第5話 模擬戦

「てめーは昨日の、ちょうどいい昨日の借りを存分にら代えさせてもらうぜ」


 


高笑いしながら対峙する男。昨夜コンにいちゃもんも吹っ掛け新に殴られた男であった。


 


「よろしく。」


 


「噂によれば、お前初心者なんだってな、俺の礎にしてやるから感謝するんだな」


 


「煽りは別にいいから、さっさと始めようぜ」


 


「ちっ、まあいい泣いて昨日のこと詫びさせてやる」


 


模擬戦が始まる。AIロボットから通信が入る。


 


「渡新さん。どうですか?動かせますか」


 


「問題無いです」


 


「では、模擬戦を始めます」


 


(俺はいまこのイシュタル………)


 


「見える…あいつのイシュタルは」


 


既に目の前に男のイシュタルはいなかった。


 


(どこだ…)


 


「痛ってぇー」


 


「どこ見てやがる」


 


背後から突撃された衝撃で倒れる新のイシュタル。


 


(これが説明のあった痛覚としての痛みか、結構痛いな…これを武器で受けることになるのか)


 


「どうした、初めての痛みに怖じけづいたか?」


 


「いや…全然。むしろ燃えてきた。」


 


(なっ、早い)


 


「ぐはぁ、こいつ」


 


素早い身のこなしで側面に回り相手のイシュタルを殴る新。


 


「ようは昨日の続きだろ」


 


(こいつ初心者だろ、なんて扱いなれた動きするんだよ)


 


徐々に圧倒し、気がつくと新のイシュタルは馬乗りになって相手のイシュタルを殴り続けていた。


 


「終了。勝者渡新」


 


AIロボットの判定により模擬戦が終わる。


 


「お前初心者でなんでこんなに上手く扱えるんだ」


 


ボロボロの身体を引きずりながら近寄る男。負けたのが納得いかないという表情だった。


 


「俺が知るかよ」


 


コンの事が気になっていた新はコンの模擬戦場所を探す。


 


(相手は…マジかよ)


 


「昨日は、ありがとうございました。」


 


「………。」


 


「恩知らずと思われるかもしれませんが、僕は後が無いので、全力で倒します。貴女を」


 


「御託はいいから、さっさと来なさい。」


 


コンのイシュタルが1歩踏み出した瞬間。既に山内真緒のイシュタルは懐に入り、腹部に一撃を喰らわせた。


 


(同じイシュタルのはずなのに、なんだこのスピードそして重い一撃。これがクリエイトを経験している人との差だっていうのか)


 


「もう終わり。貴方の全力はそんなもの?」


 


「流石は山内さんですね、性能が段違いだ」


 


「…貴方、これが性能差だと思ってるの?」


 


「えっ」


 


「この訓練は皆性能を平均化されているわ、ポイントは貴方がそのイシュタルと一体化出来ているかどうかよ」


 


「そんな」


 


「完全に一体化出来ればこのくらいの動き誰でも出来るわ」


 


新は周りを見渡す。


 


(この野次馬の反応をみる限りそうは思わないけどな)


 


コンのイシュタルの動きに合わせ、カウンターのように打撃を加える山内真緒のイシュタル。


 


まるで本当の手足のように動くその姿に新は目を奪われていた。


 


 


 


…時間は新のときより3倍近く経過していた。


 


「貴方。これ以上は危険よ止めておきなさい」


 


「僕は…もう後がないんです。この訓練で絶対に結果を残さなくては…」


 


「………残念ね。」


 


山内真緒のイシュタルへ不穏な雰囲気を感じとった新。


 


次の瞬間


 


コンのイシュタルは頭を演習場の壁に叩きつけられた。何度も何度も…何度も……


 


「なにやってんだよ、もういいだろ!止めろ」


 


思わず声を荒げる新。


 


「金藤小次郎にまだ戦闘の意志があります。なのでここでの訓練中止は、彼の意志を踏みにじることになり承服しかねます」


 


「俺が代わりにやる」


 


イシュタルの動きが止まる。


 


「あの…弔い合戦とか仇討ちとか考えてるなら、お門違いなんだけど」


 


オープンチャンネルで山内真緒が話し出す。


 


