不穏な気配

第33話 囚人の反逆

それは突然起こった。


「各エリアの北へ繋がるルートは全て封鎖してください」


「派遣した保安隊全滅」


「部隊の再編を急いで下さい。格納庫は?『イシュタル』は無事ですか?」


「現時点で奪取されたと報告はありません」


「幕僚長。他のエリアに非常事態宣言を発令しますか?」


「いえ、状況が伝われば触発され他のエリアでも加担する者が出てしまう恐れがあります。事態の対処は我々のみで実施します。各エリアには外出自粛要請を発令してください」


「わかりました。幕僚長」


(問題を起こしているのは・・・・・彼から報告のあった人達で間違いないわね。さてどれだけ早く鎮圧出来るかしら)





ブーブーブー


スマホのバイブ音が鳴る。鳴りやまない音で目を覚ます新。


(やけに煩いな、なんかこのスマホだけじゃなくて他の端末からも鳴ってるような)


画面を確認すると


【外出自粛要請】


見慣れない文字が表示されていた。


「外出自粛要請・・・・・なんだこれ?外には出ないでってなんで急に」


コンに連絡を取る。


「おはようコン。早速なんだけどコレなにかわかるか?」


「おはようございます新さん。いえこんなこと初めてです」


「そっか、なんだろうな急に」


「僕達の知らないところで良くないことが起きているかもしれません」


「?。なんでそう思う?」


「今現在外にいると危険な状態あるいは司令部側で僕達『カウサ』に知られたくない不都合な事が起こっていると僕は考えます。」


「そうか。それってなんだ?」


「そこまではわかりません。大人しく自宅待機している方がいいと僕は思います」


「それはそうだよな、悪いなコン朝早くに電話して」


「いえ、では」


通話を終えると隣から扉が開く音がする。


「おい山内。お前今外出自粛要請出てるんだぞ、お前も確認したろ?」


「渡・・・・・。確認はした。しかし今日は妹との大事な約束がある。必ず今日中に果たさないといけない約束だ」


「無理するな、病み上がりなんだから」


「私にとって真由があの子の笑顔が全てなの」


「ったくらしくない感情的な行動だな。俺もついて行ってやるよ」


「いいわよ別に、こういうの違反すると処罰されるわよ」


「俺がそういうの気にすると思うか?それに今外でなにが起きてるかわからないのに退院してまもないお前を1人で町中歩かせるわけにいかない」


「・・・・・好きにしなさいバカ」


閑散とした町中を歩く2人。お店も閉店している場所ばかりだ。


「やっぱ止めたほうがよくないか?明らかにいつもと違う雰囲気だ」


「まだ町を歩き出したばかりじゃない」


「見るからに山内。お前の表情が辛そうなのも気になる」


「私は、だい、丈夫」


(既に息切れしてるじゃないか、本調子からほど遠いくせに無理しやがって)


「ほら」


新は左肩を差し出す。


「少しは楽か?」


「………ありがとう」


静かな周囲の影響か黙々と目的地を目指す2人。


パン、パン、パーン


「なんだ!?今の」


「銃声………」


「まさか、俺達『カウサ』は『カルケル』内での凶器は所持出来ないんだろ?」


「そのはずだけど、今のは間違い無く」


ドゴーン


爆煙と共に目の前に人が吹き飛んできた。身体が爆煙に反応し咄嗟に真緒を庇うように抱きしめ近くに身を隠す新。


「ちょっと、渡。」


「っ!ごめん」


「いや、ありがとう」


少し顔を覗かせると迷彩服を着た人が倒れていた。


「国防軍の軍人?」


「あの人達がこの町を出歩くなんて今まで無かったけど」


建物の影から男が1人銃を持って姿をみせる


「貴様ら、今なら司令部も寛大なお気持ちで貴様らの行いを無かったことにしてくれるはずだ………これ以上は止めろ」


「………伍長さんわかって無いね。俺達はその司令部………いやもっと上で踏ん反り返る存在に対して鉄槌を下してるんだよ」


「もっと上だと」


「そうさ余命僅かの伍長さんには特別に教えてやるよ…………」


「!?よせやっと手にした………」


頭を撃ち抜かれ言葉が途切れる伍長。


「こちらd-3、Dエリアはもぬけの殻だ。すぐに制圧出来る、これより予定通りプランHに移行する。」


(プランH………なにしようとしてるんだあいつ)


