039 転生者、深夜のコンビニに行く
ここに来て九ヶ月ぐらいだろうか。そのぐらいでアシュリーたち、メイド五人娘が次々と出産日を迎えていた。
現地文化である穢れがどうとかいう謎理由で、メイドたちの館で行われた出産に俺は立ち会えなかったが、この日のために用意した産婆どもやメイドたちがサポートしたおかげで出産は成功して元気な子供が産まれた。
なお、獣人の中には仕込んでから三ヶ月ぐらいで生まれる種族が多いので、俺の初めての子供というわけではないが、俺としては初めての子供の気分である。
獣人たちはなんか、違うんだよな。ボスの子供を孕みました! 勝手に産んで、勝手に育てます! な感じなんだよな。獣人たちはぽこぽこ産んでいるがほとんど子供と顔は合わせていない。
獣人たちも特段気にしている様子はない。まぁ顔を見せれば喜んで子供を見せてくるが。
なお、獣人がそういう種族だから最低でも各種族五人以上になるように奴隷を購入している。種族で群れるあいつらって、自分一人しかその種族がいなくても他の種族とは積極的に絡もうとしないんだよな。
たぶん一人でもそこまで気にしないだろうけど。一人で育てるのは辛かろうという俺の気分の問題で数は増やしてやっている。
まぁそういうわけで、アシュリーたちが産んだ子供を見に行けば楽しげに笑ってくれた。
そんな姿が嬉しくて――俺は結局、あの五人だけが――いや、なんでもない。
魂からの欲求である、女を孕ませたいという欲望に忠実に、ハーレムの拡大に注力しよう。
◇◆◇◆◇
「旦那様、衛星の打ち上げ……どう?」
だいぶ前に妊娠して腹が膨らんだ美少女錬金術師にして側室にして奴隷でもあるスズ・パラケルススに言われながら、研究室の窓から空を見上げれば、空に向かって飛んでいく金属塊が見える。途中で邪魔しようとしたドラゴンの腹をぶち抜いた金属塊はそのまま成層圏を抜けて、星の周回軌道に乗るのだろう。
落下してきたドラゴンが魔の森に作られた都市に落ちないように飛行型のゴーレムたちが捕獲して、止めをさしてから倉庫へと運んでいく。ドラゴンステーキだな今夜は。
「まぁ待てよ。落ち着けって、まだまだだからな」
飛ばしたロケットには重力魔法を使い、星を抜けるまでは重力の影響をほぼなくしているとはいえ、火魔法と風魔法だけで空を飛ぶのは時間がかかるだろう。
ドワーフ娘たちの手で金属ボディは限りなく軽量かつ空気抵抗を受けない形になったが、それでも元の世界のロケットのような出力は得られていない。
それはロケットエンジンとか構造がよくわからんから、魔法だけで飛ばしてるせいだ。
それでも、スズとその配下の美少女錬金術師たち、魔道具研究者のシメト・トリスメギストスとその配下の美少女研究者たち、金属加工を担ったドワーフ娘たちが俺を期待を込めた眼で見てくる。
待て待て、と言いながら飛ばした衛星から転送魔法で飛ばされてくる情報を『文書作成』スキルで可視化して、壁の巨大スクリーンに表示した。
それは地上を離れていく金属塊からの映像だ。
おぉ、と俺の子供を孕んで腹の大きくなっている娘たちがどやどやとスクリーンを見て興奮している。妊婦なの忘れてないよなこいつら? と思いながらも俺は「おい、見ろよ。だんだん見えてくるぞ。この星が」と隣に座っている、この発表のために呼んでいた側室のカタリナに言った。カタリナは呆然と見ていたが、しばらくして口を開く。
「……すごいわね。衛星を作ったの? この剣と魔法の世界で」
「ああ、どうしても確かめたいことがあった」
スマホのGPS機能だとか、天気予報だとか、そういうアプリ作成に使おうと思っていずれ衛星は作るつもりだったが、それでも俺は、俺の子供を増やしたいという衝動の源を確認する必要があった。女を孕ませたい、そういう性癖であることも確かだが、それにしては抑えが効かなすぎる。
流石にこれだけ令嬢や奴隷が増えてもなお新しい女を求めるのは異常すぎた。
俺がこの世界に呼ばれたのには、意味があったのでは? この力もそのためのものでは? 疑念は、晴らさないといけない。神に命令されたことはないが、俺が妙な欲求を強く持つのは使命があるからでは?
