010 転生者、転移する


「さて、どこにするかな」

 俺はスキル『ゴーレムマスター』が成長して、というか熟練度が上昇して派生スキルである『ゴーレムステータス』から――これはステータスには非表示な技能だ。剣術スキルにある『スラッシュ』なんかと同じスキル内スキル――転移魔法陣を刻み込んだゴーレムの状態を確認する。

 転移可能先は、カノータス子爵領とヘベハイ伯爵領、あとは隣国と海岸に向けて走ってる奴に、ああ、王都傍に一体か。

 もう少し転移先を増やすか。転移用のゴーレムは到達したら地中深くに隠しておいてもいいしな。使う時に掘り出せばいい。

(マップ確認用に、ゴーレムを上空に飛ばすか?)

 『マップ』スキル持ちの奴隷が手に入ったらスキルコネクトしたいな。そいつには無理でも俺がスキルコネクトでスキルを使えば大陸全土のマップ作れるかもだし。マップスキル付与した衛星ゴーレムとか空に向けて飛ばせばGPSみたいな使い方できるかもだし。

(あ、自衛機能と修復機能つけておかないとドラゴンに落とされるか)

 この世界のドラゴン、物の本によると、自分たち以外に空飛んでる生物や物体を見かけるとイラついて墜落させるらしい。鳥や飛竜はペット感覚だから許すらしいが、魔導具とかの機械は絶対に許さないらしい。

 歴史の本で読んだが、気球を作った王都の研究者がいたらしいけど、気球は落とされるわ、王都にも火を吹きかけられるわでひどい目にあったらしい。

 俺が飛行ゴーレムを使って転移魔法陣を上空に設置しないのはそのためだ。

 陸も魔物は多いが、陸の方が空よりなんだかんだと安全である。

 もちろん陸には盗賊とか山賊なんかもこの世界にはうじゃうじゃいるが、所詮人間だし。こうして強くなった俺からすれば雑魚も同じだ。

「とりあえず転移は、あー、小さいところから回っていくか」

「小さいところって、領地?」

「ああ、いきなり王都に行って、あちこち店回るよりはいいだろ。王都で迷子になったら困るしな」

 というか、俺の初外出だぜ? この世界で街を歩くのは初めてなのだ。転生者である俺だが、何事も初めては緊張するので、小さいところから慣らさないとびっくりしてしまうのである。

 そんな俺の葛藤がわかったのかわからないのか、まぁいいわ、とエミリーは緑のツインテールを揺らして「任せるわ!」と大仰に頷いた。俺のメイドなのに偉そうだが俺は気にしない。エミリーは俺のことをちょっとエロい弟程度に思ってる部分があるし、メイドたちの個性を大事にしたい所存。

「よし、じゃあ転移するからな」

 ちなみにだが、俺はアイテムボックススキルを持っていないので、拠点に転移魔法陣を設置した倉庫を作成してある。

 手元にある転移魔法陣付きの道具袋にアイテムを入れると俺のMPを消費して自動で倉庫に転移させる仕組みだ。

 なお、道具袋を経由させる必要がないのに経由させるのは転移魔法バレを防ぐための偽装である。

 そして転移先である倉庫内には転移させた物品を整理する整理整頓ゴーレムと、劣化防止の魔法を掛けたり、手入れをする整備ゴーレムを設置済みだ。

 こいつらには転移魔法陣の上に転移させたアイテムをどかしたりする役目もあるぞ。

 流石に二十四時間人力で監視・管理させるのはメイドたちが可哀想だからな。ゴーレムを使うのである。ゴーレムバンザイ。


                ◇◆◇◆◇


「よし、到着」

 転移魔法でカノータス子爵領の領都であるカノータスの郊外に転移した俺は、転移先の座標として利用した転移魔法陣付きのゴーレムを確認する。

 足のついた豆腐みたいなそれを眺め、うむ、と満足げに頷く俺。

「ちゃんと使えるじゃないか」

 転移魔法陣自体は短距離、遠距離を含めてゴーレムを飛ばす実験で安全性を確認してあった。

 だが、人間でここまでの長距離は初めてなので、少し緊張はしていた。まぁ俺はレベル200オーバーだし、メイドたちもレベル100だから素のステータスは高い。死ぬようなことはなかったと思うが、それでも安全性はチェックは必須だ。

