032 冒険者たちの襲撃計画
「ギルドカードに探知魔法の返答があったわ! フェイリーが生きてる!!」
S
「増幅の術式をこれだけの人数で掛けてやっとかッ! ははッ、だが剣聖姫が見つかったッ!!」
S級冒険者である『破魔』のグロナードが整った顔に歓喜を浮かべた。
他にもS級、A級と所属している高位冒険者が機嫌が良さそうな顔をする。S級は貴重だが、その中でも美人で強く、性格も良かったフェイリーは人気者だったからだ。他の冒険者では居場所が見つかった程度ではこうはならない。
「早速救出だな!!」
「レンカちゃんやソーリャはどうなんだ?」
「バカ言え、フェイリーが生きてるんだ。他の二人も無事に決まってる」
どやどやとそんなことを言い合う冒険者の中には英雄にして竜殺しを果たしたカインもいる。
令嬢が令嬢を紹介してレオンハルトの元に運び込む令嬢スパイラルが学園で完成したことでスカウト可能な貴族令嬢資源が枯渇していたことと、王国中の奴隷商が所有する美少女奴隷も枯渇した今、カインの希望は冒険者ギルド所属の美少女冒険者たちしかいなかった。
(ぐぅぅぅぅ、フェイリーは、マジで困る。軍団を率いられる美少女はもう、フェイリーぐらいしかいないんだよ)
カイン? と横にいる幼馴染から話しかけられて、カインはなんでもないと優しく言う。
――転生者カイン・ストレイファは困っていた。
勧誘可能な美少女が枯渇しているからだ。
学園も奴隷も男しか残っていない。いや、かなり優秀で、最高の能力を持つ男はたくさんいる。
だが美少女武将も美少女研究者も美少女メイドも美少女令嬢もフリーが全員いない。
カインが確認できる美少女は、すでに勢力に所属している者しかおらず、そういう人材は学園卒業後の戦乱パートで捕獲して仲間にしたり、勢力が崩壊したあとに流れてきたところを雇用するしか仲間にする方法がないからだ。
貴族配下の美少女の引き抜きは最下級の貴族である騎士爵のカインの立場では難しい。
これでは、戦乱パートでの勝利は危うい。
カインの手元にはストレイファ商会用の商人系人材とその護衛として育てているそこそこの人材しかいない。
最高ランクのユニットに育つ美少女人材、それも多くのイベントフラグを抱える十四美女系統と、エルフ、獣人系の最高血統を奪われ続けているのが痛いのだ。
(普人種の最高血統は学園で入手できるから学園に入ったってのに、フリー人材のはずの貴族令嬢が片っ端からレオンハルトに流れやがるし)
冒険者もそこそこ強いのは多いが、やはり魔力もスキルも厳選された貴族血統が普人種では最強だ。その最強がダメになっている。
加えて、学園パート段階で一番手っ取り早い他種族の人材収集手段である奴隷市場を大量の資金で蹂躙されているのが痛かった。
レオンハルトが片っ端から優良な美少女を買い漁るから、そこそこの資金力で戦うカインにまでステータスの高い美少女奴隷が回ってこないのだ。
おっさんや美青年はいらないのである。
(俺は、おっさんハーレムを作りたいわけじゃないんだッ……!!)
カインは内心のみで唸る。この時期に入ってくる将軍適正のある美少女たちはみんなレオンハルトに買い漁られてしまっている。
もちろん残っている美少女もいないことはないが、どれもギャンブル癖があったり、ビッチだったり悪女だったり犯罪者だったりして、キャラクターイベントを最後まで進めないと安全に雇えない存在が多かった。
最悪、自軍ごと敵軍に降って、戦場で不意打ちをしかけてくるようなものまでいるし、そういうのに限って、裏切りイベントがキャラクターイベントを進めるために必須だったりするからだ。
そのくせ大した性能もないのがそういったキャラクターなので、カインとしては正統派真面目系美女将軍として使えるフェイリーは心底から欲しい人材だったのだが……。
(なぁんで、この段階で負けて捕まって奴隷落ちしてんだよ。しかもレオンハルトに買われて、行方知らずだったし!)
