028 転生者、ポイントカードを作る


 暗殺者狩りを始めてから一ヶ月ほど。ここの開拓を始めてから三ヶ月。

 最初に連れてきたメイド五人娘の腹も少しずつ膨らんできていて、最近では仕事を抑え気味にしてもらっている。

 とはいえ人手は十分で、むしろ余っているとさえ言えた。

 俺が無秩序に奴隷を購入してくるために拠点の奴隷は五百名を越えていたからだ。

 奴隷用のアパートメントは軒を連ね、連日連夜わいわいきゃいきゃいという美少女たちの楽しげな声が聞こえてきて俺も楽しい。

 奴隷の種類は様々だ。普人種――普通の人間だ――に、亜人は獣人をはじめとして、エルフ、ハーフエルフ、ドワーフ、ハーフリング、リザードマン――二足歩行のトカゲといった魔物モンスタータイプではなく人間タイプのリザードマン。鱗の生えた人という感じの種族――などの奴隷を俺は購入している。

 王都を始めとして様々な領地にも俺は奴隷購入に赴いており、特に帝国や共和国の商船もやってくる港町などでは数と質、ともに大量に揃えることができた。

 あとは珍しいところでは王都の奴隷商が高値すぎて売るにも売れずに抱え込んでいたというハイエルフ一名――その奴隷商の曽祖父の代から奴隷商に住んでいた――に、鱗の生えた人間という姿かたちをした、リザードマンとはまた違う、竜化という技能を持つ希少種族である竜人一名。

 あとはおとぎ話から出てきたみたいな人魚三名に、魔物ではない吸血鬼種族の美少女が一名。

 誰も彼もが美少女奴隷で、そんな美少女奴隷たちは教育が終わった端からメイド、農業、牧畜、錬金術に大工、鍛冶、木工、製薬などの仕事が割り振られている。

 あとは出かける令嬢の護衛とかだな。

 担当するのは、もともと冒険者や傭兵や兵士だった奴隷だ。

 ほとんどは獣人諸族連合である獣人王国と、人間の王国との紛争に参加して負けて捕まった戦士階級の獣人などが担当してくれているが、他にも冒険に失敗して怪我して治療のために身売りをするしかなかった冒険者や貴族間抗争で敗北した側についた傭兵もいる。

 なおギャンブルで借金落ちした奴隷などは購入していない。

 奴隷たちは従順だ。

 奴隷商が施す隷属の効果を持つ奴隷紋の効果もあるが、俺のレベルが圧倒的に高いことで獣人たちが本能で群れの長と認めていることもあるが、婆さんを始めとして令嬢たちが連れてきているメイドたちが教育したせいだな。

 ちなみに俺があんまりにも奴隷を増やすために他の令嬢も実家から婆さんみたいな教育係を連れてきてくれている。

 拠点で働く美少女奴隷たちは実に従順で、様々な種族がいて目に楽しい。俺はいつ抱けるのかとわくわくしていたのだが。

「御主人様はいつ私たちをお抱きになるのですか?」

「え?」

 ハーレム館に設置された執務室で、ここまで人数が膨れ上がると様々な書類仕事が発生するせいか、書類整理をしていたところ、エルフ奴隷の取りまとめを任せていたハイエルフのシーリア・ライトニング・ヴォルグ・エーベンベリクス・ユグドラシル・エーテルリングが陳情にやってきたのだ。

 え? と問い返せば、精霊が人になったみたいな神秘的な表情の、いつもは澄ました顔をしている人形のごとき絶世の美少女の顔が不機嫌そうに歪んでいた。

 金色の瞳が俺を睨むように見ていて、そんな顔で言われた言葉に俺は、ええっと、と困ったように渡されたそれを見た。

 陳情書と書かれているそれには、エルフ奴隷たち総勢35名の名前が書かれている。

「奴隷からこういうことを要求するのは筋違いで、マナー違反で懲罰に値するとはわかっていますが、御主人様、どうかご寵愛を我らエルフ種族にも」

(あれ? こいつらに手を出してもよかったっけか?)

