第34話 危険な取引

「すまん新。緊急だからお前専用の装備は用意出来んかった。代わりに『メデュオナイフ』を通常より多めに装備した。『メデュオシレイター』とか標準装備しかないがお前の特徴的な機敏さでカバーしてくれ」


「ゲンさん。少しでも俺仕様に調整してくれただけでも凄く助かります。ありがとう」


「頼んだぞ新」


「了解。」




「流川さんマズい。『イシュタル』が起動してる」


「なんだと!?」


格納庫から姿を見せる1機の『イシュタル』。『メデュオレイター』で下に弾薬を打ち込む。


(山内は。よし被害は無さそうだ)


「投降しろ、次は命の保証は無い」


圧倒的な差に腰が引ける反乱者達。


(どういうことだ?やつらは他の『カウサ』を自宅に軟禁しているはず。そしてあの人の言う通り町は国防軍の兵だけだった。『イシュタル』もここまで使わなかった。なのに何故急に『イシュタル』が動き出した?うん通信・・・・・)


「全員。武装放棄だ」


「流川さん、しかし」


「あの人は無駄死にを望んではいない」



「渡。」


「大島三佐。なんですか」


「貴様はそのまま北エリアを抑えろ」


「!?一気にあっちの総本山を攻めるんですか?各エリアを開放した方が」


「早期終結にはそれが一番だ。それに切り札をこちらが手にした以上。反乱者に対抗手段は無いに等しい。速やかに排除しろ」


「・・・・・・了解。あの~」


「なんだ。」


「山内の保護頼みます」


「無論だ。」


目的地に急行する『イシュタル』


「・・・・・君らしくないな」


「そうですね」


「誰に感化されたんだか」


「誰でもない。私の意志です。」


「そうか。ついてこいあとで渡もだが事情を聞かねばならんことがあるからな」


「はい」




(通信・・・・・司令部か・・・・・)


「こちら05」


「こちら司令部。宇佐美です。渡くんね?」


「すみません幕僚長」


「その件はこの状況に蹴りがついたらじっくり聞かせてもらいます。でもまずはありがとう。貴方のお陰で形勢逆転出来たわ」


「いえ、そんな。大島三佐の指示で北エリアに向かってますが、このままでいいですか?」


「それが、待ってほしいの」


「えっ、なんでです?」


「実行犯の主犯格を名乗る人物から声明があったからよ」


「!?」



それはレナが新に連絡を取る少し前。


「幕僚長!『イシュタル』5号機が起動しました。」


「どういうことですか?まさか落ちたんですか?」


「認識コード………渡新です」


「!?」


(何故彼が………)