本来はこんなこと起こらないのだ。学園パートで発生する戦場イベントなんて、S級冒険者単騎で蹂躙できるようなものばかりだから、フェイリー単独で出撃して終わるような小規模な争いでしかないのである。
今回は罠に嵌められて、接近戦に弱い魔法職のレンカが捕まって降伏するしかなかったというのがカインからすれば特大の不運でしかない。
不運といえば、そもそも現在の状況からしてカインの想定外でもある。
S級冒険者ともなれば冒険者ギルドにとっては重要なメンバーだ。
だから戦場で捕まったり、また他国で奴隷落ちした際、冒険者ギルドに金を預けておけば代理人が解放のために購入してくれる保険制度があったはずなのだ。
フェイリーたちも当然、それに加入していた。フェイリーが奴隷になる可能性はゼロだった。
だが奴隷を買いまくっていることで奴隷商人にウケが良すぎるレオンハルトにギルドより先に連絡が入り、このザマだ。
とはいえオークション形式で競り落とされれば、ギルドに預けたフェイリーの資金力ではあっさり負けただろうという予想もカインにはできてしまう。
そういうわけで、救出作戦である。
レオンハルトの拠点に侵入して、冒険者たちはフェイリーを助け出すのである。
カインはその際の転移魔法発動役だった。
――全員に、死地に行くという感覚がなかった。
冒険者たちは気楽なものだった。奴隷漁りをする『令嬢ハーレム』『美少女狂い』のレオンハルトの拠点を襲撃して、仲間を取り戻す。そのついでに拠点にある大量のミスリル貨や美少女奴隷、美少女令嬢を奪ってやれ。そんな気分だった。
レオンハルトを実際に見たものがいない人間がいないのも問題だった。
基本的に奴隷商か貴族街にしかレオンハルトは現れない。冒険者はそんなところには基本的に行かない。
カインも転生者同士という謎の遠慮から接触を避けていて、完全鑑定を掛けたことがなかった。
影魔法の偵察手段を持ってはいるが、カインはそれも行っていなかった。何しろ出現が不規則で捕まえるのが難しいからだし、最近はフリーの美少女を探すのに忙しく、そういう手間を行っていなかった。
――誰か一人でも鑑定していれば、ギルドは絶対に敵対を避けただろう。
A級ながらもその才気と未来を見ているかのような動きから、冒険者ギルド最強の名を冠しつつある『竜殺し』カイン・ストレイファのレベルが100。人類の到達限界と呼ばれるレベルだ。
そのカインを軽々越えるレベル180がレオンハルト・ヴィクターのレベルである。
レベルが10超えれば戦闘にならないとは誰の言葉か。いや、レベルが10程度ならば装備の差でなんとかなることもあるだろう。しかし80も変わるともうどうにもならない。子供と大人の勝負ではなく、子犬と竜ぐらいの差になるからだ。
自分こそが最上で平民などそのへんの塵やクズにも思っている変態貴族たちが、美少女を買い漁るレオンハルトを苦々しく見ながらも手を出さないのはなぜなのか。
ミスリル貨による賄賂が効いている? 高価な貢物を貰っている? そんなわけはない。傲慢な貴族ならばそんなもの貰って当然で、レオンハルトには多少の気を利かせはしても美少女の独占は許さないだろう。
貴族たちはレオンハルトを見ているのだ。鑑定しているのだ。レベル180という事実を知っているのだ。レオンハルトとセックスした令嬢たちのレベルが50~100に上がっていることも知っているのだ。
だから手を出さない。絶対に手を出さない。カノータス領の悲劇を貴族たちは知っている。
子爵家の騎士団が数分で全滅して、カノータス領の至宝たるシエラ・カノータスが奪われた事件を。
ギルドはもちろんそういったことを知っている。だが気楽なものだった。
それはギルドの上層部に戦闘を主とした冒険者上がりが少ないから、襲撃対象と参加冒険者のレベル差がどれだけ参加冒険者の生存率に直結するかの現実をよくわかっていないことが原因だったが、今回参加するS級冒険者の数が多いことも原因だった。
