036 転生者、メイドと語らう


「アレクシアが死んだ」

 揺り椅子に座って刺繍をしていた、スキル『ヴィクターの地にて伏して誓う』の持ち主であるメイド娘のイリシアは俺を見上げて「それはよかったです」と微笑んでみせた。

 そこに恨みの色はない――ように見えるが、俺にはわからないな。

「子がお腹から出てくる頃にはシヴィルも死んでいるでしょうか?」

 俺が孕ませた女は、自身の大きくなった腹部に触れて優しい顔をしている。

「わからない。ただ、ノーマンは近い内に死ぬだろうが、な」

 妾の令嬢たちでも軍部よりの家の娘からはアレクシアが実家からメイドを呼び寄せ、ノーマンに宛てがうだろうと予測をもらっている。

 王都貴族の中には、強い精神耐性と強靭な肉体を貴族特有の強力な魔力で維持している貴族男性を、女色に溺れさせて殺す手段があるらしい。

 俺ぐらいレベルが高く、また『我が恩讐は蛇が如くに絡みつく』による恩恵を受けていると通じないらしいが、力自慢しか取り柄のない田舎領主を殺すぐらいは楽勝だと令嬢たちは言っていた。恐ろしい。

 そうですか、と呟いたイリシアは「風が涼しいですね。レオン様」と楽しげに言うと、自身の青い髪を手で押さえて「身体が冷えますから」と窓を閉めた。

「それと、今度叙爵する。王国に金をくれてやったら、爵位をくれるそうだ」

 そうですか、とイリシアはあまり興味がなさそうに頷いて「レオン様はシヴィルよりもずっと優秀ですから」と微笑んでくれる。

 俺が近くによれば、手を大きく伸ばしたイリシアは、よしよしと頭をなでて「おっぱいもみますか?」といたずらっぽく笑ってくれた。

 揉む、と頷いてイリシアのそこそこ胸をもみつつ俺は思い出していく。妊娠したことでイリシアの胸は以前よりも膨らんでいて、俺は以前の平坦具合を思い出して懐かしい気分になった。

「レオン様?」

「なんでもない」

 ジト目のイリシアを躱しつつ、思い出されるのは今回の事件の一連の流れだ。

 まずは冒険者ギルドが俺が購入した元Sランク冒険者奴隷を欲しがって代理人を寄越してきたこと。

 そいつがクソムカつく奴だったので話を聞かずに追い返したこと。

 それから奴隷の中の元冒険者たちが持っていたギルドカードに探索の魔法が送られ、拠点の居場所を知られたこと。

 その拠点位置を王国とギルドが共有し、続いて襲撃依頼が第二王子より出されたこと。

 これの順番としては元冒険者を俺が仕入れたことを知った王国から拠点の探知依頼が出され、判明次第の襲撃依頼だ。

 ただ、それはギルドが雇用していた予知能力者による襲撃失敗からの第二王子死亡の予知が出たことで頓挫した。

 そのあとはこちらの反撃だった。俺はどう反撃しようかと考えて、襲撃はなかったのだから、ゴーレムで皆殺しにするほどではないと判断し、側室である令嬢たちに任せることにした。

 自分でやらないのは、どの程度やればいいかわからなかったからだ。

 そうしたらシエラを筆頭に、そういった伝手のある令嬢たちが散々に第二王子派閥の令息たちの婚約を解消&破棄しつづけたことで、婚約を破棄された嫡男の婚約をぶっ壊された中小貴族が揃って王家に泣きつくことになった。