ロケットからの映像を見ていた女たちの声だろう。屋敷からも歓声が響いてくる。食堂や運動場、ジムなどにもスクリーンが置いてあって、映像を発信することがこの研究所ではできる。
スクリーンでは星の全景がぐんぐんと迫力を増して映し出されていた。人のいる大陸。人のいない大陸。そして――ああ、やはり、と俺はその光景を見て確信した。
「魔物に占拠されてる大陸ばかりだな」
樹木型の魔物に覆われた大陸があった。雷や炎、氷などの異常気象が地表を覆っている大陸があった。宇宙からでもわかるほどの巨大な生物が歩いている大陸があった。ああ、この世界はどうにもこうにもやばすぎる。
――人類は危機に瀕していた。
宇宙から見る星の表面のうち、人類が勢力圏を維持できているのは俺たちがいる大陸と、その隣にある大陸ぐらいのものだ。他にもいくつかある大陸は完全に人が住んでいる気配がない。
呟く。
「……俺は、魔力を特権として独占する貴族主義を根絶して、平民にも魔力を与えるためにいる?」
「どう、かしら? 貴方の子供のうち、男を外に解き放てば、あっちこっちで子供を産ませて、そういうこともあるかも」
獣人は特別な種族を除き基本的に魔力をもたないが、普人種の平民メイド五人娘に産ませた俺の子供は全員魔力持ちだった。
それに俺の子供たちのステータスは赤ん坊の状態でもはっきりわかる程度には優秀らしい。
というか、この言い方……女子は残すのだろうか? カタリナの思考はよくわからないが俺が娘に手を出したら近親相姦になるのでは? いや、まぁ俺も据え膳されたらやってしまいそうだが――やはり、倫理観ぶっ壊れてるな。くく、娘でもなんでも孕ませて、魔力持ちを増やして、人類を救えってか?
「まぁいい。俺も千年ぐらいはこの世を楽しみそうだからな。気長にやろう。衛星はこのままにしておくから何かに使いたかったら使っていいぞ。天気予報アプリとか作れるなら作ってくれ。スマホに組み込むから」
「ふふ、まずは回路のお勉強から始めないとねっと、冗談はそこそこに。まぁ、できそうな娘にやらせてみるわ」
そうだな、と俺はカタリナに頷いた。拠点にいる令嬢の中には数学が得意な娘や、錬金素材に詳しい令嬢もいる。
しかし俺もカタリナも文系なせいか、カメラは作れても、まだ計算機は作れていない。
カインの遺品に手記はあったが、
なお、マヨネーズはとっくに存在しているし、農業は農業スキル持ちがかなり発展させているから、地球で発展した農法とかもこっちに存在してて、あまり意味がない。
存在するなら、理系の転生者を確保したいところだな。
◇◆◇◆◇
美少女吸血鬼にして奴隷のヴィクトリアはロッカールームで青と白の縞々の制服を着て、店内に入った。
ヴィクトリアの仕事場は、魔の森に作られた都市に一つだけある二十四時間営業の商店だ。コンビニエンスストアという名前がついている。
雑貨屋というには多種多様な商品を扱うこの店では、生鮮食品や調理済みの保存食、下着や生活雑貨、魔道具など様々な商品が置いてある。
また最近は奴隷のために手紙や貨幣、荷物などを故郷に運送するサービスなども始めることになって、ヴィクトリアとしてはどうにも覚えることが多いのが辛かった。
とはいえ、コンビニの夜勤は成り手が少なく、ポイントカードのポイントが二倍なので率先してやっている。
他の種族は眠くて仕方がない夜も、亜人系吸血鬼であるヴィクトリアにとっては昼日中である。
さぁ、お仕事お仕事と夕方から勤務している奴隷娘と交代するためにロッカールームから店内に入るヴィクトリア。
「あ、いたいた。お疲れ様でーす。交代に来ましたー」
先に勤務していた猫人族の娘が「おつかれにゃーす」とヴィクトリアに答えて「じゃあ、お先失礼しにゃーす。娘が夜泣きして大変にゃー」と言ってロッカールームに入っていく。獣人はとにかくぽこぽこ産むので、あの娘は一度出産してからまた御主人様に仕込まれていて、二度目の妊娠中だ。