S級冒険者『勇魔』オード老、S級冒険者『蹂躙戦車』バッカス、S級冒険者『破魔』グロナード。
それにアクロード王国十四美女の一人にして、『剣聖』フェイリーの悪友たるS級冒険者『魔導』ラーナ・ハルキゲニアの存在。
ラーナはソロでのS級にしても、S級パーティーが三組も参加する。この世界の常識なら、これだけで小国程度なら滅ぼせる戦力となる。
加えて実績は足りないものの、S級冒険者以上の実力者でもある『竜殺し』カインに、『覇道』『殲滅』『智者』『オーク狩り』『死神』などの戦闘力で鳴らした複数のA級パーティーも参加を表明していた。
そうして、ギルドマスターが冒険者たちに説明を始めた。
ここにはフェイリーの救出以外にも、彼らが自信過剰になれるだけの理由も添えてあった。
「さて、勇猛果敢にして、我が王都ギルドの至宝たる冒険者諸君よ。フェイリー・マグナソード率いるS級パーティー『剣の乙女』の救出は冒険者ギルドからの依頼だが、敵拠点への襲撃依頼自体はまた別に依頼主が存在する。そう、王国の武の象徴たる第二王子殿下からの依頼だ。ふふ、そう、王子だよ。大義名分が今回はあるのさ。第二王子殿下は昨今のレオンハルト・ヴィクターが多くの貴族令嬢を娼婦のように扱い、また数多の美少女奴隷を買い漁る姿は下劣な猿そのもので見苦しいと――」
ちなみに冒険者ギルドからレオンハルトに対して、フェイリーの返却要請は出ていた。
だが、これをレオンハルトが黙殺したのが襲撃に至る要因でもある。
もっともその黙殺とて、奴隷商で待ち構えていたギルドの代理人が『美少女狂い』だと馬鹿にしたような口調で居丈高にマウントを取ろうとしたせいでレオンハルトの機嫌を損ねて話し合いを打ち切られてしまった、という前提もあったが。
なお、この襲撃、
武力での奴隷の奪還など王国法と大陸奴隷協会の両方を敵に回しかねない行為で、実際に奴隷協会がこれを知ればギルドに猛抗議をしただろう。
レオンハルトとその側室であるシエラは奴隷協会のお得意様で、ついでに言えば売れなかったら殺すしかない欠損奴隷なども買ってくれるし、買われた奴隷が幸せそうで、奴隷を使い潰さない姿にも好感が持てていた。
売った
しかし、冒険者ギルドには襲撃ができる後ろ盾が今回存在した。
王国の第二王子にして軍事系貴族の取りまとめ役たるフィリップ殿下である。
如何に金とコネを持ってようと、令嬢たちを妾にしていようと、大陸でも有数の大国、アクロード王国の軍事系貴族のトップである第二王子からの襲撃要請。
これをレオンハルト・ヴィクターという爵位も持っていない存在に退けられるわけがない――とギルドは考えた。
冒険者ギルドのトップが長々とレオンハルトの拠点に襲撃する正当性を述べたところで「では『予知』のザラキエル殿。今回の襲撃の勝率を……!」とギルドマスターが一人の美少女に問いかけた。
アクロード王国十四美女の一人、『予知』のザラキエル。称号に相応しい美少女である。
(あー、ザラキエルも欲しいが、あいつの獲得条件はな……)
そんなザラキエルを見て、カインの頭に過るのは彼女のキャラクター情報だった。
『予知』のザラキエル。
ゲームのエンディングの一つである邪神討伐を目的として強者を探して歩いている放浪美少女だ。
だからというわけではないが、ほとんど勢力の戦力が上昇しない学園パートではふらふらとランダム放浪をしていて、勢力の戦力が右肩上がりに上がり続ける戦乱パートの、それも統一間近の、大陸の勝者が確定する時期になってからでないと永続雇用可能にならないキャラクターである。
仲間になるのが終盤とはいえ、その間にイベントや交流が皆無というわけでもなく、冒険者ギルドや大規模な戦争では各勢力に雇われて依頼や戦闘の勝率を『予知』してくれる存在だったことをカインは思い出す。
主人公勢力でも一時的に予知の為だけに雇用することができた。
もっともザラキエルの予知は高価だ。
なぜ高価なのかと言えば、予知の成功率はほぼ100%で、大規模な戦争や災害すら当て、具体的な未来を知ることもできる予知だからである。