 今回の叙爵の流れは、その王家から泣きが入ったことで決まったらしい。

 和解の流れを思い出す。

 俺が王都の奴隷商で美少女奴隷を探していたら、和解したいと令嬢専門の奴隷商であるジョー子爵から相談を受けた。

 すわ何事かと思ったが、連れてきていたメイドから婚約破棄の件ですよと言われて、ああ、と俺は鷹揚に頷いてやることにした。

 ジョー子爵は令嬢奴隷の仕入れ先だからな。

 俺も彼の言う事なら聞いてやろうという気分・・になる。

 またジョー子爵との相談時には同席していた冒険者ギルドの使者からも和解交渉があった。不適切な依頼を受けてしまってごめんなさい、という奴だ。

 まず以前、俺を馬鹿にした交渉人の生首が俺に差し出された。それを出してきたのが使者となっていた王都冒険者ギルドのギルドマスターを名乗る男だ。

 ギルドマスターは拠点への襲撃依頼を取り下げたと言って謝罪してきたので、鷹揚に受け入れてやった。こちらには被害もなかったので受け入れない理由はない。

 このときにジョー子爵を交えていたので、賠償としてSランク冒険者の一人である『魔導』のラーナ・ハルキゲニアというアクロード王国十四美女の一人が差し出され、俺の奴隷兼妾となることが決まった。

 賠償にSランク冒険者とは剛毅なことだが、賠償をどうするかと決めるときに、ラーナ自身が妾となることを志願してきたらしい。

 どうにも俺の奴隷女の一人である元Sランク冒険者である『剣聖』フェイリー・マグナソードが目的のようなので、俺も親友丼は楽しそうだと受け入れた。

 現在、ヤッてから淫紋の従属紋である魔紋を刻印してやったラーナは、フェイリーを含めた四人で平日は令嬢の護衛をしつつ、休日には四人で魔の森の探索を行っているようだ。

 ああ、そうだ。魔紋だ。ポイントが溜まった奴隷たちを最近はちょいちょいと抱いていて、そのときに奴隷たちには『淫紋』の下位刻印である『魔紋』という刻印を開発したので、施してやっている。

 あと最近、ハイエルフの奴隷であるシーリア・ライトニング・ヴォルグ・エーベンベリクス・ユグドラシル・エーテルリングを抱いているときに彼女から影魔法の奥義の一つである分身魔法を教わった。意思のない人形をラジコンで操るみたいな感じだが、身体が2つ、3つと増えたので、セックスのときに重宝している。

 話を戻すが魔紋は上位刻印である淫紋の持ち主に従属する効果を持つ紋だ。

 抱くようになった奴隷たちはレベル100になって令嬢たちを物理的に害せるようになったからな。害せないようにしている。淫紋でないのは奴隷に淫紋の家族化が適応されると奴隷扱いできなくなるためだ。

 そういうわけでフェイリーやその仲間たちは性交によってレベル100に到達したことで魔の森の探索が解禁された。

 探索補助にゴーレムを連れて行かせているので即死罠とかで死ぬこともないだろう。

 彼女たちは徐々に自身のレベルを下げながら魔の森の適正レベルを探ったり、マップを作っていくのだという。レベルを消費して短時間のバフを掛けるのが彼女たちの最近の流行トレンドのようだった。

 魔の森に関しては俺もマップを作っているが、冒険者としての視点から有用資源やモンスターなどの調査も含めた詳細地図はなく、冒険者たちはそいつを作りたいらしい。シエラもそれはよいことだと太鼓判を押していたから俺もいろいろと支援してやっている。

 それとだ。交渉の結果、うちの拠点に冒険者ギルドから出張所が設置されることになった。

 元冒険者の奴隷用の小規模の出張所だな。

 あとは手を出してもいい美人受付嬢や職員が送りつけられてくるようだ。どうせスパイだろうから、魔紋を刻んで逆に取り込んでやる予定である。

 ちなみに冒険者ギルドの出張所は奴隷街とはまた別に区画が作られ、そこに作られる。

 その区画にはシエラのカノータス商会から商店とか、あとは教会とかも設置する予定である。

 転移魔法で王都に行けば商店はいくらでもあるけど、奴隷たちから拠点内で買い物とかしたいという要求があったためだ。

 あと教会、教会は必要なんだよなぁ。うちの令嬢たちも祈りの場が欲しいって要求してきたし、教会に献金して、手を出してもいい修道女と女司祭の派遣を乞う必要があった。

 あと獣人やエルフ、ドワーフなども個々の神を祀る場が欲しいというので作る教会は様々な神を祀る総合教会になるだろう。

 宗教のカクテルとか現代日本の価値観からすると危険でしょうがないが、こっちの世界は多神教だから大丈夫だ。ローマみたいな感じだろうか? 複数の神に祈ってもオーケーなのである。

