019 転生者、スマホを作る


 屋敷の主の寝室には、うつ伏せに気絶しているレイラの銀の髪がベッドに広がっていた。

 その隣には金の髪のシエラも意識を失っており、金と銀の髪が入り混じってまるで何かの絵画のようだった。

 これは淫猥な運動の結果であった。俺ことレオンハルトは少しハッスルしすぎたかと反省する。

「美人だししょうがない。それに転移魔法はこれで教えられたしな」

 レイラには転移魔法に加えて、いくつかの魔法を教えた。ベッドの上で実践と知識を与え、レベルを下げたあとに上げて、強制的にスキル化を成功させた。かなりレベルが必要だったものの、超越者になりかけのレベル100まで上げてしまえばレベルアップのブースト効果で転移魔法ぐらいは取得できるというものだ。

 もちろんスキル化は誰にでもできることではない。

 これがレイラに魔力が一切なかったり、転移魔法を使う素質がゼロなら俺がいくら理論を教えたところで無意味だ。

 しかし『英雄』という強力なパッシブ系の固有スキルを持つなら、それらの素地はゼロにはならない。


 英雄……パッシブスキル 身体能力特大増強、スキル取得率特大増強、取得スキル制限撤廃、殺人行為でのカルマの上昇抑制


 当然だがスキルコネクトでこのスキルを俺は借りている。貴重なスキルが手に入って俺のステータス上昇は加速した。最高だな。

 しかし、と俺はシエラとレイラを見る。

(学園か……)

 年齢も二人とも十六だし、女子高生だな。この世界に高校はないから高校生ではないが、JKはJKだろう。

 前世の記憶が俺にいろいろなことを考えさせる。

「携帯――いや、スマホ。そう、そうだな。スマホが必要だ」

 JKと言えばスマホ。スマホと言えばJK。よし、だしスマホ作るか。

 なお、俺が購入した奴隷を相手にせず、この金銀美少女ペアとばっかりセックスしているのは、この金銀美少女ペアとヤるのが最高に楽しいからというのもあるが、他に理由がある。

 シエラが連れてきた婆さんが言っていたのだ。購入した奴隷を、購入した日に相手すると肉体だけ捧げればいいと勘違いして仕事の能率が落ちるから、教育が終わってから手を出せと。

 そしてメイドたちを相手にしていないのは子供が流れると困る、安定してから手を出せと婆さんに言われたからだ。

 だからメイドたちには淫紋は刻んだが、セックスなどの行為には至っていない。

 そして婆さんは、更に言った。メイドの教育と同時に、奴隷に対して俺への忠誠心も刷り込んでおく、と。

 便利なババアだった。すごい拾いものだと思う。

(あの婆さん、シエラやレイラよりもずっと役に立ってるよな)

 もちろん五人娘や奴隷が婆さんに変な思想を刷り込まれていないかは定期的にチェックはするが、五人娘を使っての乗っ取りなどは警戒していない。

 淫紋のよる家族化のバフもあるが、そもそもの話、五人娘に変な思想教育をして彼女たちの人格を変えると、五人娘の価値がなくなるからだ。

 シエラは貴族だから察しているだろうが、あの五人娘は超越者である俺が人間・・であるための条件だった。

 五人娘がいるから定住できる拠点を作った。五人娘がいるから人らしい生活を用意した。五人娘と、その腹に子供がいるから産婆を雇うなどの気遣いをするようになった。

 極論、五人娘がいないなら俺は移動式の拠点ゴーレムで移動しながら気ままに各地を襲撃する災害になってもいいわけだった。言い訳づくりに使えるからまだ維持しているが、故郷の男爵領で施された呪いなど本気を出せばいつでも解除できるからな。

 そして俺が災害化すれば俺に関わったカノータス領も問題視されるようになるだろう。

 ゆえにマナーや仕事を教えるだけならともかく、思想教育をして五人娘の価値が消え去るとシエラとその父親が困るので、婆さんはそういうことはできないのだ。


                ◇◆◇◆◇


「これやるよ」

 翌日のことである。

 とりあえずアクロード王国の王都に転移拠点用の建物を買うのと、カノータス子爵にシエラとレイラを学園に通わせることを教えるべく、長距離転移する直前に、俺は二人に昨日作業して作ったスマホを渡した。

「旦那様、これは何ですか? ガラスの……板のように見えますが?」

 二人に渡したのはスマホっぽい何かだが、まだ便利アプリとかは作ってない。作れるような環境じゃない。コンピューターすら導入してないからな。俺が作ったのはなんだかよくわからない、複数のゴーレムで作成した、スマホを模した、それっぽいだけのガラス板ゴーレムだ。