「どうやらいなくなったみたいだな」


「プランH………制圧するって言ってたわね」


「あぁ、あれはどうみても『カウサ』だよな」


「この町には『カウサ』しかいないのは当然だけど、あの男見たことないわ」


「別のエリアの人ってことか?」


「だとしても『カウサ』は自分の所属エリア以外移動出来ないわだからそんなこと非常事態でもない限り」


「!?」「!?」


「だから外出自粛要請か」


「他のエリアで反乱が起きた事を司令部は私達に知られたく無かった」


「でもなんで俺達に知られたくないんだ?」


「私達『カウサ』は犯罪者………つまり罪人よ。でも全ての人間がその罪を【罪】と認めているとは限らない、貴方みたいな他者から見ても同情を貰えそうな罪の人もここには大勢いるわ」


「その人達が今、反乱を起こしたと」


「まだ私達は一番罪状的に軽いエリアにいるからそんな人はあまりいないでしょうけど北エリアはどうかしらね?」


「確か死刑囚とかが入るエリアだよな?」


「謂れなき罪、冤罪でそのエリアにいる人も恐らくいるでしょう。そんな人達が燻っていたとしたら」


「命懸けで最後に報いようってか?」


「もしもの話しだけどね」


「馬鹿野郎だ。そんな俺達に残された道としてこの『パラテネ』があるんじゃないのかよ?」


「私達はそれで生活が成り立っているからそう思えるわ、でもそうじゃ無い人………例えば貴方に会う前の金藤くんみたいな人はどう?」


「…………。」


「生きる道が残させていると言ってもそこは弱肉強食のこの世界。弾かれてしまっている人達がいるのも確かよ」


「そういう人達がこの反乱を企てたか」


「裏で力のある人間が操っているんでしょうけどね」


「どうする?」


「………止めるわよ」


「止めるたってお前」


「反乱を起こした人達の真意はわからない。けどこんなやり方間違ってる。」


「…………。」


「それに、少なくもとこのシステムは罪を犯した私達がまだ誰かの為に役に立つことが出来る機会を与えてくれている。やり方はどうであれ切り捨てられてもおかしくない私達がこうして『いるべき世界』のような生活が送れているのもこの『パラテネ』というシステムのお陰よ」