 あとはアクロード王家との和解だが、俺から和解金としてミスリル貨二千枚を提示してやることにした。和解交渉としては破格の値段だが、俺としては別に毎日定期的に手に入る資源を出しているだけだから損ではない。それよりもこの和解ができないとなんだかんだと令嬢たちの負担になって、俺が拠点内ストレスで死にかける。

 無論、攻撃として婚約破棄をしているが、第二王子陣営に限定しているし、これが王国と本格開戦となると最終的には俺が勝つが、ベッドの中で令嬢たちに実家が難儀してるから、どうにかしてくれと頼まれまくってハーレムに危機が訪れるのである。

 そういうわけでジョー子爵からは年頃の令嬢かつ、王家の姫の中でもっとも美しいというセラフィーナ第三王女との結婚が提案された。

 なお正室待遇。正室は空いていたのでありがたく貰う。婚約期間がないのは、俺が絶対に手を出すから、傷物にするなら結婚してからにしてくれということだろう。

 ただアクロード王国の二大大公家の一つと婚約しているセラフィーナ第三王女の婚約の解消に時間がかかるというので、足しになるかとシエラが暗殺したカイン・ストレイファという転生者のアイテムボックスに入っていた、アクロード王国三神器のうちの二つを出してやった。

 神剣アクロードソードと神盾アクロードシールドである。

 ここで一旦、交渉が止まった。

 本物か鑑定する必要があったからだ。

 そのあとにもう一つの歴史の中で失われた三番目の神器の所有を聞かれたので持っていると答えたら、アクロード王国の二大大公家の一つであるサドゥルサドゥナ大公家当主と宰相を兼任するマグゥドス・サドゥルサドゥナが、自分の娘を側室として差し出すと言い出した。

 そんな娘を差し出してまで欲しいのは神鎧アクロードアーマーだ。

 宰相の娘は美女らしいので歴史的価値という黴が生えた鎧程度、快く差し出してやることにする。

 俺も三神器があるべき場所に収まってたほうがバランスよくて嬉しいしな。しかし神器の名前、安直すぎるだろ。

 そういうわけでサドゥルサドゥナ大公家の一人娘と婚約していた第一王子の婚約が破棄され、俺に差し出されることになった。

 なお王子はあまり気にしていないようだ。

 宰相は第一王子の後ろ盾だったのでは? という疑問があるものの、どうにも最近第一王子は平民娘に夢中で、大公家としてもこのような王子に嫁がせるぐらいなら金持ちでレベルが高くて爵位を貰う予定で大量の令嬢を所有していながらもハーレム内で殺傷事件が起こってない俺に差し出した方が政治的にも良いと考えているようだ。

 なお件の令嬢と平民娘はトラブルが多く、どうにも学園内でいじめも起こっているらしい? なんだかなー。もっと仲良くしろよって感じだな。

 ちなみに宰相の娘の令嬢の名前は、カタリナ・サドゥルサドゥナ。アクロード王国十四美女の一人らしい。十四美女ってどこにでもいるよな。

 二つ名は『女帝』。王妃教育を受けているおかげで内政が得意なようだ。学園内ではどういうわけか悪役令嬢などと呼ばれているようだ。

(なんで悪役? 誰がこんな変なあだ名を流行らせたんだ? 意味不明すぎる)

 悪役令嬢という風評は不穏だが、淫紋による家族化を施したあとならば拠点内の政治を任せてもいいだろう。

 ちなみに宰相令嬢を側室にする方は、内々での決定で、俺の迷宮伯の叙爵と同時に発表されるらしい。

 俺の叙爵前に第一王子の婚約解消が発表されると国内が荒れるからな。

 そんな話をしながら、久しぶりにメイドと語らうのだったが、イリシアは田舎娘なので政治に興味はなくほとんど理解していなかった。


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