024 転生者、美少女錬金術師を買う


 ――旦那様~。すごい美少女錬金術師が王都の奴隷商で売っているらしいですよ~。


 そんな噂を倉庫で作業中のエクレアから聞いたので、真偽を確かめるべく奴隷商に尋ねると紹介状を貰った。

 なので俺は奴隷商に先触れを行ってもらい、馬車を呼んでもらって、貴族を売る貴族がいるという奴隷商へと赴くことにしたのだ。


                ◇◆◇◆◇


 王都の邸宅で暇をしていた美女メイドと一緒に馬車に乗って、きゃいきゃいデートを楽しみながら王都を観光しつつたどり着いたのは、貴族街だった。

 その貴族街を移動してたどり着いたのは、奴隷売買を行っているとは思えないほどの立派な邸宅である。

 いや、王国内で奴隷売買は別に違法ではないから薄暗い場所で奴隷を売っているわけではないのだが、どうにも奴隷を扱っているとは思えないほどの、気品のある場所でちょっと驚く。

 そこで執事に紹介状を渡せば、館の主である貴族がやってきた。

 お互いに挨拶をして、お茶を飲んでゆっくりしてから本題に入れば、目の前に、絶世の・・・美少女が連れてこられる。

「ふぅん、君がボクの御主人様かい?」

「あー、見た目だけで購入に意欲的になってきたな」

 すごいな。うちの美少女令嬢トップスリーであるシエラやレイラ、セーレ並の美少女だ。

 人知を超えた美貌というか、魅力値が高いのか、目の前の少女はある種の輝きのようなものを纏っている。

 これで錬金術の素養もあるのか? 特殊技能持ちの美少女を奴隷にできるとか、ミスリル貨百枚ぐらいしそうだ。

 いやまー、実際に人間一人にそこまでの値段はつけられないけどな。

 ミスリル貨はSランク冒険者でも安定して手に入れることはできないので、だいたいはそれなりに流通量の安定している金貨何千枚に加えてミスリル貨何十枚とか、そういう値段の世界になる。

 この世界には大金貨も存在しているが、あまり見ない。

 どうにも存在はしているが、集めるのが大変な種類の貨幣らしい。

 ダンジョン貨幣ってドロップ中心で、生産できないから数が中途半端なんだよな。

 そのくせダンジョン貨幣は価値が安定してるから一応造ってはいるらしいアクロード王国貨幣とかほとんど見ないし。

「そう? お気に召して嬉しいよ。あ、ボクはスズ・パラケルスス。パラケルスス公爵家の五女で、アクロード王国十四美女の一人だよ。歳は十八」

 短い黒髪をして、黒い瞳を持つ少女。纏っているローブは白衣にも似た形をしている。

 身長はまだ低身長の俺より少しばかり高い。とはいえ、背の小さい貧乳美少女だな。まだガキの年齢の俺が言ってもアレであるが。

 そんな年上の少女スズは自らをアクロード王国十四美女と名乗った。シエラやセーレと同じ称号だな。十四人しかいないのに、こんなポンポン現れるものなんだろうか? なんて思いながら俺は「レオンハルトだ。お金持ちの魔法使い」と名乗り返す。

「それで、ボクを奴隷として買う条件なんだけど」

「条件?」

 奴隷商である子爵貴族を見れば「そういう条件をつけた高貴な方を、必要な方に紹介するのが私の仕事でね」と説明してくれる。どうやら事前に調べておくべき情報のようだった。レベルが上がりすぎると初見の危機にも対応できるからどうにも行動が雑になるんだよな。反省。

「了解。条件があるのか。たいていは満たせる自信があるけど、その条件ってのはなんなんだ?」

「錬金術の研究にお金を出してほしい」

 いくら? と聞けばボクが望むだけ、と言われる。

「望むだけって、意味不明だな」

「あるだけ金を出せ、と、同じことを言ってますのでこの器量でもスズ様は売れ残っている次第でして」

 貴族商人のおっさんに言われて、納得する。

 錬金術の研究は魔道具研究のついでに俺もやっているがお金のかかる研究だ。

 俺が使っている素材を金で集めようと思ったら、いくら金があっても足りない。

 だから金のかかる研究だということはわかる。それで、じゃあ金出して終わりなのか?