普通の依頼なんかじゃ行われないが、今回は王子からの依頼というわけでギルドも雇ったのだろう。
予知を終えたのだろう。
腰まで伸びた漆黒の髪に、両目を黒い眼帯で覆い、鎖付きの修道服に身を包んだザラキエルは困ったようにギルドマスターに問いかけた。
「これは……言ってもよろしいのですか?」
「どうしました? 言ってください。襲撃成功率100%で、予知の必要がない、ですかな? はははッ」
気楽なギルドマスターの声に、ザラキエルは馬鹿にしたような気配を無表情の中に浮かべ、ならば、とそれを口にした。
「成功率0%。転移した先で襲撃を受け、
――しん、と沈黙がギルドを覆う。
笑っていたギルドマスターの表情が無表情になり、ザラキエルをじっと見つめる。
「どういう、ことですか?」
「今のは襲撃の成功率だけですが、具体的な内容になりますと料金も相応に高くなります。よろしいですか?」
「……払いましょう」
では、とザラキエルは集中したような表情で、何かを探るように黙り込む。やがて、ゆっくりとそれを口にした。
「
見たようにザラキエルは語る。いや、実際に見てきているのか。
しん、と静まり返った中、冒険者の誰かが発した乾いた笑いが冒険者ギルドのどこかで響いた。
楽勝な依頼じゃないのか、という声もどこかから聞こえてくる。
ザラキエルは、ギルドマスターを憐れむように見て淡々と言った。
「老婆心ながら忠告するなら、襲撃はしない方がいいでしょう。襲撃した場合の、先の未来をほんの少しだけ見ました。王国各地の冒険者ギルドがゴーレムに襲われていました。職員と冒険者は例外なく、全員殺されていました。レオンハルト・ヴィクターはレベル100オーバーの
ああ、第二王子も殺されていましたよ王国軍ごと潰されていました、と本当についでのようにザラキエルが告げ、ギルドマスターは困ったようにサブマスターを見た。
「……王子からの依頼なのだが?」
サブマスターも呆然としたように言った。
「今の予知を教えては?」
王国の歴史に現れた不死の少女ザラキエルの『予知』は詐欺扱いされることもあったものの、彼女が千年以上を生き、
それでも念の為、スキルで真偽判定を行える職員が「嘘は言ってません。
「依頼、やめるか」
マスターは呟いてから伸びをして「解散解散、超越者相手とか馬鹿らしいッ! やってられっかよッ!!」と叫んでギルドマスターの執務室へと戻っていく。
サブマスターがザラキエルに「どうぞ。代金です」と代金であるミスリル貨を渡し、S級冒険者たちが「無理無理。死にたくねぇわ」「誰も王国に来てるレオンハルトを『鑑定』しなかったのかよ」「レベル100ゴーレムの巣窟ってなんだよ」「浅層だけでも死者続出の魔の森を拠点にしてんのかよ。ミスリル貨そりゃ持ってるだろうな」なんて話し合いながらテーブルについて、酒とつまみを頼んでごくごくやり始める。
「嘘だろ、俺が……死ぬところ、だった?」
カインが呟けば隣で幼馴染にして冒険者仲間の美少女や他のメンバーが「あー、危なかった。やばかったね」と気軽に笑っていた。依頼中止は残念だが冒険者にとっては死ななかったことだけがすべてだ。
それに予知結果を教えれば、第二王子もギルドを責めることはないだろう。相手が悪すぎるからだ。これで強行するようなら王国中の冒険者ギルドが王子の敵に回るだろう。
直接第二王子を攻撃するわけではない。第二王子の敵対派閥にSランク冒険者が雇用されて、貴族同士の小競り合いに助力するようになるのである。
周囲が落ち着いていく中、カインもまた、フェイリーなどどうでもよくなっていた。
たかが美少女武将一人だ。転生して得られた自分の命には変えられない。
そしてセーブ&ロードがないことに今更気づくのだ。
ゲームのように冒険に送り込んだキャラクターが死んでも、この世界ではロードできない。
今回は予知のおかげで、取り返しがついたが、そうでない未来があったのだ。
(俺、このまま冒険できるのかな)
死ぬのは怖い。そういう感情と理性がカインには残っている。
