029 転生者、奴隷と決闘をする


「旦那様ッ、どうか私と戦ってください! そしてぶちのめしてください!!」

 外壁の確認に拠点を歩いていたら、ものすごい美人の普人種の奴隷に話しかけられる。

「ぶちのめす……?」

「おいッ、フェイリーやめろッ!! 相手は旦那様だぞッ!!」

「そうよ! 何考えてんのよ!! 騒ぎを起こさないでよほんとッ!!」

 戦士風の美人と、魔法使い風の美少女がフェイリーを押し留めようとしている。


 ――フェイリー。フェイリー・マグナソード。


 腰まで伸ばした白髪に、黄金の瞳をした美女だ。アクロード王国十四美女の一人。

 ええと、確か――この前仕入れた戦争捕虜の奴隷だな。

 とある侯爵家と伯爵家の水争いが発展した小規模戦闘で、侯爵側で雇われていた元Sランク冒険者の奴隷だったはずだ。

 一緒にいる二人の美女はフェイリーのパーティーに所属していた冒険者だ。

 こいつらが捕虜になったのは、侯爵側が情報不足で――これは俺がアサシンを殺しまくった影響だな。うちの令嬢たちのアドバイスで侯爵家の情報収集担当兼敵将暗殺用のアサシンをぶっ殺したのは俺だ。令嬢の一人の敵対派閥だったからなこの侯爵――無謀に死地に傭兵と冒険者部隊を突っ込ませた結果、フェイリーのパーティーを除いて冒険者と傭兵の部隊は全滅。こいつらは抵抗するも魔力切れになった魔法使いを人質に取られて降伏した。

 なお、捕虜になったがこいつらは処女である。

 捕まったのに処女なのはこいつらが美女で、美少女だからだ。

 処女じゃなくなると女奴隷の価値は相応に下がるのだ。トラウマで心も荒んで教育もかかるようになるしな。

 なのでこの世界では高値で売れそうな美しい女は、売却のために手を出さないように徹底されるらしい。

 閑話休題それはそれとして

 こいつらは購入して教育にまわしていたから、会ったのはこれが二度目だった。

 それで要求がぶちのめせ? 主人である俺が奴隷の要求を聞く必要は基本的にないのだが、ちょっと興味が湧いてくる。

「ぶちのめせばいいのか?」

「た、戦ってくださるのですか?」

 うるうる潤んだフェイリーの黄金の瞳が俺を見つめてくる。俺は精神的にヒキながらも頷いた。変態プレイはあまり好きではないが、まぁぶっ飛ばすぐらいなら、うむ。

「じゃあここで始めるぞ」

「ここで! はいッ!! いきますッ!!」

 護衛か警備の仕事でも割り振られているのか、腰にぶら下げた剣を引き抜いて突っ込んでくる『剣聖』フェイリー。

 俺はゴーレムを呼び出すのもめんどくさいので、突っ込んできたフェイリーを無詠唱の風魔法で捕らえるとそのまま拘束。フェイリーが「ええ!? 何!? 動けない!?」と驚いているところに風の刃を四肢に向かって投擲。フェイリーの腕と足が根本から吹き飛ぶ。

「があああッ!?」

「フェイリー!!?? 旦那様ッ!! フェイリーを殺さないで!!」

 悲鳴を上げるフェイリーとその仲間たち。

 それでも俺の動きは止まらない。風魔法で拘束され、宙に浮いたままのフェイリーの胴体にまだ少年の身体である俺の蹴りを叩き込めば、拠点の石畳の上を血飛沫を撒き散らしながらフェイリーがゴミみたいに吹っ飛んでいく。

 フェイリー!? と元Sランク冒険者である金髪ツインテール魔法使い美少女の『業火』のレンカと、赤髪をざっくり短く切ったツンツン頭の美女戦士である『鋼鉄の乙女』のソーリャが吹っ飛んだフェイリーを追いかけていった。