「研究で生まれた技術は、どうなるんだ? スズのものになるのか? それで商売して俺が儲けたら利益はスズのものになるのか?」

「んー、それで稼いだら、レオンハルト様が好きに扱ってくれればいいよ?」

 適当すぎて内心呆れかえる。

 だいたいスズの研究を自由にできるとしても研究費以上に稼げなかったら大損だ。これだけの美少女が売れ残る理由がわかる。

 さて、じゃあ俺はどうするのかと言えば。

「わかった。契約しよう。つか俺、エロいことめっちゃするけど大丈夫? 性魔法覚えてるからバンバン産ませるよ?」

「即決!? すごいね。子供はまぁ、ボクも貴族だから大丈夫。覚悟してる」

「あと錬金術だけじゃなくて魔道具作りも手伝ってほしいんだけど。できるか?」

「魔道具? うーん、まぁ苦手じゃないけど得意でもないかな。知り合いに声掛けようか? シメトっていう娘なんだけど、研究費出してくれるなら身売りしてくれると思うし」

 言われて、美少女ならと答えれば、同じアクロード王国十四美女だと言われて、同じ称号だからつながりがあるのかな、と思いながら俺は了承するのだった。


                ◇◆◇◆◇


 TIPS:アクロード王国十四美女イベント

 『人材メーカー』シエラ・カノータスを仲間にすることで始まるこのイベントは連鎖イベントであり、十四美女が発生させるイベントや、彼女たちが連れてきた人材から聞いた情報から十四美女を入手できるイベントが発生する。

 ただし美女たちそれぞれの獲得難易度は相応に高く、『歌姫』セーレ・アダマス、『錬金術師』スズ・パラケルスス、『魔道具研究者』シメト・トリスメギストスなど、獲得に大量のダンジョン貨幣が必要なうえ、『大商会』や『港湾施設』などの高効率施設が生み出す利益以上の人材維持費を必要とする人材も存在する。

 あるだけの資金を際限なく使う金食い虫のスズ、ドロップ魔石をあるだけ使って魔石倉庫を空にするシメトなどは最終的にそれ以上の利益を生み出す存在になるものの、資金調達手段の乏しい序盤に獲得すると主人公が借金漬けにされてバッドエンドになることでも有名。


                ◇◆◇◆◇


「申し訳ございません。お引取りください」

 転生者カイン・ストレイファは貴族令嬢を専門に扱う奴隷商人の館の前で執事によって追い返されていた。

 これはレオンハルトがスズ・パラケルススを購入し、そのスズの紹介でこの貴族を仲介としてシメト・トリスメギストスを奴隷として購入した数日後のことである。

(ちッ、やっぱシエラの連鎖イベントから入らないとここは利用できないのかよ)

 正確にはシエラの人材収集イベントで手に入れた令嬢人材から『噂』を聞くことで利用可能になるはずだ、とカインはゲーム知識とすり合わせる。

 まさか門前払いされるとは思わなかったが、と思いながらも執事になんとか食い下がろうとする。

「スズ・パラケルススがパトロンを求めて身売りしていると聞いたんだ。なんとか話だけでもできないか? そのときに、あちらが出す条件をすべて飲むと伝えてくれ。きっと良い返事がもらえるはずだ」

 それでもカインはスズの獲得を諦めることができなかった。

 『錬金術師』系キャラクターの中でもスズは唯一全研究項目を達成できる研究者だ。

 ゲーム中に存在した研究ツリーの最終段階『エリクサーの量産』や『賢者の石の生成』などは、スズでなければ達成できない研究項目である。

 いや、現実化したこの世界であれば地道に錬金術師を育てていけばいけるのかもしれないが、やはり確実に成功できるスズでなければならないとカインは、カインの懇願を退ける執事に何度も言葉を重ね、スズと会えないか交渉する。

 そんなカインに対して、執事は深い溜息を吐いて「ですからストレイファ騎士爵をお引き合わせすることはできません。そもそもどこで、誰から、騎士爵はパラケルスス嬢のことをご存知になられたのですか?」と逆に問い返される。

 そんなもの転移魔法と影魔法を駆使してパラケルスス邸を監視し、メイドたちの噂話などからこのイベントに結びつけただけに過ぎないが、そんなことを正直に言うつもりはない。

「そんなことどうだっていいだろう? 冒険者だからな俺は」

 たいていの相手はこう言えば黙る。戦闘を生業とする冒険者の手札を、対価も払わずに聞き出すことは、常識知らずな行いとなる。

 これはときおり冒険者の中には家を継げない貴族の子供などが混じるために、貴族相手でも通じる手法だった。

 そんな冒険者の暗黙の了解をカインは利用して執事の質問を退けようとしたが、それで執事の方は目を細めてふん、とカインを嘲笑った。

「そのような口に出せない方法を用いるような方だから、騎士爵にはここの利用が許されないのですよ」

「……どういう意味だ?」

「言葉通りですよ騎士爵。当店は事情のある貴族の令嬢を、安全で信頼のできる方と引き合わせることが目的の場所でございます。ゆえに、当家をご利用できる方は、当家と縁のあるご婦人やご令嬢より、『噂』が耳に入るようになっているのですよ」


                ◇◆◇◆◇


 ち、とカイン・ストレイファが執事の前で舌打ちをする。

 そういうことかと呟くカインは執事の前で不機嫌を隠さない。

 令嬢専門の奴隷商――というよりも事情アリ令嬢専門の結婚斡旋所・・・・・を営む貴族館。その差配を任される執事は、カインのそういう態度がダメなのだと思ったが口には出さない。

 この執事とてストレイファ騎士爵の活躍は聞いている。若きA級冒険者にして、竜殺しの英雄。そして上がり調子のストレイファ商会の会長。

 だが執事からしてみればそんなことは令嬢を紹介する理由にはならない。強かろうが弱かろうが、預かっているご令嬢を預けるに足る男だと信頼・・できることがすべてだからだ。

