犯さなければここにはいないはずだろ?でも自分に定められた罪の重さが納得出来ない。だからこうしてテロという形で反抗しているんじゃないのか?」
「流川はどうだったんだろうな。俺は少なくとも衝動的とはいえ自分のやったことに対して今の状況に納得している。むしろよく死刑にならず生きているもんだとすら思っている」
「なんでその罪を犯したんだ?」
「理由は………多分無い。衝動的にそうしたくなるからな」
それを聞いた真由は青ざめ新に助けを求める視線を送る。
「なぁ、俺は桂木お前ともっと話しをしたい。その娘を離してくれないか?」
「…………」
「人質を気にしながら相手と話すって難しいんじゃないか?」
「話すってなに話すんだよ。」
「俺はお前を知りたい」
「!?」
「なんでお前がここにいるのか、お前がどういう人間なのか。もっと知りたい」
「渡さん………」
「お前………」
「面と向かって、腹割って話すのに人質なんてとってたら気が抜けないだろ?だから。なっ?」
「…………。」
こめかみに向けられた銃口が徐々に離れる。
「そっち行っていいか?」
「何故だ?」
「その娘足が悪いんだ。」
小さく頷く桂木。新は左肩を真由に貸すと歩調を合せゆっくり歩く。
「新さん」
「ごめんね真由ちゃん。怖い思いさせて」
「!?渡………テメェ」
パーンー………
「!?」
「キャー」
直ぐ様振り向くと脳天に穴が空いた桂木がそこには居た。
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