第38話 段階
「丁度いいタイミングです。大友軍曹」
レナは待ってましたと笑みを浮かべる。
「俺は空気が読める男だからな!レナちゃん」
「軍曹!少し気を緩めるとすぐタメ口になる癖はどうにかしろ」
「ったく相変わらず優司(ゆうじ)は固てーな」
「組織とは上下関係をハッキリすべきです。少なくとも職務上は」
「わかった、わかった以後気を付けます。大島三佐」
溜息をつく大島。
「なんでゲンさん?」
「おお新!あの一件お疲れさんな、ありがとよ」
「まあ、【この世界】に生きる者としてやれることをやっただけだよ」
「うんうん。頼もしいね」
「大友軍曹。そろそろ」
「!これは失礼しました宇佐美幕僚長。」
「・・・・・それで山内の一件とゲンさんにどういう関係があるんですか?」
「・・・・・・幕僚長。彼にも話してよいので?」
「はい。いずれは彼もそうしてもらいますから」
「了解した。・・・・・ってことで真緒ちゃん。進めさせてもらうぞ」
「・・・・・お願いします。」
「!?」
(なんで3人とも驚いてるんだ?山内が頭を下げるのがそんなに珍しいのか?)
「新。お前さんに以前『イシュタル』にはアップデートの段階がある説明を少ししたよな?」
「確か俺は第一段階の【機体と武器の最適化】を受けたんだったよな?」
「そうじゃお前さんは少し第二段階もかじっておる」
「第二段階も?」
「【専用武器の装備】じゃ」
「・・・・・もしかしてあのナックルグローブって俺専用なのか?」
「現時点ではな、そもそも『イシュタル』で拳による肉弾戦を想定した装備が今までなかったから今現在あの装備はある意味お前さん専用武器じゃ」
「そうなのか・・・・・山内のは?」
「私のは貴方が機体の最適化をしている際に購入した武器より前から使っている長刀。長刀『弘道(ひろみち)』、限りなく竹刀に近い重量をしていながら攻撃を行うさいには強度化されて一般的な『イシュタル』の刃の3倍の切れ味を持つそれが私専用武器よ」
(『弘道』の方が使い慣れてるから購入した刀は予備として装備してたのか)
「ってことは山内が受けるのは次の段階ってことか?」
「・・・・・。」
「そう第三段階にして最終段階【専用機化】じゃ」
「専用機化・・・・・」
「これまで集約された専用機化する対象のパイロットの情報を元に一から新しい『イシュタル』を製造する。これが【専用機化】じゃ」
「どれだけ変わるんだ?」
「正直。未知数じゃ」
「えっ」
「なにせ我が国に【専用機化】された『イシュタル』はこれまで存在しておらんからな、諜報員からの情報では他国で【専用機化】された『イシュタル』の性能は既存機と比べ5倍にもなるそうじゃ」
「5倍って凄いじゃないか!?なんで専用機をもっと増やさないんだよ」
沈黙する一同。
「これには多すぎる理由があります。まずは過剰な機体強化による『カウサ』反乱の防止。身に余る力をもつことで暴走する『カウサ』が出ないようにする為です。」
(確かに今回の一件で尚更慎重にならざる負えないよな。)
「更に国際的なパワーバランスという問題。現在の国連は日本の傀儡と見る国々も多からず存在する為過剰な軍事力の強化は他国を刺激する危険性が高い。」
(こんなところにも国際情勢のバランスを気にする必要性が影響してるのか)
「・・・・まあ真緒ちゃんが懸念しているのはそこではないがな」
「?」
「新。お前さん、国際法上のルールで各国の『イシュタル』所有数が10機と制限されてるのは知ってるか?」
「そうなんだ」
「これも国際的な戦力の均衡を保つ手段として取り入れられた方針じゃ、そしてこの方針が日本固有・・・・・なんじゃろうな日本固有の運用方針によって縛りを厳しくしておる?」
「日本固有の方針?」
「【『カウサ』の生活の為になるべく平等に公平な運用】する我が国の『パラテネ
』の運用方針じゃ」
「それがどうしたんだ?」
「専用機を作るということは【本来あるはずの枠を1つ減らす】ということ、『クリエイト』によって出撃機体数が毎回違い、かつ実力がものをいう『パラネテ』の選定基準。それにより『クリエイト』の恩恵を受けられる者がまた限られてしまう。只でさえ生活の懸かっている『カウサ』の人々がどれだけ容認出来ると思う?」
「それは………」
「事の重大な案件程性能の良い【専用機】が必要となる可能性は高い。特にお前達のいる東エリアはどうだ?ほぼ確定の1枠は諦め、他のエリアよりも更に厳しい選考基準となるんだ」
「確かに、理解は出来ても納得いかない人は出てくるかもな」
「故に真緒ちゃんはこれまで幾度となくコチラからの専用機改修提案を固辞してきた。」
「…………。」
(それは俺と会う前からなのか?)
「····………。」
…そうよ、私は人に干渉しない主義だから
てめえ、困った人を見てみぬフリかよ
めんどう事に巻き込まれるのはゴメンなの。それに、その人が困ったってたかは別として、ここにいる人間は全員犯罪者よ、わざわざ助ける道理は無いわ
(……………なんだかんだ当初から相手を思いやる気持ちは封じた訳じゃなかったんだな、山内。)
「因みにどうしたんだ。これまで散々固辞してきたこの案件を承諾するとは」
「とある『クリエイト』である人から言われました。【獅子達は爪を削いでいる】と」
「?」「ほう」「…………。」
「どういう意味だ?」
「わかりません。ですが始めて『クリエイト』に負けて思いました。【力を持つ資格を持つ者はその力を享受しその責任を果たさなければならない】と」
「山内…………」
「もし、まだ私にそのような資格があるとお考えなら、私は喜んでこの案件引き受けたいです」
その決意の瞳を疑う者は誰1人いなかった。
「勿論じゃよ真緒ちゃん。あの大破した『イシュタル』は専用機化改修を進めて行こう。よろしいですか?幕僚長。」
「はい。その為に来て頂きましたから大友軍曹」
「了解です!では私はこれで」
部屋を後にした大友。
「今回2人をお呼び立てしたのはこれで以上です。質問等なければこれで解散とします」
「ありません」
「同じく」
「では、明日からよろしくお願い致します。後日こちらからしか送信出来ない極秘ルートを使った連絡がいくと思います。それはつまり【これ絡み】の件だと考え行動をお願いします。」
「………新さん?新さんどうしたんですか?」
「コン。悪い、なんだっけ?」
「嫌だな新さん。例のオリンピックの『クリエイト』のこと聞かせてくれるって言ってたじゃないですか!」
「そうだったな、じゃあどこから話すっかな…………」
『クリエイト』発生『クリエイト』発生。該当者は至急指定場所へ向かわれたし
「…………新さん。行きましょう」
「そうだな」
この数日で目まぐるしく動く新の日常。これまでの日常すらも徐々に牙を向け始める。
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