第32話 剣姫の過去
「ここは………」
真緒の身体は所々包帯に巻かれベットの上にあった。
「気がついた?」
花を入れ替えているレナが視界に薄っすら入る。
「幕僚長………ここは」
「東エリアの病院よ。どこまで覚えてる?」
「『ブリタニア王国』の『イシュタル』に囲まれて、防戦一方になってそれで………」
「ごめんなさい」
深々と頭を下げるレナ。
「そんな、幕僚長やめてください。」
「正直あの『クリエイト』私も懐疑的だったわ。なんの為に命懸けで貴女達に戦ってもらう必要があるのか」
「それが私達の義務ですから」
「………山内さん」
「どれくらいで退院出来そうですか?」
「3日間は安静が必要ね、ただ『イシュタル』を確認したところ左腕と右脚が破壊されてたから退院してももしかしたらリハビリ。あるいは最悪後遺症が残るかもしれないというのがお医者さんの見解よ」
「そうですか………」
「…………!。すこし外すわね……………わかりました。すぐに」
「どうされましたか?」
「政府から『クリエイト』が発令されたと連絡を受けたからいかなくちゃ」
「御見舞ありがとう御座いました。幕僚長」
「気にしないで私がしたくてやってるんだから」
「はい。」
「あとで渡くんも来ると思うわ」
「えっ」
「彼、帰国して早々貴女を抱えて病院まで走って来たそうよ」
「そうなんですか………」
「そんな感じで、今は今回の『クリエイト』の報告書提出で缶詰めって訳」
「あの馬鹿………」
「お礼はちゃんとしておいた方がいいわよ」
「わざわざ教えてくださり、ありがとう御座います」
「では、お大事に」
レナとそんなやり取りをして暫くして新は病室を訪れた。
「入っていいか?」
「どうぞ」
「調子はどうだ?」
「お陰様で特に問題無いわ」
「そうか、良かった。」
「ありがとう」
「うん?」
「助けてくれて」
「ここの病院の先生達のおかげだよ」
「いや、渡がすぐにここに運んでくれなかったらもっと酷い状態になってたかもしれない。だからありがとう」
「仲間に死なれちゃ気分悪いしな!気にするな。それより何があったんだ?」
「…………。」
「山内があんなにボロボロにやられると思ってなかったから。発見した時は衝撃だった」
「貴方と分断されてからブリタニアと交戦したの。それで………」
「ローマとの挟み撃ちか?」
「いえ、彼等がローマの3機を討伐して4対1ってところねでも戦ったのは彼1人」
「アーサー·スペンサー………。」
「そう。他の3機体はただ周囲を囲っていただけ、」
「そんなに強いのか、アーサー·スペンサー」
「…………嫌な事思い出させないでくれる?」
「ごめん。安直だった」
「もう………休みたい。」
「そうか。早く戻ってこいよ」
「………。渡」
「どうした?」
「頼みがあるの」
「頼み?」
とある病室。少女はベットの角度を上げて、その時を待っていた。
「山内真由様」
窓の外を眺めていた少女はその時が来たと言わんばかりに元気良く反応する。
「山内真緒様…………の友達を名乗る方が真由様との面会を希望させてますが、いかがされますか?」
「お姉ちゃんの友達?…………通してください」
「ピピッ!了解しました。」
少しすると男が1人病室にやって来た。
「真由ちゃんでいいかな?」
「そう、ですけど………」
「あっ突然ごめんね、真緒さんに頼まれてやってきました。渡新と言います」
「渡さん………なんの用でしょう」
「いやぁー。お姉さんには随分お世話になっててね。いつもこの時間には妹さんである貴女に会いに行ってると聞いたんだけど。今回どうしても外せない仕事が入ったってことで、代わりに話し相手を頼まれました。」
「お姉ちゃんが…………」
「そう………なんです。」
「……………フフッ」
「?」
「すみません。お姉ちゃんがよく話してくれる方って貴方のことなんだろうなと」
「お姉さんが俺の話しを?」
「はい、よく最近仲良くなった方との事を面白可笑しく話してくれるんです。知らない人の喧嘩に仲裁に入った馬鹿を見たとか、1人で突っ走る自殺志願者だとかって」
(アイツなんて話ししてんだよ)
「ありがとう御座います。渡さん」
「?」
「お姉ちゃん。自分以外の話しをすることって最近全く無かったんです。人を………嫌ってましたから」
(前に山内もそんなようなこと言ってたな)
「昔は凄く社交的だったんです。誰とでも仲良くなって、困った事になった仲間をほっとけないお人好しで凄く真っ直ぐに物事を捉えてました」
「少し聞いたよ、お姉さん自身から。裏切られるのが怖いって」
「………。」
「良かったら、なんで今の彼女になったのか聞かせてくれないかな?」
「なんで気になるんですか?」
「初めて会った時、どこか冷めてて何事にも無関心でなんだコイツって思った。でも俺の友達を影で助けてくれたり。色々助言をくれたりきっと本当の君のお姉さんは誰よりも思いやりのある優しい人なんだなって思うようになった。だから知りたいんだ。なんで人を避けるようになってしまったのか。お姉さんをもっと理解する為に」
「そういうところなんでしょうね。お姉ちゃんが前を向けるようになったの」