「これはあくまで訓練。AIの言うように彼に戦闘継続の意志があるのだものこの訓練の始めに説明は受けたでしょ、戦闘終了は戦闘不能か戦意喪失だって」


 


「どう見たって戦闘不能状態だろうが、こいつに戦う意志があろうが無かろうが、壁に何十回と頭打ち付けられて、大丈夫な訳ねーだろ」


 


「それは貴方の勝手な思い込みであって、AIは戦闘不能と判断していないわ」


 


「ピピ!金藤小次郎の戦意喪失を確認。勝者山内真緒」


 


「山内真緒。俺と勝負しろ」


 


「いや、さっきも言ったけどこれはあくまで訓練。弔い合戦とか考えてるなら…」


 


「別にそんなんじゃない。このカルケル随一の実力をお持ちと言われているあんたへの挑戦状だ」


 


「あの…1人で勝手に盛り上がってるところ悪いんだけど、そんなこと今する必要は……」


 


「ピピ!司令部より判断。山内真緒VS渡新の模擬戦実施を認める」


 


「なんですって!?嫌よ規定の訓練もこれで終わりなんだし、さっさと帰りたいわ」


 


「なんだ、カルケル随一の実力者の山内真緒さんよ、イシュタルに乗って1時間位の素人に不戦勝をくれるんですか?」


 


「あんた…いちいち癪に障るわね。いいわやろうじゃないの」


 


(なんか面白いとこになってきた~、なんだあいつは)


 


(てか、山内真緒ってあんなしゃべるんだな、いつも1人で話しかけるなオーラ全開だからビックリだ)


 


(俺彼女の声初めて聞いた)


 


急いで演習場に向かう新。担架で運ばれるコンと遭遇した。


 


「新さん…負けちゃいました」


 


「バカ野郎。そんなになるまで無茶しやがって、でもお前の諦めない意志…受け取ったぜ」


 


無言のまま担架で運ばれるコン。新はその姿に背を向けイシュタルのコックピットに乗り込んだ。


 


「ピピ!では、渡新が体勢を立て直し次第訓練を……」


 


ドカーン


 


「アレ」


 


AIが様子を見ると、再び山内真緒のイシュタルが頭を打ち付け始めた。


 


「てめぇ、卑怯な」


 


「勝手に乱入してなにさ、戦場にはそんな猶予無いんだよ」


 


「確かにな」(めちゃくちゃ痛い、こんなの何発も耐えられない頭がボーッとしてくる)


 


「さっさと降参しな」


 


すると山内真緒のイシュタルは新のイシュタルの足蹴りを喰らい、飛ばされる。


 


「危ねー、意識飛ぶところだった」


 


「素人であの状況から立て直すのか、面白い」


 


「さあて、仕切り直しといこうか」


 


「………。」


 


(反応が無くなった?まさか冷静さを取り戻したか)


 


両者動かなくなるイシュタル。


 


(どうした…お互い全然動かないぞ)


 


(イシュタルが壊れたのか)


 


(ちげーよ、下手に1歩でも動いたら容赦無くやられる…そんな気がするんだよ)


 


外野のザワツキに愚痴を溢したその刹那、山内真緒のイシュタルが視界から消え、機体が上空へ吹っ飛んだ。


 


(くっ、今の一瞬の隙を突かれた)


 


「スゲーなあの新入り、あの山内の攻撃を上に吹っ飛ばされてからはところどころ防御してる」


 


「イシュタルとこんなに早く一体化出来るものなのか、俺は始めて1歩踏み出すのに3日くらいかかったぜ」


 


「私、全然あの女のイシュタルの動きが見えないんだけど」


 


(素人が私の動きに徐々に対応してきている。)


 


着地する両機、地に足がついてから更に両者の動きが洗練されていく………


 


「あれって本当にロボット…機械なんだよな」


 


「綺麗…」


 


(なんか、ようやく身体がイシュタルとしっくりきた感じがする。俺の手足だと思えばあの女相手だって…)


 


(カウンター…避けられない)


 


新のイシュタルのカウンターが届くと思われたその時。


 


「政府より、クリエイト開始宣言。今回の召集は3名以下の者は直ちに司令部へ」


 


警報と共に突如鳴り響くアナウンス。今思えばこれから始まる『戦争』はまだ序章にしか過ぎなかった。

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