 そういう意味で、このカインという男はダメすぎた。

 貴族の常識に疎いのか、紹介状も先触れもなしに貴族の館を訪れる無作法。前回訪れた魔法使いのレオンハルトと比べれば、違いは明らかだ。

 あちらは爵位を持っていないと聞いているのに、その辺りはしっかりとしていた。何よりあの少年はがっつかなかった。不躾に用件を尋ねるのではなく、館の主人と歓談して会話を楽しむ余裕すら見せていたし、愛人らしきメイドを連れて自分が女たちを満足させていると主人に証明してみせていた。

 主人が最終的にスズを売ることを了承したのは、レオンハルトが連れていたメイドたちに傷一つなく、肌ツヤも良く、衣服や装飾から金がかけられているとわかったからだ。愛人兼従者のメイドにそれだけ金をかける男が、たかが愛妾とはいえ、金を出さないわけがない。

 それに比べてカイン・ストレイファの情けないことだ。

 学院に通っているというのに、貴族学や領地経営学は取っていないのだろうか。

 この少年は学園で何を学んでいるのだろうかと、カインが、もう邸宅にはいないスズに会わせてくれと懇願するのを執事はやんわりと受け流す。

 執事にはわからないことだが、カインがここまで無作法なのは、単純にここをゲーム時代の奴隷店と同じだと思っているからだった。

 イベントで訪れるようになることのできる人材ショップ。要求を確認して、購入ボタンを押せば人材が加入する施設――そこからがまず間違っていた。

 レオンハルトは錬金術の使える美少女を妾にするために訪れた。

 カインは違う。奴隷として売りにだされる最高の能力を持つ錬金術師を金を出して雇いに来ただけだった。

 また前世の常識やゲーム時代の感覚がまずかった。権威と魔力で武装した貴族を、それだけ・・なのに偉そうだと内心で馬鹿にしていることもカインが貴族のマナーに疎い点を補強している。貴族の常識など眩いばかりの功績でどうとでもなると思っているのだ。

 カインの頭の中には、シエラは失敗したが、スズを雇うことで連鎖イベントを発生させて魔道具研究者のシメトを引っ張り出そうという考えもあった。最強の戦力を発揮できる兵士ユニットを量産するためには最高の魔道具研究者のシメトが必要だったからだ。

 しかし、そんなカインの浅はかな考えは、あんまりにもしつこいために呼ばれた貴族街の衛兵によって防がれることになる。


                ◇◆◇◆◇


 TIPS:貴族専門奴隷商人グラットン・ジョー

 ジョー子爵は貴族令嬢を専門に扱う奴隷商――という建前で訳あり令嬢の婚姻の斡旋を行っている貴族。

 子爵は、爵位こそ子爵だが王位継承権がない傍系の王族でもある。

 ゆえに王国中の貴族にコネクションがあり、ゲームでは好感度が上がると様々な訳あり令嬢をプレイヤーに紹介してくれるようになる。

 なぜわざわざ令嬢を奴隷に落とすのかと言えば、奴隷の方がただの令嬢よりも法律での守りが効くからである。

 大陸奴隷法には奴隷に契約外の仕事をさせたり、犯罪奴隷以外を無闇に傷つけたり殺したりしてはならないとある。もちろんそれらの契約は破ろうと思えば破ることは可能だが、その場合は、奴隷商の間でブラックリストが出回るうえに、被害が大きい場合は大陸中にコネクションを持つ大陸奴隷協会より高レベル暗殺者の刺客が派遣されることもある。

 対してただの令嬢の場合、そこまで手厚い保護は望めない。

 まかり間違ってジョー子爵の人物選定をくぐり抜けた購入相手が令嬢を傷つけたり殺したりして喜ぶ変態だった場合、ただの令嬢では成すすべもなく殺されるだろう。

 なぜならここで紹介される女性たちは、何かの理由でまともな婚姻の望めない訳あり令嬢なために、令嬢たちの実家の守りもそこまで厚くないのである。

 また、ジョー子爵を経由して、奴隷となることで穏便に貴族籍から抜けて平民落ちすることが可能。

 ゆえに豪商などの、裕福な平民にもジョー子爵は令嬢を紹介することがある。


 この特別な奴隷ショップの利用方法は、ジョー子爵とのコネクションを持つ貴族より『噂』を仕入れること。

 噂は条件を満たした客を呼び寄せるためにジョー子爵が差し出す招待状である。

 ただし、招待状を受け取ってからもマナーには気をつけた方がいい。

 ジョー子爵は令嬢の幸福な婚姻を望む貴族ゆえに、マナー知らずの無礼者には相応の罰がくだされるだろう。


 ゲーム内でのペナルティー:名声値の低下。また高位貴族の間でブラックリストが出回り、ジョー子爵を始めとした様々な王国貴族系ショップの出禁措置がとられる。


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