第9話 悪足掻き

「なあ、近々『クリエイト』があるって本当かな」


「かれこれ2ヶ月か、そろそろないと俺達生きていけないよな」


「ってお前出られる可能性あるのかよ」


「いや………無いわ」


「だよな」


まことしやかに噂される『クリエイト』実施の噂に『カルケル』中の人々が期待を寄せている。


そんな世間の関心を余所に、新はとある場所へ向かっていた。


その場所へついたと同時に扉が開く。


「退院おめでとうな、コン」


「新さん!このたびは本当にありがとうございました。」


「よせよ、俺がやりたかったことをしただけだ」


「でも新さんに助けてもらえてなかったら、僕もうこの世にはいないかったので………ほんとに………ありがとうございまじだ」


「おいおいこんな真っ昼間に目立つところで泣くな」


「ずみまぜん」


「それよりもあの女にはちゃんと御礼は言えたのか?」


「あの女………山内さんですか?入院中にお会いしてないのでまだです」


(今日は妹さんの見舞いじゃないのか)


「何故わざわざ山内さんが病院に来るんですか?」


「いや、そのー結構コンを痛めつけたの気にしていたからさ。もしかしたらと思って」


「そうでしたか、そういえばなんで新さんはこちらに?」


「なんでって、お前を迎えに行く為に決まってんだろ?」


「それはとても嬉しいのですが………尚更何故?」


「今町中が『クリエイト』の話しで持ちきりなんだ」


「『クリエイト』!そうですか………でも僕病み上がりですし選ばれる可能性なんて」


「だからだよ、今から特訓するぞ。俺と一緒に」


「えっ今からですか?」


「当たり前だろ、いつでも出られるように準備するんだよ」


「いやいや今からと言われましても」


「お前。退院する前から一文無しだったのにこれからどうやって生活するつもりだ?」


「それは………確かに」


「なら『クリエイト』が始まるまでに準備しておけばいいだろ!どうせこのままじゃ野垂死ぬんだから」


「新さん………」


「わかったか?なら行くぞ!」


2人は早速その足で訓練場へ向かう。


「ピピッ、渡新様。本日訓練場の使用予約申請を2名で確認。もう1名の時計スキャンお願いします。」


「ほら、コン」


「訓練場の予約まで………」


「まぁこれも山内の受売りだ」


「そうでしたか」


「そんなこといいから早くスキャンさせろ!時間が勿体無い」


「はい!」


シュミレーションルームに向かう2人。


「あれ?誰かいますね」


「『クリエイト』が近いから俺みたいな悪足掻きをしておきたいんだろ」


丁度終わったのかシュミレーターが停止し人が降りてきた


「あっ………」


「山内さん」


「…………貴方達も訓練?」


「はっ、はい!そうです。…………山内さん、入院費ありがとうございました!」


「…………気にしないで、私の気まぐれだから」


「ありがとうございます」


先程同じ返しを聞いたコンは目移りする


「なんだよ、コン」


「いえ、なんでもありません」


「なあ、お前も一緒に手伝ってくれないか?出来れば次の『クリエイト』コンも出て生き残って生活が出来るようにしたいんだ」


「言ったでしょ?彼を助けたのは気まぐれだって、彼の訓練を手伝う義理はないわ、じゃあね」


飲み物を片手に部屋を出る山内。新は態度に不満を抱きながらも、切り替え訓練を始めた。


「まずはシュミレートで対戦を繰り返そう」


「よろしくお願いします!新さん」





「凄いな新さん。約3ヶ月でここまで『イシュタル』を操るなんて」


「機体を自分だと思い込めばいいんだろ?それが出来たら動かすことは簡単だろ」


「それってかなり難しいことですよ?」


真顔で返答する新にコンは驚きを隠せないでいる。


「あー昔武道をやってた影響があるかもな。よく瞑想やイメトレをして実戦してたし」


「瞑想やイメージトレーニング………」


「小学生の頃だったから、流派っていうのは忘れたけど」


「そうでしたか、もう1回お願いします。」


「その意気だコン。来い!」





自分の日課を終えた山内。ふと演習場を見ると2機の『イシュタル』が模擬戦を行っていた。演習場の壁を利用したがら身軽に動き翻弄する『イシュタル』。もう1機は明らかに翻弄されていた。


