022 シエラの美少女人材収集


 シエラが王都で活動を再開し始めてから一週間が経過していた。

 彼女はその間、子爵家の伝手を使って転移拠点となる屋敷を即金で買い、商会設立の準備をしながら時を過ごしていた。

 なお、その間にレオンハルトは魔道具を作ったり、侍女候補となる奴隷を増やしたりして屋敷の奴隷は五十名を越えていたが、未だに夜はシエラとレイラが相手をしていた。

 教育係のばあやが仕事を覚えてない奴隷に手を出すなと厳命しているからだ。

 しかし、シエラは自分がもたないので、夜の相手を増やさないと、と考えている。

 性魔法を操り、絶倫のレオンハルトを相手にしていると快楽漬けになってしまうという危惧の前に、レオンハルトは絶対に避妊をしない性格なので年内にも第一子を孕んでしまうだろうという危惧があったからだ。

 妊娠は構わない。この世界の普通の男は要求されない限り女に任せて何もしないが、レオンハルトは子供を生むメイドたちのためにわざわざ産婆を探すような奇特な主人だ。

 だからシエラたちが孕めばレオンハルトは相応に大事にしてくれるようになるだろう。

 ただ、妊娠すると動きが鈍くなる。

 その前にシエラたちは商会を立ち上げてしまいたかった。

 あと五年もある、ではなくしか・・ないのだ。

 商会を軌道にのせるには、また別の苦労もあるのだろうが、とにかく動き始めないと何も始まらない。

 そんなことを考えながら、授業が始まろうとする学園の教室の一角にシエラとレイラはいる。

 彼女は手元のスマホを操作して、自分の行動計画を打ち込んでいく。スマホには個人認証機能があるので下手に書類に残すよりずっと信用できたからだ。

 そこに話しかけてくる女生徒がいる。

「あら、シエラ――……その、首のは」

 シエラの細い首を飾るチョーカーを見て、その女生徒は言葉を濁す。

 指輪系の装飾品は婚約や結婚の証であるが、首輪系の装飾品を貴族令嬢がしている場合、側室や妾の証と見るのが基本だ。

 そうでない場合であってもそう・・見られる。

 それをシエラが知らないわけもなく、そして、しているということはそういうことなのだろうと女生徒は判断し、シエラの近くにいるメイドのレイラを見て、顔を強張らせる。

 レイラの首にもまた首輪があり、この二人がセットで誰かの所有物になったとわかったからだ。

 女生徒は驚愕しながらも今更ながらに教室を見れば男子生徒の数が極端に少なく、また床に吐瀉物の痕跡があった。

 そう、久しぶりに登校してきた貴族学園の金銀二華を見て、現実を認識できなくなった男子生徒たちが僕が先に好きだったのに……や、寝取られNTRた! とばかりに床に胃の中身を吐き散らかしたのである。なお当然だがシエラにはレオンハルト以外に恋人も男女関係のある男もいない。美女を見て自分の所有物だと思うのは独身の男どもの特徴である。

 そんな周囲の反応に、苦笑しか零せないシエラは「久しぶり~。セーレ」と手をふるふると振って、女生徒の注意を向かせた。

「シエラ、私が休んでる間に何があったの? とうとう諦めて妾になったの? それとも側室?」

「戦利品だったんだけど、頼み込んで側室にして貰った」

 あっけらかんというシエラ。妾や愛人だと今後、増えていく奴隷たちに指示を出すうえで面倒だと判断したシエラはレオンハルトの側室にして貰うように頼み込み、了承を得ていた。

 なおメイドたちやレイラは愛人枠である。メイド五人娘は自分たちが平民であるためにレオンハルトの側室などは考えてもいなかったからだ。

 メイドたちの主張は「自分たちはレオンハルトに、母や姉のように甘やかし、恋人のように愛し合い、その結果として子を産むこともしてあげられるが、妻として支えて手助けすることはできない」というものだった。

 淫紋によって家族としての属性を与えられているために、シエラの中にはいつのまにかメイド五人娘たちに対する親愛の情がある。

 ゆえに、メイドたちに対する親愛の情を裏切らないように、側室として支えなければという思考がいつのまにかシエラの脳には発生しており、つまるところそれは――「それで、シエラの旦那様はどこのどなたなの?」