「?」
「お姉ちゃん。人には凄く優しいけど剣道やってたからか自分には凄く厳しい人なんです。それでいて自分の価値観を押しつけようとせず、相手に出来る限り共感しようと話しも聞くから、他者からみても好印象で。そんな自慢の姉なんです。」
(剣道……山内の戦闘スタイルはそこからきてるのか)
「そんなお姉ちゃんを暗い影に落とすあの事件が起きたのはお姉ちゃんが高校生の頃です。」
「あの事件?」
「痴漢されたお友達を助けようとして痴漢した人を捕える際に怪我を負わせてしまったんです。」
「痴漢を?」
「はい。それが相手が悪かったみたいで、聞いたところに拠るとその痴漢をした人がとある政治家のご子息だったみたいなんです。」
「………嫌な感じだ」
「その政治家に傷害事件として訴えられ、痴漢行為については揉み消され。お姉ちゃんは傷害容疑で逮捕されました」
「!?なんだよそれ」
自然と新に怒りが込み上げてくる。
「まだそれだけならお姉ちゃんも怪我を負わせたのは事実だからと受け入れる事が出来ました。」
「というと?」
「その後の周囲の反応は恐ろしいものでした。クラスメイトや教師からは冷ややかな目で見られ父はその政治家に遜りお姉ちゃんを見捨て母も父に随従するようにお姉ちゃんを居ない者として扱いました。そして………お姉ちゃんが助けたその友達からも無視されるようになりました」
今にも弾けそうな怒りを握り拳で抑える新。
「今でも忘れる事が出来ません。人知れず誰にも聞こえないように1人泣いていたお姉ちゃんの姿を」
「そんなことが………」
「かくいう私もお姉ちゃんには謝罪してもしたりない事をしました」
「君が?」
真由は頷くと、震えながら自身の過ちを語った。
「お姉ちゃんが痴漢からお友達を助けたという事実を知っていながら、両親に反抗出来ず私もお姉ちゃんを無視してしまいました」
「……………。」
「判決が出て、お姉ちゃんが居なくなって3年後。私は両親と旅行中に事故に遭いました。結果私だけが生き残りました。けど重度の障害が残ってしまって今もまだ病院生活です。身元引受人がいなくてこのままでは病院から放り出されるって時に、お姉ちゃんが名乗りを挙げてくれて私はいまここにいます。狡いですよね私。お姉ちゃんに酷い仕打ちをして自分でどうにもならない事態に陥ったらお姉ちゃんに助けてもらって」
「お姉さん。わかってたんだろうな、当時の君が本音で接することが出来ないってことが」
「!?」
(良かった!真由無事で)
(お姉ちゃん………生きてたの?)
(うん。)
(………お姉ちゃん。ダメだよ)
(真由?)
(なんで、なんで私を助けたの?お姉ちゃんが人助けをしたの知ってたのに酷く当って。お姉ちゃんを悲しませた。)
(…………真由。)
(どうして助けたの?これは私への罰だったんだよ!きっと。正しいことをしたお姉ちゃんを周りに流されて一緒に冷たく当たって、罰が当たったの!なんでそんな私をお姉ちゃん助けたの?)
(だって真由が本心でやってた訳じゃないって知ってるもん)
(!?)
(お父さんやお母さんに真由なりに私の無実を証明しようと掛け合ってくれたり、話す事を禁じられてたあの時も置き手紙を使って私を励まそうとしてくれてた貴女を私は知ってる。)
(お姉ちゃん…………ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい)
(真由。ありがとう………私を信じ続けてくれて)
真由の頬に一筋の雫が流れる。
「真由ちゃん?」
「すみません。新さんありがとう御座います。お姉ちゃんと再開した時のこと思い出してしまってその時お姉ちゃん。新さんと同じ事言ってくれたんです。」
「そうか。」
「親を突然無くし、生活環境も激変し参りそうになった私を、あんな酷い仕打ちをした私を受け入れてくれたお姉ちゃんが今また前を向いて歩き始めた事が私。自分の事のように嬉しいんです。だから新さん。お姉ちゃんを救ってくれてありがとう御座います。出来たらこれからもお姉ちゃんと仲良くしてあげてください」
「勿論さ」
「ピピ!失礼します。山内真由様、検査の時間ですご準備をお願い致します。」
「わかりました」
「そっか、じゃあ俺はこれで」
「新さん。また来てくれますか?」
「いいよ。君と君のお姉さんが許してくれるなら」
「ありがとう御座います。ではまた」
「またね」
車椅子に乗り換えた真由は上機嫌に検査へと向かった。
「よっ、さっき検査に行ったぜ妹さん」
「そう。ありがとう」
「…………。」
「なに?」
「嘘つき」
「なによ、突然」
「俺は妹さんは病気だって聞いたんだが?」
「!?」
「良い妹さんだな」
「強くて優しい子でしょ?」
「あんたも、良いお姉さんだ」
「!?………馬鹿」
「じゃあ、お大事にな」
「ねえ?また頼んでもいい?」
「あんたと妹さんがいいって言うならいつでも」
「馬鹿、わかってるくせに」
照れくさそうに病室を後にする新。真緒は新に背を向けると顔を赤らめていた。
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