「コン。機体と自分を1つにしろ!『イシュタル』はロボットじゃない。[もう1人の自分]だってイメージするんだ」


「はっ、はい!………ぐぁ」


鋭い蹴りがコンの『イシュタル』の背後に直撃する。


「一旦休憩するか?」


「まだまだ、お願いします。」


「あまり根気詰めすぎるのも良くないぞ、コン」


「でも!『クリエイト』に参加出来なければ、結局僕はまた野垂死にかれる………。新さんの恩に報いたいんです」


「コン………」


「教える方の教え方に問題があるんじゃないの?」


山内の声がスピーカー越しに響く


「なんだ。干渉する気はなかったんじゃなかったのか?」


「あんたの感覚的な指導でついていける人がいたら、それは奇跡よ」


「なんだと!?」


「『イシュタル』は長時間パイロットと行動することで徐々にこの腕時計に情報を蓄積しパイロットに合わせた最適な動きをするの、一夜漬けで動かそうなんて無理よ」


「ならなんで俺は動かせる?」


「だからあんたが特異例だって言ってるのよ」


「もしかして、山内さん義務訓練以外もずっと『イシュタル』で訓練しているんですか?」


「………特に用事が無い時は基本的にそうね。機体のアップデートや装備が新調された時は特に入念にやるわ」


2人は山内が何度も『クリエイト』に参加し生き残る理由に納得した。


「頼む山内。お前の力を貸してくれ」


「だから嫌よ、嫌」


「じゃあ、この前の模擬戦は俺の勝利ってことでいいな」


「…………なんですって」


不穏な空気を察知するコン。


「冗談じゃないわ、あんなの続いてたら絶対私が勝った」


「いや、俺があの時点で攻撃して勝利だったな」


「強がりもほど程々にしなさいよ」


「なんだ負け惜しみか〜」


「いいわよ!やってやろうじゃないの、私があんたより丁寧に金藤くんに教えて2度と吠え面かけないようにしてあげるわそしてあんたを負かす!」


「望むところだに負けて屈辱的だって面を拝ませてもらうよ」


「ちょっと待ってなさい。準備するわ」


「新さん。これは流石に」


「なにがともあれ経験者から教われるんだ。ラッキーだと思おうぜ」


「そうですね………」


苦笑いするコンに準備を終えた山内が近づく。


「金藤くん。1時間でみっちり叩き込むわよ」


「はっ、はい!」




「1時間待ちくたびれたぜ、どうだコン」


「不思議と自信が湧いています。」


「そうか、よし来い」


再び模擬戦を始める2人…………コンの動きは見違える程変わっていた。


「やったなコン!いい感じじゃないか」


「はい!これなら新さんとも戦えそうです!」


「かかってこい!!」


(えっ………そんなシステムあるんですか?)


(システムって大層なモノじゃないの、最近実装されたパイロット補助機能『ムサイド』。パイロットになる人材を早期育成する為に作られた機能。これまでの『クリエイト』で収集した『イシュタル』の動きを初心者パイロット向けに最適化したモノ。パイロットの思考と蓄積されたデーターを元に行動パターンを機体側が提示して。パイロットをアシストするのよ)


(凄い、こんな機能があったなんて)


(まぁ最近の講義で初めて出てきたし、強調もされてないから知らなくても無理ないわ)


(こういう情報を聞き逃さない為に、山内さんは毎回しっかりと講義を受けてるんですね)


(まぁね、生き残る為にも些細な情報や細かい情報の変化に気がつくことは大切だからね)


(やっぱり凄いな山内さん。これだけ実力をつけても常に初心を忘れない)


(そんなことどうでもいいわ、この機能を利用して少しでも実戦レベルに近づけるわよ)


(はい!師匠)


(!?師匠はヤメて)



「悔しいけどコン、俺が教えた時と動きが段違いだ」


「ありがとうございます。この勢いで新さんから初勝利を」


「久しぶりに燃えてきた!!」


「えっ〜」


(人間では不可能な動きを[身体がロボットだから出来る]という意識が残っているからなのか、機体に負荷をかけ過ぎずに実行してる。これが3ヶ月後目のパイロットの動き?)


「また負けた」


「いやーコン。本気になれたぜ」


「えっいままで全力じゃなかったんですか?」


「えっと、まぁーそうだな」


「そんなー」


「金藤くん降りて。」


モニター越しに強面の山内が映る。直に降りるコン。


「さぁあんたのそのデカっ鼻へし折ってあげるわ」


「お前こそプライドをズタズタにするほど大差つけてやるから覚悟しろよ」


この後コンは自分とは次元の違う戦いを延々と観ることとなった。


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