(おっと、確認確認)

 ゴーレムマスターのスキルからゴーレムステータスを開いて、魔の森内の拠点ゴーレムが、俺が遠く離れても問題なく稼働することを確認した。

 また自分のステータスを確認して、距離が離れたせいで留守番中のメイドとのスキルコネクトが外れてないかとか、転移したことで消費したMPなどのチェックもする。

 MPは、結構使ってるな。まぁ問題ないか。

 稼働中のゴーレム維持を考慮しても魔法特化型ステータスをしている俺の魔力回復の方が多い。消費分も問題ない。一時間もすれば最大まで回復するだろう。

「ん……?」

 どこかからか見られてるな。レベルが上昇して感知能力というか、直感が向上している俺は風魔法を広域展開して周囲をさくっと探索する。

「レオンハルト様?」

 連れてきたイリシアが俺を心配そうに見ている。エミリーは持ってきたリュックサックの中身を確認しているようだった。転移で中身が消えてないか不安になったらしい。

 イリシアに向かって、なんでもないと説明しながら俺はゴーレム馬車を作成した。

 馬車の形は実家で見たことのあるタイプだ。貴族の金持ちなら持ってる奴だな。

 蜘蛛型じゃないのはモンスターと誤認されると困るからである。

「はー、あっという間ね。流石レオンハルト様だわ」

 すでに見慣れてるだろうに、いちいち俺を褒めてよいしょしてくれることを忘れないエミリーの心遣いに感謝しながら俺たちはゴーレム馬車に乗り込んだ。ちなみに馬は馬型ゴーレムだ。

「ああ、そうだ。なんか盗賊がいるっぽいぞ。この辺」

 走り出したゴーレム馬車の中でそんな会話をする。

 ここって都市の主要な街道からちょっと離れた郊外なんだが、近くの山の中に盗賊団の根城があるみたいである。

 先程の探知魔法に加えて、適当に作って放っておいたドローンタイプの監視ゴーレムと鑑定技能のあわせ技で相手の素性も把握している。

 えー、と嫌そうな顔をしたエミリーに、盗賊ですか!? とイリシアがびっくりしたような顔をしてから勢い込んで言ってくる。

「殺しましょう! レオンハルト様!」

 ここでイリシアの絶対盗賊殺す主義が判明。

 いや、善良な領民であれば盗賊は忌避するものだからか? それとも俺の力を知ってればこその提案だろうか?

「レオンハルト様。奴らは虫みたいなものです。ご存知の通り、私の父はヴィクター男爵領でも名士なんですが、潰しても潰しても湧いてくる盗賊どもには頭を抱えておりました」

 辺境ゆえに開発の進んでいないヴィクター男爵領は盗賊の根城になる廃砦などもいくつか残っている。大勢力は父親が兵を率いて殺していたが、弱い奴なんかは農民が自力で排除するので、そのことをイリシアは言っているのだろう。

 しかし他領の盗賊潰しなどやってもなぁ、という気分だったがイリシアの次の言葉に俺は気分を切り替える。

「それに子爵領の領都の傍の盗賊団であれば、潰したときの戦利品も多いと思いますよ? 現金に、装備類、下働きの男性奴隷ぐらいはいるかもしれませんし、これから領都のところに行くのなら、盗賊を生かして捕らえて、売り払って現金にするのも手だと思います」

 エミリーもイリシアの言葉に、そうかも、と頷いた。二人とも零細男爵ではあるものの、魔物を素手で殺して領民にパフォーマンスする、貴族家当主の館に勤めていたメイドたちだ。盗賊の首級ぐらいは見慣れている。

