パラテネの在り方

第10話 選別

その日、司令部からの招集で新、山内、コン、『野崎亮平(のざきりょうへい)』という男性そして『緑川麻里子(みどりかわまりこ)』という女性の計5人が演習場に呼ばれた。


「本日呼ばれた5人ですが、次回開催される『クリエイト』に招集される候補の方々です」


1人喜ぶコンを尻目に冷静に聞く4人


「……あれ?僕の反応間違ってますか?」


「初めての招集だろ?それでもいいと思うぜコン」


「珍しいですね、事前に招集対象者に声がかかるのは」


野崎がレナに疑問を投げ掛ける。


「そうですね。普段は担当エリア全員に一斉に通達するので珍しいかもしれませんね」


「担当エリアってどういうことだコン?」


「『カルケル』には東西南北で4つのエリアに分けられているのは知ってますよね?実は『クリエイト』実施機会を均等に与えられるように東→南→西→北の順に『クリエイト』への参戦機会が与えられているんです。つまり『クリエイト』への招集は普段なら東エリア全体に通達されるはずなんです」


「成る程………幕僚長よろしいですか?」


「あら、何かしら渡くん?」


「候補者ということは確定では無いのですか?」


ピリついた視線が新に向けられる。


「察しがいいわね。そうです。今回の『クリエイト』に参加出来る『イシュタル』は4機体………つまり1人は残念ながら参加出来ません」


更にピリつく演習場。


「戦って決めるのですか?」


「残念ながらそうなってしまいます。」


「決め方は?」


「彼等とサバイバルゲームをしてもらいます」


「サバイバルゲーム?なんで!?」


「勿論、次のクリエイトに関わってくるからです。5人でターゲットを索敵し排除してください」


ターゲットは大島三佐。


(あいつがターゲットか………面白い)


「では10分後に始めますので各自準備を」


準備中の5人、沈黙をコンが破る。


「山内さん。これってどういう意図があると思います?」


「さぁ、こんな事初めてだから分からない」


「あんた見た所初めてのようだけど、随分余裕そうね?馴れ合ってる時間は無いんじゃない」


見慣れないコンに緑川が話しかける。


「緑川さんでしたっけ、金藤小次郎です。よろしくお願いします。………余裕は全然ありません。ただこの沈黙に耐えられないといいますか、落ち着かなくて」


「あらそう。なら安心して貴方の出番はまずないわ」


「えっ、どうしてですか?」


「どうしてって、ターゲットは私が仕留めるからよ、あんた達は雑魚をどうにかしてくれたらいいわ」


「そうですか………それは助かります。ハハハ」


「ハッキリ言ったらどうだコン。5人でチームを作ってやりたいんだろ?」


「それは!」


「チーム?はっバッかじゃないの?『クリエイト』は国の国際問題の代理戦争とか言われてるけど私達『カウサ』には関係ないわ、私達の生活………命が懸かってるのよ。ここにいるメンツだって共通の目的の為に一時的に組むだけよ!あんただって自分の生活がかかってるんでしょ?ましてや今回はその生活を懸けた『クリエイト』への参加権を賭けてるのよ!邪魔するようなら容赦しないから」


「いや、そんなつもりじゃ」


「おいおいそんなにキツく当たるなよ仮にも共通の目的を目指すんだろ?」


「なに?最近ぽっと出の司令部から贔屓されてる方は随分余裕なのですね」


「なんだと誰が贔屓だって?俺の実力だ」


「たまたま『イシュタル』をすぐに操作出来て、たまたま『クリエイト』に参加出来た分際で実力?虫唾が走る!」


「テメー」


「あら暴力?言い返せないから力でやろうって?女だからって舐めてると痛い目見るわよ」


「辞めないか緑川。すまんな渡だったか、最近『クリエイト』に参加出来なくて久しぶりだから気が立っちまってるんだ緑川は」


「なっ!」


「野崎……だっけ?いや俺も熱くなり過ぎた」


「わかってくれて助かる。金藤だったか?何が気になるんだ?」


「はい、皆さんの話している感じを察するにこのようなケースは初めてなんですよね?」


「そうだ。」


「サバイバルゲームって僕はPC上での経験になるのですがチームワークが重要になってくるんですよ」


「ほう」


「チーム戦になるので情報交換をしながら役割を決め同じ目的を達成する。今回の目標は大島三佐ということになっていますが、本当に達成すべきなのはそこじゃないと思うんです」


「成る程……確かに4人メンバーを選抜するのに対象が1つというのは些か選考無理が生じるな。なら本当に達成すべきはなんだと思う金藤?」


「それは………わかりません。ただ1つ自分で確信があるのは敵は大島三佐だけじゃないと思います。例え始まった段階で見えるのが大島三佐だけだとしても。潜伏してると考えた方がいいかと」