「娘さんかぁ……羨ましいなぁ」
亜人系種族は最低五人を確保しているこの魔の森の拠点だが、吸血鬼ほど珍しい種族の亜人――魔物系吸血鬼ならダンジョンでいくらでも
というより吸血鬼は群れずに、一人の吸血鬼がボスとなって、美少女や美男子を集めて眷属化し、周辺の村々を支配し、税を徴収するなどで収入を得る、軍による討伐推奨の支配者系種族である。
アクロード王国内の寒村に赤ん坊の頃に捨てられ、それなりの年齢になったら吸血鬼であることが判明して奴隷商に売られたヴィクトリアは「でもでもいいんだもーん」と自分の腹を見た。
少し大きくなったお腹の中には先日妊娠が発覚したヴィクトリアの娘がいる。鑑定魔法で性別がわかったが双子の娘だ。この娘たちも育ったら、御主人様に孕ませて貰えれば倍々で吸血鬼人口は増えていくだろう。
なお他の男というのは考えられない。吸血鬼の本能で理解している。
「ふんふ~んふ~ん。娘たちよ~ママが頑張って育てるからね~」
鼻歌を歌い、商品を補充しながらのヴィクトリアは考える。今は少数しかいない亜人が所属する派閥に所属しているが、やはり少数なので誰も彼もが自分の子供に関してはいろいろと手探りだった。産まれたからはもっと大変かもしれない。世話好きの多い牛人族なら応援に来てくれるかなぁ、などと考えながら、まぁ最悪、御主人様に
なお吸血鬼は支配者系種族なので魔力持ちじゃない普人種などは奴隷にしか見えない。結婚はジョークである。
ちなみに吸血鬼が持つ魅了や眷属作成スキルなどはヴィクトリアの腹に刻まれた魔紋によって使用が制限されている。
それらのスキルは購入当初はレオンハルトの強力な呪いスキルで使用不能にされていたが、ポイントを払って、夜の営みに参加し、魔紋を刻むに至って安全性が確保されてからは解呪されていた。
仲間には使えなくとも、魔物相手には使ってもいいという許可は得ている。
とはいえ、魔物退治をするつもりはない。
性交によってレベルは高いが、わざわざ危険な森に出かけるつもりはないからだ。
それよりも吸血鬼ゆえの怪力や耐久スキルがある為、深夜のコンビニでワンオペの方がポイント効率が良かった。
「いらっしゃいませー」
そのような感じで、ヴィクトリアは今日も楽しく過ごしていた。
目標はバンバン子供を産んで、拠点内の吸血鬼人口を増やして、マイノリティ脱出。
◇◆◇◆◇
「あれにも手をだしたの?」
ちょこちょことお腹を膨らませたちょいロリ系吸血鬼が店内を歩き回っているのを横目にカタリナは一緒にコンビニに入ってきたレオンハルトに問いかける。
「ヴィクトリア? ああ、めっちゃ抱き心地いいよ。眷属作成スキルの使用を封じてるから、吸血されても問題ないし」
「そ、そう? ちょっと興味あるかも」
お姉さま系貴族令嬢でサド気質のあるカタリナはそんなことを言いながらスライムの皮膜から作り出したペットボトル風の容器に入った紅茶といくつかのホットスナックを購入して、フードコートに行くとレオンハルトに問いかけた。
「で、あれが呪術って本当?」
「乙女ゲームの原作ストーリーとかいうのだろ? 称号の『悪役令嬢』を解析したから間違いない」
いつの間にかカタリナに付与されていた悪役令嬢という名前の称号。悪評が聞こえたのもこれができてからか。レオンハルトの側室になってからも残っていたそれを解除したのはレオンハルトだった。
王都の大司祭ですら詳細すらわからなかったそれを解除したレオンハルトはなんでもないように言う。
「役柄系の称号だったな。ヒロインをいじめて、最後は没落するらしいぞ」
くく、と笑いながらレオンハルトはカタリナに向かってにやにやと笑ってみせる。くッ、かっこいい……。
「す、スキルで誘惑するのやめてくれない?」
「いいじゃん。ここまで嫁が多いと一人ひとりに接触する時間が少なくなるから短い時間で一気に好感度上げてんだよ」
