第6話 隠された戦争

「山内真緒。杉本恒星(すぎもとこうせい)。そして渡新。以上3名は至急司令部へ出向せよ」


 


突如発令されたクリエイトの開始宣言。即刻訓練は中止となり召集された2人は急ぎ司令部へ赴く。


 


「なあ、召集っていつもこんなにも急なのか」


 


「………」


 


「…それくらい答えてくれてもいいだろ」


 


司令部に到着する2人。既にもう1人の召集者はそこにいた。


 


「2人とも、急ですまないわね」


 


「あのなんで俺なんですか?」


 


「他の召集予定のパイロット2名は相手側に寝返ったの。よって今回は3対5の戦闘になります」


 


「2人の間違いじゃありませんか?山内はともかくなんで素人が」


 


「………赤の他人に言われるとそれはそれでムカツクな」


 


「彼は杉本恒星。南エリア所属のカウサよ、そして彼は」


 


「今から死んでいく奴の名前を知ったところで時間の無駄です。ブリーフィングを始めてください」


 


(コイツ…)


 


「……まあいいでしょう。今回の相手国はモスクワ帝国。クリエイトの原因は『北方領土』よ」


 


「北方領土…」


 


「えぇ、彼らは此方が提案した『樺太の共同統治』を拒否し、更にはもう何十年も解決されないこの問題に痺れを切らし、クリエイトを宣言してきたわ」


 


「よりによって、モスクワ帝国相手に1人が素人ですか」


 


「仕方がないわ、直ぐに召集出来るのが訓練中の東エリアだったのだから」


 


「だとしても、もう少しまともな人選が…」


 


「責任は私が取ります。」


 


「……随分期待されてるんだな、素人」


 


「それで今回の作戦では早速彼に役立ってもらうわ」


 


「俺が?」


 


「えぇ、囮役としてね」


 


「それってどういう」


 


「さぁ準備して、クリエイトは1時間後に開始よ」


 


 


(パイロットスーツって結構身体に密着するんだな)


 


格納庫に集まる3人。


 


「………なに?」


 


「………いや、別に」


 


「よし3人揃ったな、俺はイシュタル整備班班長で日本国国防陸軍第8師団所属『大友源太(おおともげんた)』軍曹だ。よろしくな」


 


「ゲンさん。そういうのいいから」


 


「ったく相変わらず冷たいな恒星は、真緒ちゃんはこれまたえらく不機嫌だななにかあったか?」


 


「………別に」


 


「そうかい。でっお前さんが新入りの渡新だな、まだ訓練始めたてでクリエイトだなんて、ついているのやらいないのやら」


 


「ご心配どうもおじさん。なるようになるさ」


 


「ほう、えらく胆が据わってんな好きだぜそういうかんじ」


 


「どうも」


 


「よし、行ってこい作戦に向けての微調整は済んでる。後は頼んだぜ」


 


出撃する3機。


 


「なあ、俺の武器このマシンガンだけか?」


 


「……私に聞くな」


 


「すまんなえっと新。お前さんの特徴がまだわからんからな、武装は全て標準装備だ。まあ生き残って戦い続けたらお前さん好みの装備もつけてやれるからよ、頑張れや」


 


「……いや俺の役割生きて戻れるのかこれ?」


 


「心配すんな、うちの司令は全員が生きて帰れる作戦しか立てん。つまりだ、その役目はお前さんの能力を信頼してるんだよ」


 


「そっか。ならその信頼に応えないとな」


 


「いや~いいねお前さん好きだぜ」


 


「おっさんに好かれても嬉しくねーよ」


 


「ゲンさん。あまりおだてないで、あともう作戦は始まってるのよ、緊張感を持ちなさい」


 


「わかりましたよ」


 


 


 


「ターゲットは2機…日本はなんとか急な人員不足を補えたようだな。おいおい、余程余裕が無かったのか?1機動きがなんかおかしいぞ」


 


「整備不良か?」


 


「いや…機体は隣のと差程変わらない。パイロットの問題だろ」


 


「これはこっち側に来た日本人達への報酬も考慮しないといけないかもな」


 


「あと1機はどこだ?」


 


「……こいつらは囮か」


 


「おい、例の日本人達シグナルロストしてるぞ」


 


「なに!いつのまにやられたんだ」


 


「おい、3号機もやられた」


 


「どこだもう1機は何処にいる?」


 


「なっ1機こっちに向かってきたぞ」


 


「ビビるな、あんな急ごしらえのヤツにやられるかよ」


 


「なんだこいつめちゃくちゃ早い、それにこの剣捌き只者じゃない」


 


(どういうことだ、何故俺達が追い詰められている)


 


「ぐぁあ、後ろからの攻撃だと」


 


「後ろだ?」(なぜ背後にいる?いつ後ろをとられた?)


 


残り1人になったモスクワ帝国兵は未だに足下のおぼつかない1機に特攻をかける。


 


(せめて、1機でも倒さねば祖国の恥だ。あの1機だけでも…落とす)


 


「なんだよ、モスクワは強いみたいなこと聞いたけど、大したことないじゃん」


 


「なっ、なんだあの動き?!こいつこんな動きが出来るのか、最初から俺達の油断を誘うために……チクショー」


 


最後の相手を格闘戦の末地面に打ちつけゼロ距離射撃で仕留める新のイシュタル。


 


「戦闘終了、勝者日本国。」


 


「緊急事態の中モスクワ帝国に無傷で勝利……これは素晴らしい結果ですね」


 


「………。」


 


「司令?」


 


「あぁ、そうだね。よし皆お疲れ様。報告書の提出よろしくね。」


 


司令部を後にするレナはこの成果に疑問を抱いていた。


 


(確かに彼の可能性には期待したけど、この結果は出来すぎじゃないかしら、モスクワ帝国からはこのクリエイトに勝利しようとする意志を感じられなかった。長年問題としてきた北方領土に対してこの対応はなんなの?私には別の意図があるようにしか………)


 


その足で格納庫を訪れたレナ。


 


「3人ともお疲れ様。」


 


「司令!お疲れ様です。」


 


「大友軍曹。そんなに堅苦しくしないでってば」


 


「いえ、軍人たるとも上官への礼節は大切であります」


 


「確かにそうだけど」


 


「とまぁ、これくらいにして偉いなレイちゃんは毎度毎度パイロットを労いに来て」


 


「大友軍曹それは砕けすぎです。」


 


「へぇ~。カウサの俺達を労ってくれるんだな」


 


「……事情はどうであれ、この国の為に命を掛けて戦ってくれるのですから、当然よ」


 


「……なにを笑っている素人」


 


「いちいち癪に障るさお前。パラテネって思った以上に良い場所だなって思って。もっと監獄のような場所でこれから過ごすのかと思ったからよ。視線が痛い連中もいたりするけど、司令や大友さんみたいに俺達を【人】としてみてくれる人もいて」


 


「まぁ俺達の【犯罪者も人権を持っている】っていう考えは割りと少数派の部類だからな、大半はお前の事を蔑んでいると思ってた方がいいぞ新。」


 


「それもそうっすね」


 


「それにしても、今回の相手本当にモスクワ帝国なんでしょうか?彼らにしては余りにもお粗末な気がします」


 


「そうねその辺りは調査する必要があるけど、貴方達はもう休みなさい。身体を休めるのもパイロットの務めよ」


 


「ではお言葉に甘えて」


 


「失礼します」


 


「了解!報酬はいつ振り込ませるんですか?」


 


「そうね明日には、振り込むはずよ」


 


「期待してます!」


 


新にとっての始めてのクリエイト。それはこれから起きる出来事の序章でしかなかった。

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