第4話 イシュタルと出会い

その黒髪を後ろに束ねた女は、鋭い目つきでこちらを睨み続けた。


 


「なんだ姉ちゃん。こっち睨みつけて…ってあんたは」


 


服を汚されたと騒ぐ客はその女を見て、急に大人しくなった。


 


「…っち、今日のところは見逃してやる。てめえ気をつけろや、行くぞお前払っとけ」


 


「おっ、おう」


 


服を汚されたと騒ぐ客達は足早にファミレスを立ち去った。


 


「ありがとうございました。」


 


「ギャーギャー騒がれて煩しかっただけだ。気にするな」


 


「私からしたら、あんたも充分煩いんだけど」


 


女の小声は新の耳に届いていた。


 


「…なによ、なにすんのよ」


 


「イヤホンつけてるのに、うるさいね~あんた随分耳がいいんだな」


 


「イヤホンつけてても聞こえてくるくらい煩く目障りな大きさだったのよ。悪い?」


 


「さっきみたいにあんたがさっさと止めてたら、この騒ぎにならなかったんじゃないのか?」


 


「あんたがしゃしゃり出なければ、すぐに済んだわ」


 


「この坊主がボコボコになってか?」


 


「…そうよ、私は人に干渉しない主義だから」


 


「てめえ、困った人を見てみぬフリかよ」


 


「めんどう事に巻き込まれるのはゴメンなの。それに、その人が困ったってたかは別として、ここにいる人間は全員犯罪者よ、わざわざ助ける道理は無いわ」


 


「そうかよ……」


 


「…………」


 


睨み合う両者。


 


「スッ、ストップ!そんなお二人が揉める事は無いですよ、お二人共ありがとうございました。」


 


絡まれた少年は2人を制止し、ファミレスを立ち去った。


 


「…不愉快だわ」


 


女もその後すぐファミレスを去り、新にとってモヤモヤする1日となった。


 


翌日。大島に言われた通りに通知された場所に来た新。


 


「あれ、昨夜の」


 


入り口で突っ立っていた新に昨日の絡まれた少年が話しかけてきた。


 


「おう、昨日の坊主」


 


「昨夜はありがとうございました。僕『金藤小次郎(こんどうこじろう)』といいます。周りからは『コン』って呼ばれてます。」


 


「渡新だ。よろしく。」


 


「新さんは最近こちらに来たのですか?この町では見ない顔なもので」


 


「ああ、昨日ここに来た。」


 


「どおりで!って来てそうそうトラブルに巻き込んでしまい、すみません。」


 


「もう気にするなって言ったろ」


 


「そうでしたね。それでどうしましたか」


 


「いや、大島って奴にここに行くように言われて来て予想以上の立派な建物に面喰らってたんだわ」


 


「ここはイシュタルの訓練所であり、全てのイシュタルを管理する格納庫のような場所ですからね」


 


「お前も訓練に来たのか?」


 


「はい。イシュタルでの戦闘は僕達の義務ですから強制的に召集されます。イシュタルの訓練は」


 


建物に入ると、人の多さに圧倒された。


 


「これ、この町に住む人全員か?」


 


「いえ、4つの居住エリアごとに順番に訓練するので、これは東エリアの人が全員ですね」


 


周りを見渡すと昨日遭遇した人物がもう1人。


 


「あれ…あの女も同じエリアなのか」


 


「彼女は『山内真緒(やまうちまお)』。実は既に数々のクリエイトに召集され生き残っている凄い方なんです」


 


「へぇ…でっコンは?」


 


「僕はまだ一度も召集されてません。国の将来を決める戦いになるので、基本的に訓練での上位成績者や召集経験者が優遇されて召集されるんです。それにイシュタルも投入される数は今まで一番多くて7体…それ故に訓練は常に上位の成績を残す為に皆死に物狂いなんです。成せ召集される時は、4つのエリア全てのカウサから選抜されますからね。」


 


「確かにこんだけ人がいて唯一の収入源が不定期でそんな低確率でしか得られないなら死に物狂いになるわな。てことは、コンお前…もう金無いのか?」


 


「はい。昨日で最後のペルを使い切りました。なので今日余程の成績を残せなければ、僕は恐らく飢えて死ぬでしょう」


 


「…そうなのか、悪いなそんな絶対絶命のなか」


 


「いえ新さんには昨日充分過ぎるくらいに助けられました。僕初めてだったんです。あんな風に誰かに助けてもらうの、皆自分が生きることで精一杯だからどうしてもこの町は個人主義になりがちなんです。昨日貰った御恩僕は一生忘れません。」


 


「……なぁコンはなんでここに収容されたんだ?」


 


「…イジメグループのパシりに遣われて、窃盗を見つかり捕まりました。あの…新さんは?」


 


「………人殺しだ」


 


「えっ………」


 


訓練が始まった。やることは成績上位者やクリエイト召集経験者関係無く全員共通で、最初は座学によるイシュタルの説明及び操縦方法。その後ランダムで実戦訓練というのを休憩を挟み4時間づつ行われる。


 


座学は、新以外殆どは何十回と聞いているのだろう。寝る者もいれば、聞いてるフリをして他事する者…過ごし方は様々だ。講師はAIロボットが淡々と繰り返すだけなので、恐らく出席さえしていれば問題無いのだろう。


 


イシュタルは10mサイズの人型戦闘ロボットで『ニュートロン・アクセラレーター』を搭載しているので無制限に行動出来るが『ニュートロン・アクセラレーター』はあくまで動力源なので武器は実弾や実体剣など有限な武器を使い。使用権限を司令部が持っている為、状況によってはコントロールが司令部に委ねられること、


機体は共通で腕時計に集積された情報を元に個体差が出ること、


あとは操作方法が『ダイレクトシンクロン』と呼ばれる腕と足を機械に通し、機体に内蔵された専用ヘルメットを被る事で操縦するのでは無く。ロボットと一体化しイメージで動く事、


その関係で機体のダメージが自分の痛みとして伝わる事等など新が知らない情報が沢山座学の中で説明された。


 


(ようやく終わった。しかし思ったより操作は早くマスター出来るかもしれないんだな)


 


「新さんお疲れ様です。どうですイシュタルについての説明は」


 


「コンお疲れ様。以外と難しくなさそうってのが印象だな、お前はしっかりと座学聞くんだな」


 


「えぇ、常に情報が更新されているかもしれませんからね」


 


「以外だったのが、山内真緒だっけ?あいつもしっかり聞いてたな」


 


「それが勝者たる所以かもしれませんね。何十何百と聞いた話しでも些細な変化を聞き逃さず自分の力にするんですよ、きっと。」


 


「成る程な」


 


「ところで新さん。さっきのことなんですけど」


 


「うん、さっきって?」


 


「新さんがここに来た理由って本当ですか?」


 


「……あぁ不可抗力とはいえ本当だ」


 


「そうなんですね……次は実戦ですね!お互い頑張りましょう。」


 


「おう」


 


今回の実戦訓練は1対1の模擬戦。新の相手は昨日の騒ぎのあの客だった。

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