「終わったぞ」

 あくびが出るような退屈な作業だった。

 超越者である俺を相手にすれば、レベルが100以下の相手はこんなものだった。

 ステータスの差がありすぎて、まず戦いにならない。

 それはレベル差だけじゃなく、俺はステータスが上がる飯も食っているからだ。

 ゆえにどんな優れたスキルを持ってようと、どんな戦闘経験があろうと、ただの人間では俺には勝てない。

 豊富に初見殺しを持っているとか、罠を張ってとか、伝説の武器防具を装備してるとかそういう工夫があれば多少は抵抗できたとも思うが、それすらないのではな。

 とはいえ、倒れたフェイリーは満足そうに血で濡れた顔のままにやにやと笑っている。

 両手足がないというのに、嬉しそうだった。

「は、ははは。流石、旦那様……圧倒的だ。すごい、すごすぎる」

「ちょ、だ、大丈夫なの? ぽ、ポーションは……ない。あ、ああぁ。う、腕とか足を持ってこないと」

「だ、旦那様! やりすぎだって!!」

「黙ってろソーリャ。レンカも取りに行くな。無駄だ」

 レンカが慌てて転がっているフェイリーの手足を取りに行き、ソーリャが俺に文句を言ってくるが、俺はそれらを止めさせて神聖魔法で再生治療を行ってやる。

 肉と骨が盛り上がってフェイリーの肉体が再構成される。

 切り離した腕と足は、Sランク冒険者の手足か。なんかの素材になるかもしれん。俺が氷漬けにすればその辺で作業をしていたゴーレムが素材倉庫に自動で持っていく。

 そうして、奴隷三人組が落ち着いた頃を見計らって「満足したか?」と問いかければ、まだ再生した肉体に慣れていないのか床に転がったままのフェイリーは「満足しました! 流石です。旦那様!」とキラキラした目で俺を見上げてくる。なんなんだこいつは。

「なんなんだこいつは?」

 内心の感想を口に出してしまう。

「い、いや、あたしらにもわかりません」

「フェイリー? ちょっと、落ち着いてよ。どうしちゃったの? 奴隷になって屈辱で狂った?」

 ちょっと失礼なレンカの問いかけにもフェイリーは答えを返さず、俺に熱い視線を向けたまま、懐をごそごそと漁ると俺に向かって先日奴隷たちに配ったスタンプカードを見せてくる。

「旦那様、私、これを貯めて必ず旦那様のご寵愛を得られるように努力します!!」

 旦那様の強さに一目惚れなんです、とフェイリーはそんなことを言って俺に告白するのだった。


                ◇◆◇◆◇


 TIPS:『剣聖』フェイリー・マグナソード

 腰まで伸ばした白髪に、黄金の瞳をした美女。アクロード王国十四美女の一人、二十歳処女。

 貴族令嬢だが、実家から出て仲間と武者修行の旅に出ているSランク冒険者。

 神授スキルは剣術系の最高峰スキル『剣聖』。

 固有スキルは刃の軌跡を自在に操る『斬線』。

 水争いを発端とした貴族の戦争にパトロンの侯爵陣営で参加したものの、情報収集を行うアサシンがレオンハルトに殺されていたために情報不足のまま死地に突っ込まされて捕虜となったあとに奴隷商に売られた。


 ゲームでのフェイリーはSランク冒険者パーティー『剣の乙女』のリーダーとして主人公とアクロード王国の様々なダンジョンや戦場でランダムに遭遇するキャラクターである。

 会話や遭遇での好感度上昇はほとんどなく、戦場で共闘するか、敵対時に勝利することで微かに好感度が上昇し、二十回ほど好感度上昇を行うことでプレイヤー陣営で雇うことができるようになる。

 雇用ができるようになったあとは出撃させることで好感度が上がっていき、最大まで上がり切ると決闘イベントが発生し、勝利することで恋人や愛人にすることができるようになる。

 フェイリーは『英雄』レイラに匹敵する近接戦闘能力を持つものの、攻撃魔法の適性ランクが低いため、フェイリーと同時に雇えるSランク冒険者にして魔法使いの『業火』のレンカを副官にすることで部隊の魔法戦闘力を補うことが可能になる。

 シエラの連鎖イベントに関係ない十四美女かと思えばそんなことはなく、シエラ獲得後にフェイリーについてシエラに聞くと出現する戦場と日時を教えてくれるのでセーブ&ロードを使わずにフェイリーを仲間にするなら、シエラの獲得は必須である。



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