 その言葉にシエラは少し考えた。全てを話すか、誤魔化すかを。

 なお、現在シエラと会話をするセーレもまた、シエラに負けず劣らずの美少女だ。

 海のような色の、深い青い色の髪を腰まで伸ばした、美しいサファイア色の瞳を持つ貴族令嬢。

 セーレ・アダマス。アダマス伯爵の次女にして、アクロード王国十四美女の一人。シエラとは同じ称号を持つがゆえに、お互いに身内意識があり、学園では特に仲が良い。

 そんなセーレにシエラは考えながらも事情を説明していく。

「私の旦那様? レオンハルトって名前の凄腕の魔法使いね。前々からうちの領地で暴れてた盗賊団を退治してくれたんだけど、うちの騎士が功績惜しさに迂闊にも先に非礼を働いてから宣戦布告しちゃってさ。騎士が皆殺しにあったから敗北宣言して、うちの領地には渡せるものが何もなかったから私が戦利品になったわけ」

 騎士グロスに関しては後々の調べで王都から調略を受け、領地を裏切っていたことが判明しているが、シエラはそんなことを正直には話さない。

 セーレは驚いた顔をする。

「賠償にシエラだけ? よくそれだけで済んだわね」

「でしょ? お金もちで凄腕で、でもすっごく甘い・・のよ」

 ついでに言うと夜の方もめちゃくちゃすごい、とシエラはケラケラ笑いながら言う。その言葉に教室内に残っていた男子生徒は机に顔を俯けて、うぅぅ、と泣き喚いた。

 同じクラスなのだから、自分たちもワンナイトチャンスがある。いや、シエラと恋人同士に、なんて妄想をしたことがない男子生徒はこのクラスにはいない。

 クラスメイトの令嬢を侍らせるイケメン高位貴族令息を始めとして、体育会系イケメンや文化系成績優秀イケメン、またシエラなんて知らないとばかりに孤高を気取る陰キャオタク下級貴族令息すらそんなことを考えていた。

 そんな男子たちを横目に、セーレはサファイア色の瞳に嗜虐的な色を浮かべて、シエラから聞き出したレオンハルトの対応を甘い・・わねぇ、とこき下ろす。

「私が同じ立場だったら、シエラだけじゃ絶対に済まさない。領内で略奪しまくって、ついでに子爵の奥方も奪ってたわよ。何しろ彼女は貴方の前の十四美女だしね」

 言えてる、とシエラは言う。

 セーレの発言は当たり前の貴族思考だ。何しろ戦闘力の保持には金がかかる。武器だの防具だのを始めとして、兵隊から下働きの食料から旅装から何から何まで。宣戦布告を受けて、徹底的に勝ったのならば、相手が破滅するまで奪ったところで何も問題はないのだ。無論、国内法としてはやってはいけないというように記されているが、そんなもの国軍がやってくる前にずらかればいい話である。

 そう、本当に最悪の事態だったのだ。

 ゆえにシエラは感謝している。レオンハルトに野心や世俗の欲がなくて本当によかった。

 普通なら村は潰して街は壊して、何から何まで奪っていくのが貴族的に常識的な対応だ。

 それに娘のシエラから見ても母親のクレア・カノータスは、国内有数の美少女であるシエラをそのまま歳を取らせたような清廉な美女だ。男なら絶対に放っておかない。シエラとセットで奪ってもよかったのに、それをしなかった。シエラの家族は守られた。

 シエラは思う。ああ、本当に、旦那様は甘い、と。

 騎士が全滅しているのだから、レオンハルトには何から何まで略奪することのできる機会があったのに、それをしなかった。

 いや、それどころか戦闘が発生してからは街にはけして踏み込まず、都市外壁を破壊することなく紳士的に立ち止まり、今後が大変だからと大金をぽんとくれるまでしてくれたのだ。

 本人がそう思っていなくても借りが多すぎて、シエラとしては自分のすべてを尽くして返すしかない。

 レオンハルトが好む避妊なしの性行為を拒まないのもその為だった。

「まぁ、だから最高の旦那様なわけ」

「レイラまで、いいの?」

 セーレはシエラの背後に立つ銀髪紅眼の美少女メイドを見て問えば、レイラは「旦那様がお望みであれば、如何ようにも」と忠誠を誓う。

 レイラも事情はシエラと同じだ。運悪く義兄のアレックスが死んでいたらレオンハルトを恨んでいただろうが、運良く彼は生きていたので憂いはなく、後は誠心誠意、人生を捧げて尽くすしかない相手となっている。