「格納庫を大島三佐が抑えました。」


「三佐と繋げます?」


「はい!」


「…………申し訳ありません。幕僚長。」


「出来れば一報欲しかったですが、格納庫を守りきれたのは良かったです。彼は何故そこに?」


「それは今から山内に聞きます。」


「山内さん!?何故彼女まで」


「わかりません。ですが2人が外にいたお陰で危機的状況は脱しました」


「…………そうですね。今はこの事態の収束が最優先することが先決です」


「彼には北へ向かってもらいました。」


「そうですか。増援が必要ですね」


「ですが山内の体調は『イシュタル』に搭乗出来る程回復していません」


「!?三佐。私は」


「君の体調は誰が見ても良くないとわかる。そんな状態での戦闘を認可出来ない」


「ですが、三佐」


「そうですね。………自粛要請を解除しましょう。そして緊急招集をかけます対象者の選定を…………」


「幕僚長!今回の騒動を起こした主犯格を名乗る人物からコンタクトです」


騒然とする司令部。


「まさかコンタクトを取ってくるとはね」


映像には真っ黒な部屋に人影が映るだけの奇妙な映像だった。


「まさか『イシュタル』を起動させるとは、少々貴方方を見くびった私の落ち度でした。」


「顔は見せてくれないのね」


「宇佐美幕僚長。テロリストがそうそう自分の顔を晒すとお考えですか?」


「どうにも自爆が好きな方が多いようなのでネジが外れているのかと思いましたよ」


「私も同志達がそのような事をしなければいけない程追い詰められていたことに胸が痛みます」


「それでなんのつもりかしら?」


「『クリエイト』を提案します」


「私達がその要求を呑むとでも?」


「そうですね。今の状況ならまず呑まないですよね。今の状況ならですが」


「東エリア第14区画にて爆発!」


「!?」


「南エリア第9区間にて同様の爆発!」


「貴方達…………」


「提案が呑まれなければ制圧した区間にセットした爆弾をどんどん起動します」


「西エリア第20区画で爆発!」


「東エリア第8区画で爆発の報告です!」


「・・・・・いいでしょう。そちらの提案を受け入れましょう。」


「!?」


「賢明なご判断です。宇佐美幕僚長」


「私としてはテロリストが【この世界】のルールに沿った提案をしてくるとは思いませんでした。もっと強引で自己主張を押し通してくるものだと」


「これでも私達は【この世界】に生きる者の端くれなのでね、ルールは尊重しますよ」


「それで貴方達の条件は?」


「この世界の実態を【本来いるべき世界】へ公開すること」


「!?貴様そんなこと」


「お静かに!・・・・そんなことでよろしいのですか?」


「ほう・・・・」


「こちらは構いません」


「!?」


「では、こちらの条件を・・・・」


「これは意外でした宇佐美幕僚長。本当によろしいので?」


「例え【この世界】の実態が【本来いるべき世界】に公になったとしても、私達のすることは変わりませんから」


「・・・・・。」


「では、こちらの条件ですが、貴方の容姿と名前及び裏で貴方達を支援している者達の情報公開です」


「・・・・・いいでしょう。では『クリエイト』成立です」


「場所は・・・・そちらの演習場でいいかしら?」


「構いません。対戦機体数は1対1で」


「そうですね。そうしましょう」


「その関係でそちらの捕縛した流川学の一時的な釈放を要求する」


「何故?」


「こちらで用意出来る機体が彼専用機しかないのです。」


「…………わかりました。」


「!?」


「寛大な御心に感謝します。では後程」


「幕僚長!」


司令部にいる者達からレナに厳しい視線が向けられる。


「皆さん。落ち着いてください」


「何故奴らの条件をこちらが呑まなければならないのですか!?」


「仰る通り、テロリストに屈しないことは世界共通の認識です。ですが今のはあくまで交渉です。」


「交渉ですか?」


「相手はテロリスト。ならば自分のやりたいように行動し我々の弱みを握り自分達に有利な条件を提示すれば良かった」


「……………。」


「ですが、我々の土俵で戦うとわざわざ申し出てきたのです。それを下手に突っぱねてまた爆破被害を生み出す方が私は愚策だと考えました。」


「……………。」


「そして残念な事に我々はあちらの正確な所在を把握出来ていません。外出自粛要請で軟禁状態の『カウサ』達を刺激するのは危険です。しかも捜索エリアは一番危険な北エリア。下手に刺激すればさらなる混乱を生み出す恐れも出てきます。」


「それはそうですが………」


「そして先程『クリエイト』の条件として、あちらの名前と容姿を公開することを条件としました。それさえわかれば居場所はすぐに特定出来ます。」


「幕僚長の仰ることはわかりました。ですがこの『クリエイト』。負ければ世界を根底から揺るがしかねません。もし負けたら…………」


「責任は私にあります。皆さんが背負う責任は一切ありません。」


「幕僚長………。」


「あとは彼を信じるのみです」


「渡新…………」


「彼を司令部総員でバックアップします。」


「……………了解!!」




「『クリエイト』ですか………」


「そうです。1対1で決闘してもらいます」


「了解です。場所は?」


「待って渡くん。」


「?」


「『クリエイト』の場所に向かう前にこちらに寄ってください」


「これは…………幕僚長!」


「司令部総員。貴方の勝利を信じています。」


「必ずご期待に添えてみせますよ」



北エリアにあるとある演習場に、2体の『イシュタル』が対峙した。


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