「確かにそうだ。………止めよう俺達で」


「渡…………」


「ただ、ただでさえ病み上がりの同伴者がいるんだ。無理だと思ったらすぐに手を引くからな」


「えぇ、わかってる」


「じゃあ追うぞ。行けるか?」


「大丈夫。」


「…………とは言っても何処へ向かう?幕僚長に連絡したら俺達処罰されるし」


「さっきあの男が言っていたプランHを導き出すしかないかもね」


「…………ハンガー」


「えっハンガー?」


「武力制圧をする上でこの世界で一番力を示すのに手っ取り早いモノは?」


「それは『イシュタル』………!?」


「格納庫を制圧されたらマズいんじゃないか?」


「急ぎましょう。あの男の向かう先にも格納庫に繋がっているわ」




2人が推測した格納庫では激しい銃撃戦が繰り広げられていた。


「やつらにこれを渡す訳にはいかん。なんとしても死守だ」


「へへへっヘハハハー」


「全員!距離をとれ!!」


粉砕する身体………


「自爆特攻だと!?馬鹿野郎。この世界ならまだ生きる道が残されてるってのに」


「小隊長マズいです。反乱者の一部が先程のように爆弾を身に纏いこちらに特攻してきています」


「…………『イシュタル』を傷つけるな、なんとしても起爆前に特攻してくる者を無力化しろ」


ダッダッダッ…………


上空からの機銃掃射で反乱者が一掃される。


「ここは無事か?」


「大島三佐!何故こちらに」


「幕僚長からの指示でな、ここはなんとしても守りきるぞ」


「ハッ!」


「状況はどうなっている?」


「現在反乱元である北は完全にあちらに制圧され西、南は奮戦中まだ善戦のようです。ですが東が約7割を制圧されています。」


「そうか、東は棄てるか………」


「少佐!あちらの増援のようです。お気をつけください。奴ら自爆特攻をしてくる者達がいます」


「!?。人の命をなんだと思ってるんだ!あいつらは!!」


(我々国防軍に『イシュタル』に乗る権限を持つ者はいない。かつての我が国の過ちから強大な力を必要以上に軍に持たせない為だ。………その方針が裏目に出る日が来るとはな、しかし今は失策をボヤいている場合では無い。まだ静かな他のエリアの『カウサ』がこの騒動に気がつき傾倒する前に対処しなければ)


「これはこれは大島三佐自ら指揮をされるとは驚きました。」


「流川学(るかわまなぶ)。やはり貴様も加担していたか」


(やはりだと………我々の情報が既に司令部の元に届いていたのか?いったい誰だ?)


「快楽殺人を犯した貴様にまだ国の為に働ける手段があることを光栄だと思っていて欲しかったがな」


「ふざけるな、俺の人生は俺のモノだ、国やましてや貴様達飾りの軍隊の身代わりになる為に生きてるんじゃねーんだよ!」


「お前らの裏で手を引いてるのは誰だ?組織か?国か?」


「知りたければ貴様らの大好きな国家権力でもなんでも使って調べやがれマヌケ」


(組織的な行動なのは間違いなさそうだな………んっ?何故あいつらがあそこに)


「…………大島三佐にバレたかもしれん」


「えっ」


「目が合った」


「どうするのよ?よりによって一番見つかっちゃいけない人じゃない!」


「どうするよ?」


「貴方・・・・・待って。これはチャンスよ」


「えっ、なんで?」


「司令部側に『イシュタル』を動かせる人間はいない。つまり司令部側はパイロットを必要としているわ」


「なんであいつら動かせないんだよ」


「それはわからない。けど私達に『クリエイト』を委ねていること、それに今すぐそこに形勢逆転の切り札があるのに、使おうとする動きすらないことからも、十分考えられる仮説じゃないかしら?」


「なるほどな、じゃあ俺達があっちに合流出来れば」


「ええ、この状況を打開出来るはず」


「・・・・・よし」


「ってなにしようとしてるのよ」


「なにって強硬突破だよ」


「馬鹿なこと言わないで、ここは慎重に対策を」


「むこうと示し合わせも出来ないのにどうすんだよ?」


「それは・・・・・」


「おい目を瞑れ!」


突然辺りが激しく輝き出す。


「!?」


(閃光弾・・・・これなら)


「チャンスだ!」


「ちょっと渡!」


「病み上りはそこにいろ」


目を閉じながら一直線に走る新。


(スーハー・・・・・。奥の気配は恐らく大島三佐達。ってことはこの気配は邪魔なやつらか)


「グハ!?」


「なんだ!?」


「突然殴られた」


「意味わからねーことを・・・・ブフォ!」


「なんだ!なにがいるってんだ」


「・・・・・馬鹿野郎発砲するな!誤射して味方を撃ったらどうするつもりだ」



「驚いたな、閃光の中あの距離を走ってくるとは」


「『イシュタル』を使わせてくれ三佐」


「・・・・・許可するとでも」


「だから閃光弾で俺達をここまで来させるお膳立てをしてくれたんだろ?」


「勘違いも甚だしいな渡新。この隙に奴らを制圧するつもりだったんだが」


「・・・・・誰も隊員が対策してないのに?」


「・・・・・」


「『イシュタル』ならこの状況を打開どころか早期終結も可能だとそっちは見てるんじゃないのか?」


「頼むよ三佐!」


「・・・・・・大友軍曹をすぐにここに呼べ。」


「三佐。ありがとうございます。」


「渡。貴様」


「!?」


「失敗は許されないからな」


「それはいつものことでしょ」


「フン。」


切り札を動かす手段を手にした司令部。反撃の狼煙が今上がる!


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