 ちなみにカノータス子爵領は王都と辺境の中間ぐらいの位置にある。俺たちの拠点である魔の森からは離れた位置にある領地だ。

「でもちょっと注意した方がいいかもしれないわね。レオンハルト様」

「と、いうと?」

「ここが領都郊外って言ってたでしょ? じゃあ子爵家が騎士を出して潰すはずなのに生き残ってるってことは、潰せないほどにそこそこの手錬れがいるのかも。騎士崩れか。放逐された貴族の息子か娘か。それとも装備が相当いいのか」

 確かにそうかもしれない。転移してきた俺たちに即座に気づいて、監視を出したような盗賊団だ。感覚が鋭いのかもしれないな。

「なるほどな。しかし奴隷の相場もよくわからないし、現金ももうちょっとあった方がいいかもしれないし、潰すか?」

「現金がもうちょっとあった方がって? あの、レオンハルト様。お言葉ですがダンジョン産のミスリル貨一枚で成人男子の奴隷なら五十名は買えると思うんですけど」

 そのミスリル貨がざくざく出たのがデスレックス報酬宝箱である。千枚は入っていた。男爵家で若手メイドの統率をやっていたアシュリー曰く、ミスリル貨は大商人が大口の取引で使うようなものであって、男爵家でも一枚あるかどうかで、その一枚ですらお家の大事のために金庫にしまってけして出さないようなものであるらしい。

 つまりは通常の取引では使われない大金ということだ。なんだ俺、金持ちかよ。

「あー、じゃあ、細かい金貨がないとな」

 デスレックスの報酬宝箱は大量のミスリル貨は入っていたが、小銭として使えるような銀貨や銅貨は入っていなかった。

 なので一応、アシュリーたちが自分たちの給金として貰っていた銀貨や銅貨も小銭として預かってきている。

 ちなみに貨幣の種類は価値の低い順に、鉄貨、半銅貨、銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、小金貨、金貨、大金貨、ミスリル貨、オリハルコン貨で、あとは冒険者ギルドなんかだと魔石決済がある。

 奴隷相場をアシュリーに聞けば、健康な成人男性の奴隷なら金貨数枚で買えるらしいが、貴重な元貴族のスキル持ちなんかだと大金貨数枚はするらしい。

 ちなみに、俺が勘違いしていたのだが、教会で成人の際に得られる固有スキルと通常のレベルアップなどで取得できるスキルは性能が違うらしい。

 剣術スキルにしても、貴族が固有スキルとして得ている剣術スキルと、冒険者や剣術家が修行で得る剣術スキルでは威力や性能が大幅に変わるようだ。

 無論、固有スキルの方が強いし貴重なのでエミリーが固有スキルとして得た料理スキルは特別なのだそうだが。

「それで、盗賊退治に向かうんですか?」

「いや、もうゴーレムを行かせた」

 とりあえず偵察のために生成コストと維持コストの安い虫型ゴーレムを大量生成して放っている。

 監視らしき使い魔かテイム済み魔物を潰した感覚がゴーレムから返ってきた。

 ふむ。小型で、移動速度の速い、対人用犬型ゴーレムを二十体ほど生成するか。

 あとは倒した盗賊を拘束して勝手に歩く捕獲ゴーレムを盗賊団の人数分生成する。

 せっかくだから生け捕りにして売り払おう。盗賊はたいてい絞首刑だが、犯罪奴隷落ちになる奴もいるし、生きてた方が高値になるだろう。

 馬車の外に作成されたゴーレムたちがえっほえっほと駆け出して行く様を見て、エミリーが顔を輝かせる。

「流石、レオンハルト様! すごいわね!」

 ぎゅうぎゅうと普乳を押し付けて褒めてくれるエミリーに気分を良くしながら、俺は子爵領領都カノータスに向けてゴーレム馬車を動かしていく。



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