そんなカインの傍にいつの間にかザラキエルがいた。
いつもなら原作ゲームに登場した美少女を口説けるチャンスに飛びつくカインだったが、今はそんな気分ではなく「あ、ザラキエルさん」とだけテンション低めに言う。
「
「……殺される、から?」
転生者とバレていることに動揺するも、死ぬところだった、という情報であまり頭が働かない。
そんなカインに、ザラキエルは先程の予知の結果ですが、とカインに教えようとして、周囲を見て、酒場の隅にカインを誘導する。
なんなんだろうと思いながらも茫然自失としたカインはそのままついてきて、その予知結果を聞いてしまう。
「転生者レオンハルト・ヴィクターも、貴方が転生者であることに気付いています。それは貴方の商会が不自然だからですね。なので仮に貴方と彼が敵対した場合、彼は貴方のスキルなしでもストレイファ商会が正常に稼働するのか興味を持ち、貴方のレベルを1にして、貴方のスキルの『完全鑑定』と『アイテムボックス』『転移魔法』を実質的に永続作用する呪いで使用不可能にしてから王都に放逐します」
「は……? 俺が、気づかれてる? スキルが、使用不可能って、なんで?」
「ストレイファ商会が転移魔法とアイテムボックスがなければまともに稼げないような構造をしているからですよ。カインさん、アイテムボックスに資金や資材を溜め込んでいるようですが、資金はきちんと王国銀行に預けて、資材は倉庫を借りてそちらに置いておくことをおすすめします。遊技場気分でこの世界を遊んでいるようですが、カインさんは無敵ではありません。レオンハルト・ヴィクターは敵対していないから貴方を無視しているだけで、敵対したらそういう実験を貴方で行うつもりです。現在の彼の貴方に対する興味は、貴方なしでも貴方のスキルに完全に依存して商売をしているストレイファ商会が崩壊しないか、という点ですね。彼は自分のハーレムが自分がいなくなったあとでも問題がでないか気にしているのでしょう」
カインは自分がスキルを失ったら、ということを考えて、気分が悪くなった。レベルは鍛え直せばいい。だがアイテムボックスに依存した稼ぎは変えられない。だがこれも修正しなくてはならないのだろうか。
原作キャラクターに遊技場気分と言われてしまったこともショックの一因ではあったが、カインは、ザラキエルに何かを言う気分にはなれなかった。
それでも聞きたいことがあって、口を開く。
「なぁ、この世界は
原作キャラクターに、シナリオのことを聞くなど、という疑問もあったが、この少女は自分以上にこの世界を知っているようで、思わずといった形で問いかけてしまう。
「ずっとシナリオなんかなかったんですけどね。神々も乙女ゲームだの、戦略ゲームだの、ざまぁ小説だのと変な要素を持ち込みやがって困ったものです。とはいえ、一番まともにこの世界を
「乙女ゲーム、ざまぁ小説って、まさか、俺以外にも……」
カインが更に問いかけようとすれば、ザラキエルは、さてさて、と呟きながら、では、と頭を下げて酒場から出ていってしまう。
追いかけようにも、足が動かなかった。
外に出れば自分がゴーレムに襲われて、そのまま死んでしまうと考えてしまったからだ。
(考えすぎだ。敵に回さなければいいってザラキエルも言ってただろ)
周囲を見れば、冒険者たちは先程の依頼など忘れたかのように酒盛りを楽しんでいて、ザラキエルと話していたカインに向けて「振られちまったかぁ色男ッ!!」と声を掛けてくる。
苦笑いしながら席に戻っていくカイン。
依頼のことが過去になっていく中、『剣聖』フェイリーの悪友にしてアクロード王国十四美女の一人『魔導』のラーナが呟いた。
「あんたら、フェイリーのことは、どうでも、いいの?」
フェイリーのことはみんな好きだ。だけれど絶対に死ぬ作戦に命を掛けたいと思う者は誰もいない。
ゆえに誰にも、その言葉は届かなかった。
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