「ふむ」


「俺からもいいか」


「どうした渡?」


「生半可な作戦では対象を排除出来ないと思うぜ」


「何故だ?」


「大島三佐って自衛官ってことはつまりサバイバルゲームのプロだろ、それにコンが言うことが合っていると仮定するなら敵は全員その手のプロだ」


「…………。」


「『イシュタル』の戦闘なら俺達に分があると思うけど、生身の対人となると一筋縄でないかないんじゃないか?」


「確かに、そう仮定するなら残り3分でしっかり作戦と対策を練らねば2人はどう思う」


「私は貴方達の考えに従うわ」


「なんだよお前も意見ないのか?」


「その手のこと苦手だから任せる」


「緑川は?」


「…………フン好きにやれば」




「では模擬戦始め」


レナの合図と同時に殺風景の演習場が森林へと変わる。


「えー景色が変わった!?」


「いちいち驚いてんじゃないわよチキン」


「すみません」


「だが景色を森林にしたということは………」


「潜んでるんだな」


「その見立てで間違いないだろう。じゃあ作戦通りA班B班に分かれるぞ」


2つに分かれた5人


「こちらB-1。B-2とともに所定の位置に着いた。ターゲットは目視出来ず」


「A-1了解。そのままアシスト頼む」


「B-1了解。」


「はー、ったくなんでこんな軍隊みたいなことやってんだか」


「そういうな。こうゆう緊迫感俺は好きだぜ」


「右に同じ」


「はいはい男子で勝手に盛り上がってください」


「こちらB-1。7時の方向からそちらに近づく影あり」


「A-1了解。A-2トラップ起動」


「了解!………トラップ反応確認。」


「B-2どうだ?」


「こちらB-2。3人かかりました」


「こちらA-1。了解した。引き続きB-1のフォローを頼む」


「了解です」


順調に進む3人、しかし目標を見つけられない。


「マズいなトラップがそこを尽きる。B-1確認出来る影は」


「確認しているだけでも10、尚その中に目標がいるかは不明」


「なあ野・・・失礼A-1。一つ提案がある」


「なんだA-2・・・・そんな作戦成功するのか?」


「このままじゃ埒があかない、勝負に出てもいいんじゃないか」


「・・・・。全員聞いてくれA-2より作戦の提案があった皆の意見が聞きたい」


「やるだけやってみれば?リスク少ないし」


「こちらB-1。異論無し。ただもうちょっとまともな案はないのかと疑問はある」


「うるせー」


「こちらB-2。そうですね仕掛けてみても良いと思います」


「よし。ではA-2の作戦を採用。ポイント23に合流し作戦に移るぞ」




(開始から60分経過。そろそろ動きが欲しいわね・・・・)


「幕僚長。少しよろしいでしょうか?」


「あら、大島三佐秘匿回線で何かしら?」


「この演習に意味はあるのでしょうか?」


「私としては意図を持たせたつもりなんだけど」


「自分にはとても幕僚長の望む結果になるとは・・・」


「そうかしら?私としては第一段階はクリアだけど」


「そうですか・・・・」


「大島三佐。集中して貴方は彼等の攻撃対象なのよ」


「了解。通信終了」


(確かに付け焼刃の軍事作戦のようなことで隊員から逃げきれてはいるが、所詮素人の浅知恵。どう足掻いても私を倒すなど)


「リーダー!こちらハント3。敵の隊員と思われる人物がポイント10で孤立している模様」


「了解した。確認する」


(あれは・・・・渡新。逸れたか?自己主張のし過ぎで見捨てられた?いや奴は『カウサ』の中でも協調性を重んじている方だそれは考えにくいか。何故突如奴だけが姿を見せた)


「リーダー。どうしますか?」


「全員様子を見る。下手に手を出せば残りの4人に位置を知られる。明確な目的がわかるまでは監視だ」


「了解。」


(何をしているんだ)


「…………ポイント4、ポイント8、ポイント12、ポイント16に攻撃」


(なに!?我々のポイントを割り出しただと!!)


「リーダー!」


「構わん集中砲火だ」


「あー」


「すみません。リーダーやられました」


(なっ!いくら我々の位置を把握したとはいえこの対処スピードは速すぎる!ある程度山を張っていたのか)


「はーい。お疲れ様ちゃんです」


「………いつの間に」


「いくら私達が素人だとしても、見つかったと分かった時点で移動すべきでしたね三佐♪」


「そうだな。私としたことが見くびっていたよ」




演習終了



AIのアナウンスが響き森林がもとの殺風景に戻る。


「皆お疲れ様。大島三佐も協力ありがとう」


「まさかあのような手で敗北するとは思いませんでした」


「それには私も同意見ね。渡くんはあの時何をしていたの」


「あの時?」


「1人的になると言わんばかりに立っていたじゃない?ポイント10で」


「特に何もしてないですよ。少し集中して物音を聞いてはいましたが、1人のこのこ出ていけば囲まれると予想はしていたので、大体あそこにいると考えた前提で大雑把な位置情報を仲間に伝えて。仲間が迅速に対処しただけのことです」


「そして我々は渡が目を引きつけている隙に実行前に予想していたポイントの裏側に回って合図と同時に攻撃をしたという流れです」


「成る程ね。それにしてもよく皆そんな賭けにのれたわね」


「自分は渡が武道を習った経験があるということで、そういった集中した時に澄まされるといわれる感覚に賭けました」


「隠れながら探すのも飽きてましたし」


「仮に彼がやられても問題はありませんでした」


「そこは問題視しろよ」


「僕は渡さんが『イシュタル』に乗れるのは感覚を研ぎ澄ますことが得意なのかと思っていたのでもっと人の気配とかを把握していたのかと思いました」


「俺はそんな武道の達人じゃねーよコン」


(『イシュタル』とのシンクロ率、感覚を研ぎ澄ます、武道………まさか!?)


「幕僚長?」


「いえ、なんでもありません。では結果を発表します」


固唾を呑む5人………


そして久しぶりの『クリエイト』を迎えた。

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