 ――恋愛ごとに疎いレイラは、それがアレックスの心を陵辱する結果となってしまっていることには気づいていないが。


 はぁ、とセーレは呆れたように二人を見て「羨ましいこと」と呟いた。

 そんなセーレにシエラはにやりと笑った。ああ、そういえば目の前の相手もまた、結婚に関しては問題を抱えていたのだと、今更気づいたような顔をして提案した。

「ねぇ? セーレも旦那様の側室やらない?」


                ◇◆◇◆◇


 シエラが再び登校して数週間が経った。

 シエラが学内の令嬢を、それも卒業後の結婚相手がひどい令嬢を集めている、という噂を聞いた転生者カイン・ストレイファは、ああ、始まったなとサブイベント・・・・・・のスタートを知った。

(こんなイベント、ちゃんと現実でも発生するんだな。貴族の常識として、普通はありえないんだがな)

 それは令嬢側からの婚約破棄を行うイベントなので、この世界の常識を知ったカインからするとありえんだろうという内容のイベントだ。実際に発生するかは賭けだったが、本当に発生したことにカインは驚いているし、このイベントの恩恵を享受するだろう他のプレイヤーに嫉妬するしかない。

 カインが知っているこのイベントの名前は『シエラの美少女人材収集その1』だ。学園パート時にシエラの好感度が一定以上で浮気を許してくれるようなレベルまでいくと、なんとシエラは学園内で積極的に美少女を集めだすのである。

 なお時期はズレるがその2もその3もある。サブイベントやメインストーリーの進行度で発生するイベントだ。

 もちろん無理やりではないし、シエラや令嬢側にも事情がある。

 カインが知るゲームでのシエラは、主人公の強さに惚れ込むと、いずれ彼に与えられるだろう領地の発展のための手助けとして、人材集めを始めるのである。

 シエラは称号以外、ステータスやスキルは大したものを持たないが、シエラが集める人材にはシエラを越えるステータスの令嬢が多くいる。

 ビジュアルが優秀で戦闘もダンジョン探索もできて、個人イベントも豊富なレイラよりシエラを優先して攻略するプレイヤーが多いぐらいに。

(ただ、このイベントってとにかく金がかかるんだよな。学園入学時の所持金からすると雇える令嬢は三人ぐらいだったし、セーレ・アダマスを取るとなるとセーレだけって感じだったが)

 このイベントで入手可能な人材の中にはアクロード王国十四美少女の一人である『歌姫』セーレ・アダマスもいる。

 このイベントがあるからこそ美少女満漢全席の称号を取るために学園パートでの金集めは必須だった。

 カインもそのために商会を発足して、多くの土地で集めてきた優秀な奴隷を人材として働かせて莫大な富を築き、備えていたのだ。

(くそ、シエラ取られたからなぁ。セーレとモブ令嬢系の人材は諦めるしかないよな)

 寝取られた感じがして気分が悪いと思っていれば、噂が更に入ってくる。

「シエラ嬢が集めた令嬢たち、全員婚約破棄に同意できたらしいぞ」

「全員!? 二十名はいただろ」

「セーレ嬢もか? 嘘だろ。あの強姦侯爵の息子、セーレ嬢を手放したのかよ。っていうか違約金どうやったんだ? 小さな領地がまるごと買えるぐらいの違約金だったはずだろ」

 嘘だろ、とカインは呟く。転生知識と完全鑑定での人材集めをして最高効率で商会を運営するカインでさえもセーレの婚約破棄の違約金を稼ぐのでいっぱいだった。それが全員!? 大器晩成型の、雇用が地雷選択肢みたいな莫大な金額のモブ令嬢もいたはずだぞ、とカインは驚愕する。

「おいおい、い、いくら稼いでるんだ……?」

 カインは知らない。セーブ&ロードがなければ仲間キャラの死亡が続出し、カインでさえも攻略したがらないエンドコンテンツも同然のSランクダンジョン『魔の森』を拠点とする転生者がいることを。

 その転生者が一日に一回リスポーンするデスレックスという超高レベルユニークモンスターを狩り続けて手に入るミスリル貨を倉庫に木箱で山積みの状態で所持し、それをいくら使ってもいいとシエラに丸投げしていることを。



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