クズぅ、と言いながらもそれが家庭円満の秘訣だと思えばカタリナも口を閉じるしかない。そんなことを思いながら本題に戻っていく。
「呪術ってのはわかったけど……その、結局どうすればいいわけ?」
「ヒロインのアンだっけ? そいつが最後に攻略対象のヒーローと一緒に、相手の令嬢に対して婚約破棄するのが呪術成立の条件なんだから、婚約破棄対象がひとり残らず消えればいい。呪術は不発になって、代償としてアンとかいうのは
殺してから前世事情は知った、転生者カイン・ストレイファがやっていたという美少女戦略大陸統一シミュレーションゲームが破綻したのと同じだ。カイン・ストレイファのイベント手帳のほとんどはもう機能していない。
単独成立するサブシナリオはいくつか残っていたが、メインシナリオを進める最重要キャラクターにしてラスボスの第二王子が機能しなくなったために、シナリオが土台から崩壊したからだ。
「一人残らず、
「っても、あと何人だ? 第一王子に、第二王子だろ、あと王女が婚約してた大公家の嫡男、近衛騎士団団長の嫡男は終わりで」
「私の弟と、魔術師師団長の息子、王族の血を引く教師、隠しキャラで帝国の皇太子だったかしら?」
「ふーん、乙女ゲーってのは結構対象が多いんだな。あと帝国の皇太子ってのが気になるな。婚約者は?」
「サブキャラはそこまでテキスト数が多くないから。共通シナリオにおまけがあるぐらいよ? ええと、皇太子の婚約者は我が国に皇太子と一緒に留学してるわよ。隣国の貴族だから婚約破棄はしないけど、確か病弱で皇太子パートのシナリオを進めると死んじゃうのよね。とりあえず残りの婚約者を婚約破棄させて、貴方の側室にすればいいわけ?」
「先に婚約破棄すれば、婚約破棄できないだろ? あとは役柄称号を解除すればいい」
「皇太子は?」
「婚約者の病弱を治して、生かしておくとどうなるんだ?」
「わからない。でもたぶん、死ななかったらアンが殺すんじゃないかしら?」
でも、とカタリナは言う。
「たぶんだけど大丈夫。皇太子攻略は二週目要素だから、アンの状態だと今から攻略するのは難しい」
「……まぁ、第一王子にべったりと聞くしな」
「そう、っていうかたぶんあの馬鹿娘、呪術だって気付いてないわ。婚約破棄する令嬢がいないとシナリオが
「まー、そこは典型的な成り代わりの呪術だからな。呪った相手の地位と名声をそっくりそのまま入手する呪術ってところか」
二人は言いながらペットボトル風の容器に入ったお茶を飲み、買い込んだ唐揚げやホットドックを食べている。
「よくコンビニなんか再現したわね?」
「セックスしたあとにちょっとここの夜道歩いてみろよ。コンビニめっちゃ行きたくなるから」
「あー、現代日本風の街灯設置してあるから……あーあー、わかる。めっちゃわかる」
転生者同士ではないとわからないやり取りをして、二人は立ち上がった。
「食ったし話したし戻るか」
「そうね。じゃあ、残りの娘たちの婚約破棄進めておくわ。皇太子は?」
「迷宮伯になっちゃったからな。謎の魔法使いのままだったら責任能力ないから攫うぐらいはやったんだが」
「そうね。戦争になってもまずいしね」
「……しかし、ゲームね。この世界ってそんなにゲーム風か?」
「わからない。淫紋を付与されてからは、ちょっとそういう視点消えてきたかも。現実味が戻ってきたというか、自分の人生を生きてるような感覚がある、かも」
少なくとも、ゲームキャラクターとして誰かに接するのはやめるようになった、とカタリナは言い。レオンハルトはそうか、と頷いた。
そうして二人は腕を組みながらコンビニから去っていった。
「あー、うらやましー。私も御主人様とラブラブコンビニデートお願いしてみよーっと」
そのような吸血鬼の娘の声を耳にしながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます