第15話 アップデート

「渡、金藤。お前達そろそろ武器を新調したらどうだ?」


ある演習終了後。2人は野崎に呼び止められる。


「『クリエイト』に大分参加して、自身の特徴がかなり『イシュタル』にも反映され始めてるんじゃないか?」


「確かに」 


「そうですね」


「ここに行くと1人1人にあった武器を提案·提供してくれる」


「野崎さんは因みに」


「俺は前職の影響か、『20㍉歩型連装砲』っていう複数の弾丸を装填可能なマシンガンとグレネードだな」


(山内でいうあの長刀や以前借りた剣か)


「俺はこの後用事があるから・・・おっ山内!」


「どうしました?揃いも揃って」


「あの工房に連れて行ってやれるか」


「あの工房・・・・いいですよ」


「助かる。じゃあ俺はこれで」


駆け足でどこかへ向かう野崎。


「ついて来て」



「司令部の許可が必要って、余程重要な施設なのか?」


「まぁ戦力増強の為の工房だからね。私達『犯罪者』にわざわざ『力』を与える訳だから好き勝手にやらせるのは嫌なんじゃない?それにここ『カルケル』の外だし」


「でも始めてここに来たとき大島三佐には、『クリエイト』以外で『カルケル』から出られないって言われたぞ」


「それもさっき説明した理由と同じ。下手に『犯罪者』に知られて悪用されるのを防ぐためよ」


「ということは一応ここに来れる人は司令部から信用されているんですね」


「そうだといいわね」


工房に着くと陽気なおじいさんが出迎えに来た。


「いらっしゃい。おっ!真緒ちゃんじゃないか。どうしたんだ?」


「ゲンさん。今日、私は案内なの」


「案内?おっ誰かと思えば渡新じゃないか!?」


「どうも。工房の責任者ってゲンさんだったのか」


「おうよ!もう1人は初顔だな」


「金藤小次郎です。」


「日本国国防陸軍第8師団所属『大友源太(おおともげんた)』軍曹だ。よろしくな小次郎」


「ゲンさんは『イシュタル』の整備班の責任者なんだ」


「どこかでお見かけしたと思っていましたが、そうでしたか。いつも万全に整備して下さりありがとうございます。」


「お前さんみたいに裏方に感謝の言葉を言ってくれるヤツがいると俄然やる気が出てくるってものよ!機体の事は俺に任せな」


「よろしくお願いします。」


「でだ。ここに来たってことは2人とも第1段階を突破したってことだな」


「第1段階?」


「おうよ、お前達に合った武器の装備や『イシュタル』の調整が出来るようになった訳だ」


「段階ってことはまだこの先があるのか?」


「ある。だがそれを教える事は禁止されている。その高みに着いた者しか知る事は出来ない。」


「そうか………」


「そう落ち込むなって、新。お前なら辿り着ける」


「ありがとう。ゲンさん」


「おう!それより真緒ちゃんはそろそろ次の段階に行ってもいいんじゃないか?」


「今の装備でも充分戦えますし、気にいってるので大丈夫です。」


「そっか、まあ自分のタイミングでいいだろう。真緒ちゃんならいつでも許可が出るだろうし。ということは今回の依頼は2人のアップデートってところか、よし2人ともこっちに来てくれ」


ゲンに案内された場所にはちょうど嵌めている腕時計が収まりそうなスペースがある装置があった。


「これは?」


「お前さん達の腕時計に集約されている情報を分析する装置じゃ。安心せいあくまで『イシュタル』の戦闘データを分析するのであって、プライベートな情報は抜き出せ無い仕様になっとる」


時計を嵌める新。


「新は・・・・・なんじゃこりゃ!?お前さんよくこんな戦い方で生き残ってきたな」


「自殺志願者なんです。彼」


「ちげーよ」


「いや、データーを見ても『イシュタル』の標準装備のみでここまで近接戦闘する阿保はそうおらんわい。ほとんど自ら突撃しに行って、まるで特攻じゃ・・・・・しかもここ最近の『クリエイト』では機体が新の操縦についていけとらん時があるじゃないか」


「確かに、なんか思ったより踏み込めないとか、回避のタイミングにズレがあったり最近あるんだよな・・・・・」


「それになんじゃ、剣や短剣では突きしかしてないじゃないか、剣装備の主な運用方法は斬るんじゃぞ」


「手首ひねるより、腕を伸ばす方が得意でね」


「ようこんな戦い方で生き残れたわい。なんか空手か柔道でもしとったのか?」


「小さい時に名前忘れたけど、武道はやってました」


「ふむ、その影響かの・・・・まあ武器が無いわけではないが、問題は操作性の改善じゃ。下手したら第一段階どころか次のステップまで足を突っ込みそうな勢いじゃ。」


「よろしくお願いします。ゲンさん」


「おうよ。次は小次郎じゃな」


「はい」


コンは時計を嵌める。


「お前さんは・・・・砲撃支援など後方を担当する事が多いのか、狙撃系や砲丸系、ミサイル系の使用頻度が多いが、命中率は悪い。むしろ撃破数も他の同タイプのヤツらに比べて平均を大きく下回っておる」