 思えば、最近は令嬢地獄に嵌っていて、ババアに手を出していい、と聞いていなかった。

 次々に増えていく令嬢にばかりかまけていて、最近は奴隷とセックスしたいな、と思っても口に出す暇がなかったからだ。

 鮎の友釣りというか、令嬢の令嬢釣りというか、なぜかよくわからないうちに、拠点にいる令嬢が友人の貴族令嬢を紹介してくる循環が生まれはじめているのである。

 それは大抵は婚約者がひどかったり、未だに婚約者が決まっていない美少女だ。

 それでもどんどん増えて、今では拠点に住んでいる貴族令嬢は総勢四十二名になっている。

 そして全員に手を出しているし、半数以上が妊娠済みだ。

 ちなみに貴族令嬢に美少女が多いのは、美少女が生まれやすい血統というだけでなく、高度な教育を受けている人間はたいていぼやっとした顔をしないものなので普通の平民よりも顔に自信が漲っていて、美人に見えやすいというものもある。

 それに優れた男との結婚を狙っている貴族令嬢たちは美容に気を使っているし、貴族は魔力を持った生物なので、容姿においても魔力のない生物より上位に立っている。

 魔力持ちは、種族の上位種なのだ。ハイヒューマンという奴だな。

 つまり全員大なり小なり魔力持ちである貴族令嬢たちは必然的に美少女になる。

 まぁ絶対ではないから、ブサイクも存在するらしいが、俺の美少女好きを知っている令嬢たちは、外見に優れた娘だけしか連れてこないので拠点には美少女しかいない。

 そんなわけで増えていく令嬢や、そんな令嬢が連れてくる美人や美少女のメイドばかりとヤッていて、美少女奴隷たちのことはすっかり頭から抜けていたのだが、ええと、あー、エルフが抱いてほしいと?

「なんか似たような紙をさっき見たな」

 ごそごそと山になっている書類を漁れば、ああ、あった。

「獣人種族と普人種もセックスの要望を出してるな」

 ちッ、という舌打ちをハイエルフのシーリアがする。

 ジト目で見れば「失礼」と頭を下げられた。エルフ種はナチュラル傲慢種族なんだよな。

 そんなことを考えながら、そういえばと婆さんから言われたことを思い出した。


 ――エルフ種族には最後に手を出していただきますよう。


 高慢な彼女たちは、基本的に多種族に対してマウントを取りたがる性質がある。この拠点では種族ごとに待遇を変えているが、それは住みやすくするためだけで、種族に対する優遇措置は基本とるつもりがない。

(だから奴隷と貴族令嬢だと、待遇は実のところあんまり差がないんだよな)

 せいぜいが令嬢たちは労役の義務がない、といったところだが商会を立ち上げたシエラが活発に動いているために令嬢たちの間では仕事しとくか、みたいな空気があって、みんな自分たちができることを勝手に探してやっている。

 もちろん俺は強制しないし、真面目に何もしたくないなら食っちゃ寝してても怒らない。妾の仕事は俺に抱かれることだからな。でも何もしないとボケるのが早くなるって教えてあるから、何かするのが拠点での推奨行為である。基本的にここって暇だしな。

 話を戻すと、つまり令嬢たちと奴隷では、実際の扱いに差がない。

(まー、令嬢は貴族令嬢というよりも俺の妾だからこの拠点での立場は上だし、奴隷たちは奴隷だからこの拠点内での地位は下って感じに扱われてるが)

 それでも、そもそもが俺が身分にあんまり拘りがないせいで、あからさまな身分差のようなものは拠点内では感じられない。

 あと婆さんがこの拠点内では俺に抱かれることは至上の幸福であると教育・・をしているために、奴隷たちの間ではどの種族が俺に最初に抱かれるのか、賭けのようなものが行われているようだった。

(マウント取るのが生きがいみたいなエルフ種族にとって、俺に最初に抱かれないのは問題なんだろうな)