 ちなみにただのガラス板じゃない。

 黒く塗った銀盤をガラスの中に入れて設定で銀盤の色を変えられるようにして文字表示が見やすいようにしてるし、割れるのを防止するために裏面とかには格子状の金属を仕込んでる。あと、起動ボタンとかは着色してちょっとおしゃれな感じにもしてる。

「スマホだ」

「スマホ?」

 レイラの問いにうむ、と頷き、スマホに魔力を通して起動する。ちなみにスマホの制作には、シエラの神授スキル『文書作成』を利用した。

(技能に『文書読み込み』とか『文書保存』とかあって地味に便利なんだよな。文書作成スキル)

 『文書作成』を使って色付きドットをガラス板に表示させれば画像の表示とかも可能なのである。

 突貫で作ったため性能はまだそこまで上げてないが、頑張れば一億画素とかもできそうだった。

 今回はとりあえずの試作ということで百万画素で抑えている。

 ぽちぽちとスマホを押して、シエラたちの前で操作してみせる。これは電気魔法でガラス表面の圧力を感知する形式だ。

 魔力圧形式だと魔の森みたいな魔力異常地域だとスマホが誤作動するからな。

 なお、このスマホ、それっぽい挙動をするゴーレムをかけ合わせてスマホっぽい挙動を再現してるだけだから、OSとか作りてぇ、とマジに思いながら作成している。

 王都に行ったら技師系技能持ってる奴隷絶対買うわ。教育してスマホ作りの補助に絶対使う。

 そんなことを考えながら、転移魔法を利用した『メール』、光魔法を利用した『カメラ』、風魔法を利用した『録音』、風魔法と転移魔法を利用した『通話』機能をシエラたちに紹介する。

 ちなみに魔道具化ではなくゴーレムである。

 この多機能なスマホくんを魔道具で再現しようとするとめちゃくちゃ大型化するしかないからな。

 シエラとレイラ、あとメイド五人と婆さんと俺のスマホで九台が現存しているが、この九台で俺の魔力を一割食ってるのである。機能削ればもっと省エネにできるが、まぁJKとスマホは切っても切り離せない関係だからな。しゃーない。

 でも魔道具で再現するのは必須だ。俺の魔力消費の問題もあるが、このスマホは完全にスキルだけで動いてるのでスキル封印空間とかだと使えなくなるからである。王国がどのレベルまでそういう技術を高めているのかわからないが、王城にそういった施設がなんとなくありそうだと俺は思っている。

 じゃないと転移魔法で暗殺者が乗り込み放題になるだろ?

「……これは、すごい技術なのでは?」

 呆然とした表情のシエラがスマホを見ながら俺に聞いてくる。

「スキルを組み合わせてるだけだから技術じゃねーんだわ。魔道具化できたらいいな、とは思ってるけどまずは基礎技術の研究が必須だろうな」

 とはいえ有線式の電話なら今の王国の技術でも作れるはずだ。ないのは……魔物とかがいるから施設の維持ができない、とかかな?

 それにスマホとなるといくつも存在する技術的な限界を突破する必要があった。

「そういうわけで王都行ったらスキル持ち奴隷買う。あー、農地も広げなきゃだしな」

 小麦はともかく野菜ぐらいは欲しい。いや、魔の森の採取品に野菜とかもあるけど、それだと俺のゴーレムありきの生活になるからな。

 採取しなくても食えるように栽培は必須だ。余ったら保存食として漬物でも作ればいい。俺はそこまで漬物好きじゃないけど。

 現在、農地と果樹園を任せている美少女獣人奴隷は体格の良い美少女犬娘とそこそこの身長の美少女猫娘である。

 獣人の中でも犬人と猫人はそこそこポピュラーな種族かつ多産なので王国のスラムや下層民の彼らはぽこぽこ産んでは貧困で子供を奴隷にするというが、こいつらは獣人国家産で戦闘もできる奴で特別な奴隷だ。

 でも魔の森で戦闘させても死ぬだけだから農作業をやらせている。

 ちなみに処女。獣人の戦士階級は自分より強い奴としかセックスしないらしいが、こいつらは称号がつくレベルで超強い。なんで超強い美少女奴隷が売れ残るのかといえば、戦士階級の獣人は主人が強くないと言うこときかないから。奴隷の首輪で反抗防止をしても決死の覚悟で主人を殺しにくるのである。

 そんな奴隷がなんで奴隷商にあるかと言えば、単純に客寄せパンダだからだとか。

 超強い美少女獣人目当てにやってきた貴族にそれとなく他の奴隷を勧めて売るのだそうだ。

 さて、そんな危険な奴隷たちは当然ながら屋敷には住めない。

 だから別にアパートを建ててやっている。

 これはいわゆる奴隷長屋で、前世の安アパートレベルの住みやすさ、社畜が転勤で住むような1LDKの部屋だ。

 そこに美少女奴隷詰め込んで、美少女食い放題ハーレムプレイをやる予定である。楽しみ。

 そんな俺の考えを知ってか知らずかシエラが「じゃあ旦那様、王都の案内をするわ。奴隷商ならレイラが場所知ってるからね」と言えばレイラは「と言っても奴隷商の位置は王都の常識なので案内の必要はあまりありませんが」と返してくる。