「ハハハ・・・」


「このフォルダーは・・・・成程、この点で評価されておるのじゃな」


「?と言いますと」


「いや、こちらの話じゃ。お前さんはレーダー機器の性能に振って腕の悪さをカバーするか」


「はい・・・・よろしくお願いします」


自分の下された評価に肩を落とすコン。


「よし、調整に入るから暫く工房内でも見て待っててくれ」


工房を見て回る3人。周りには様々な機械やロボット、武器が見て壊れたとわかるモノから新品まで保管されていた。


「スゲー」


「これを大友軍曹がお一人で?」


「軍曹なんてムズ痒いからよせ、時々整備班の連中にも手伝ってもらうが、基本的にはそうだな俺とサポートのロボットでやってる」


「サポートのロボット?」


すると1台のロボットが3人に近づいて来た。


「ご無沙汰しております。山内様」


「久しぶりね、『テスラ』」


「こちらのお二人はお初にお目にかかりますね。私TSR-009名を『テスラ』と申します渡様、金藤様よろしくお願い致します。」


「よろしくな『テスラ』」


「テスラ!油を売ってるんじゃない。こっちを頼む」


「了解です。マスター」


ゲンのサポートへ向かうテスラ。


暫く3人で見て周り、各々の興味へと足を運ぶ


「凄い場所ですね、ここ」


「そうなのか?」


「えぇ、10式戦車に三菱F-2、護衛艦むらさめ……ここは兵器の博物館ですか?」


「兵器研究の観点と俺の趣味でな退役した兵器は一通り揃ってる。世界中のモノがな。この世界では本来お役御免の展示物さ」


「そうですよね、本来いるべき世界では兵器は必要無いですものね」


「でもゲンさん、なら敢えて残しているのにはその他にも理由があるの?兵器研究ならデーターがあるし趣味にしたって本物を所有する必要もないんじゃないか?」


「………」


「それにこいつら動力入れたら動きそうだ」


「新の指摘はもっともじゃ、ここに置いてあるのは動力さえあれば全て動く、そしてここにこのような兵器があるのはいざという時の為じゃ」


「いざ?」


「この世界の形が永遠に続くとは限らない。もしこの世界の形が崩れていくなかで力が必要になった時の保険じゃ」


「『イシュタル』はダメなのか?」


「そもそもこの世界の形を形成しておるのは『核の否定』から入っとる。特にこの国はな、だから尚更別の力がいざという時必要になる可能性があるんじゃ」


「成る程」


「そろそろいいか?お前さん達が乗る際のアップデートをしておるんじゃ、話しかけられては進まん」


「あっ、すみません。源次郎さん」


ふと辺りを見渡す新。彼女はある武器が保管させた場所にいた。


「刀好きなのか?」


「好きというか、私に一番合う武器だから」


「確かに、刀振ってる山内って様になるんだよな」


「!?なによ突然」


「気になるのがあるのか?」


「まぁねこの刀。私が使ってる長刀より刀身は少し短いけどこの材質。重さは今使ってるのと変わらないのに切れは今のより断然良さそうなのよね」


「へぇーそうなのか」


「ねぇテスラ今大丈夫?」


「はい」


「ちょっと比較して欲しいんだけど」


「マスター」


「比較なら問題ない。行ってやれ」


「わかりました」


山内が比較対象を指定し腕時計をかざすと僅かな時間で比較が終わった。


「こちらの刀は現在山内様が使用している物と比較して刀身は3cm減少。重量に変化無し切れ味がランクA→A++になります」


(すげー。言い当てた)


「これ購入するわ」


「了解です。……………手続き完了しました。現在の装備と変更されますか?」


「いえ、予備の刀として装備するわ」


「…………現在の山内様の『イシュタル』に武装の空枠あり、そのように変更します」


「ありがとう」


「ここで、そんな手続きも出来るのか」


「そうよ。武装で困ったことがあれば、この工房を訪ねるといいわ」


「おーい、待たせたのー」


シュミレート施設に案内される二人。


「ここでは自分のデーターを反映してシュミレートが出来る。動かしてみてくれ」


シュミレーターに乗る2人。


「まず新じゃが、腕を見てみてくれ」


「これはメリケン?」


「馬鹿モンそんな幼稚な武器じゃない。ナックルグローブじゃ。近接戦というより肉弾戦にした方がお前さんの個性をより発揮出来ると判断した。対象物に拳が当たる瞬間に短剣が突きだす仕組みになっておる。試してみてくれ」


「おー確かに、殴っても一撃で相手を戦闘不能に出来る訳だ」


「あとそのナックルグローブはマシンガンレベルの弾丸ならガード出来る強度だ。防御にも使える」


「すげー。ありがとうゲンさん」


「そして最大懸念案件の操作の追従性じゃが本来平均的に供給される設定の『ニュートロン·アクセラレータ』を四肢の関節への供給率を70パーセントに設定した。これで他の『イシュタル』に比べて人に近い動きをするはずじゃ」


「おお、機体を思ったように動かせる!」


「よっしゃ。次は小次郎じゃが、レーダーなどの機器の感度や性能を全体的に改修した。他の『イシュタル』の倍の感度を手にしたはずじゃ」


「確かに、かなり先まで索敵出来ます」


「そしてなんといっても最大の変化は儂の試験開発中の装備を装着させて貰ったことじゃそれは……………」





「まあこんなところだな」


「ゲンさんありがとう。」


「おう。生き残ってまた来いこの工房に」


「はい」


約1日かけた『イシュタル』の最適化。『クリエイト』にどのような嵐を巻き起こすのか、調整したゲンは2人の後ろ姿を見送りながら期待を膨らませた。








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