 種族的敵対心のあるドワーフ種族が先に抱かれたら、憤死しかねない程度には。

 そういうことを理解していた婆さんは、エルフを最後に抱くことで他の種族へマウントを取らせないようにしたかったんだろう。

 ふぅむ、と俺は唸る。そういうことならシーリアの陳情を叶えることはできない。奴隷間でそういったマウント取りをやられると俺が知らない部分で争いが起きてしまうだろう。いや、喧嘩を防ぎたいなら淫紋つければいいんだろうけど。

(淫紋は『家族化』が起きるからなぁ)

 やりたくない仕事もやらせることができるから奴隷なのだ。きつい汚い危険の3K仕事とか、うちではゴーレムがそれを担当してくれているが、徐々に人間に切り替えていかないとまずいってことで、なるべく安全なものを奴隷に担当させていくようにしている。

 しかし淫紋を刻めば『家族化』でそういったことをやらせることを戸惑わせる効果が貴族令嬢たちの間に出るようになる。

 家族化だからな。家族には危険なことさせられないってことだ。

 つまり捨て駒とかにもできなくなる。

 俺はこの世界で十年以上生きてるから、元の世界の価値観もだいぶ薄れていて、奴隷の扱い方もきちんとわかっている。

 奴隷は高級車程度には大事にすべきものだが、仲間や家族の命に変えても守らなければならない、というものではない。

 心の区分では奴隷は高価な財産・・なのだ。

 期待して俺を見ているシーリアに俺は「まぁ考えておく」と退室するように促す。シーリアは俺の塩対応に手を出してもらえないと思ったのか「あの……私、まだ処女です。御主人様、貴重なハイエルフの処女を貰っていただけませんか? ご奉仕したいんです」と媚びた笑顔で迫ってくる。


 ――うーむ、ひじょーに手を出したい!


 とはいえ、だ。ちょっと怪しいのでこの娘が俺にここまでしたい考えを推察してみる。

 シーリア、このハイエルフの娘は、ハイエルフが住む『精霊の森』で生きてきて、たまたまふらっと外に出たらエルフの奴隷狩りに攫われた不幸な少女だ。

 ただしシーリアは設定された値段が高すぎて売れず、百年以上奴隷商の家で売れ残っていた奴隷でもあった。

 とはいえ悪い扱いはされておらず、魔法を使った労働や客寄せパンダとして高級ペット程度には贅沢もしていた模様。

 そんなある意味お姫様扱いされていたシーリアにとって、いや、各奴隷商でも高級奴隷としてちやほやされていたエルフ種にとって、エアコンや美食があって肉体的には元の環境よりも住みやすくとも、精神的には他の奴隷と平等扱いでストレスが溜まっている――のかな?

(エルフ種は高価な奴隷なので基本的に大事にされるし、他の奴隷と差がつけられる。というか粗末な扱い方をすると機嫌が悪くなって売れにくくなるので必然的に一段階上の扱いが行われる、と聞いてるが?)

 高貴で高慢なハイエルフが俺を誘ってくる程度には不満がある?

「シーリア」

 俺は俺を誘ってくるハイエルフの目を見る。レベル差を実感したのだろう。シーリアは「う……」と沈黙してから恐る恐る「無作法、申し訳有りません」と謝罪してくる。

「うん。許す」

 とりあえず淫紋の下位を作るか。奴隷用に上位の淫紋所持者への従属者として紐付けしよう。

 そうして俺はその日一日いろいろ考えた結果。

 奴隷がその日に行った仕事が最高評価だったら監督者にスタンプを一回押して貰えるスタンプカードを作ることにした。

 20個スタンプが溜まったら俺と性交する権利を得られる的なものだ。

 一応、他にも一日外出券とか、有休とか魔道具と交換できるシステムにもしてある。

 なお奴隷は無給ではない。それでも魔道具を買えるほどではない。

 貢献度評価は割と宗教じみてて気持ち悪さがあるが、美少女奴隷の性欲解消ために男奴隷を買う気にはなれないので、こうするしかないのであった。

 ちなみにこの世界の奴隷は奴隷になったらずっと奴隷である。解放されるには主人が解放するか、大金を払う必要がある。

 なので俺も、俺が飽きるだろう二十年ぐらいで解放してやろうとは考えている。


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