「え? レイラ、常識なの?」

「若い女性が一人で行くと世評が大変面倒なことになる場所ですよ、お嬢様」

 ですって、とシエラが言うのでわかったと俺は頷く。

 ただ俺が行ってもメイド連れのお坊ちゃんに思われるぐらいだろう。ファンタジー小説のテンプレのごとくチンピラに絡まれたら、まぁそのときは……どうしよう? 絡まれたからって殺したら絶対面倒なことになるよなぁ。


                ◇◆◇◆◇


「え、シエラ?」

 カノータス子爵領の領主館にて、館内をすたすたと、背筋を伸ばして歩く子爵令嬢の姿に、片腕の騎士アレックスは、一瞬、自分が幻覚でも見ている気分になる。

「あら? アレックスじゃない。腕の方は大丈夫?」

「あ、ああ……子爵様が機会を見て王都の大司祭様に治療を願ってくれると言ってくれたから」

 なお、そこにはシエラをレオンハルトに差し出したことによって得られたミスリル貨が関係している。

 騎士たちの遺族に弔慰金を支払い、領内の警備に冒険者や傭兵を雇っても十分に大金が残ったからだ。

 無論、贅沢するための金ではないが、金が余るなら領内に残った数少ない騎士の一人であるアレックスを治療するぐらいは必要経費のうちに入る。

 なお、レオンハルト襲撃時に領内にいくつか部隊が治安維持のために散っていたため、騎士は数名生き残っており、アレックスが最後の騎士というわけではない。

「そう、よかったわね」

 シエラがにこりと笑い、その後ろのレイラも優しげな空気を出す。

 アレックスはそんな懐かしい二人との触れ合いに頬を緩めつつ、どうしてここにいるのかを問いかける。

 そこには、逃げ出せたのか? 追い出されたのか? のような疑問もあったが、問いかければシエラはなんでもないように言った。

「レオンハルト様、つまり私の旦那様が卒業まで学園に通ってもいいと仰られたので退学申請をしていないかなどお父様に確認を取りに来たのよ」

「旦那様……か」

「何か言った? アレックス?」

 小声だったのでシエラは気づかなかったが、耳の良いレイラにはアレックスの呟きが聞こえていた。

 レイラは少しだけ顔を俯かせる。彼女の中には罪悪感があった。

 シエラとレイラ、子爵領に咲いた二輪の美姫とアレックスの間には幼い頃に結婚するといった約束があった。

 メイドのレイラはともかく、美しく育ったシエラは騎士であるアレックスとの結婚は無理だっただろうが、それでもレイラは義兄の心中を察していた。

 もっとも顔を俯けても、何も言わないだけの情けはあったが。

「な、なんでもない。ええと、学園に通うのか?」

「そう、ついでに王都に旦那様が屋敷を買うから、子爵家の名前を使わせてもらえないかなって。まぁこっちは旦那様に私からの提案なんだけどね」

 それはレオンハルトに、子爵家の名前が便利であると実感させるためのものだ。

 当然だがレオンハルトほどの大富豪が金の力で商人や役人の頬を叩けば王都内の一等地とは言わないがそれなりの場所に屋敷を買うことはできる。

 だが子爵家の名前を使えば一等地である貴族街に館を構えることができるのだ。

 貴族街はなんのかんのと平民街より安全だ。

 恒常的に見回りの兵がいるため、メイドたちが買い物に出たときにチンピラに襲われるような事態や、屋敷への盗みなどを警戒しなくてもよくなる。

 レオンハルトのことだから侵入した賊が自動的に殺されるトラップを作るぐらいはわけはないが、侵入が少ないに越したことはないだろう、というシエラの提案をレオンハルトが聞き入れた結果だった。

 そんなことをアレックスと話し合いながらも、シエラは当主の執務室へとたどり着く。ちなみにレオンハルトは子爵領の人員を刺激しないように街の外で待っていた。

 これはレオンハルトから言い出したことだった。

 シエラを奪ったことで、子爵領の中にはレオンハルトに対する敵意が充満している。

 礼儀としてこれらの感情を隠すぐらいのことは子爵家の人間は行えるが、レオンハルトの感知の感覚は人外の領域で、彼からするとそれはまるで全く隠れていないのだ。

 レオンハルトは面倒を嫌っている。

 だが子爵家の人間と争いになれば面倒になるしかないだろう。

 もっとも父である子爵はレオンハルトを外で待たせる非礼を気にするかもしれないが、とはいえ昨日の今日で歓待するというわけにもいかなかった。

 道理とて、情理の前には屈するのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る