009 転生者、拠点を作る
アシュリーが持つ鑑定スキルをスキルコネクトで共有し、それを大量に作成した採取ゴーレムに付与する。
その採取ゴーレムをどうするのかと言えば、ゴーレム軍団に随伴させ、薬草や木の実、キノコや木材などを採取させるのだ。
俺は知らなかったが魔の森の木クラスになると、その辺に生えている木の皮が、特定の種族がかかる病気の特効薬の素材になったりするらしい。
もちろんそれだけじゃない。採取した素材を消費するために、錬金魔法を付与したポーション作成ゴーレムや、土魔法を付与した、ポーション瓶（陶器製）作成ゴーレムなんかも作る。
そうやってゴーレムたちに作成させたポーションや治療薬は劣化防止の処置を別のゴーレムから受けると、荷運びゴーレムの中に収納されていく。
こんなに大量のポーションや、普人種には効果のない特効薬なんか必要ないのだが、ゴーレムマスターの固有スキルの性能把握に加えて、暇すぎてやってしまうのである。
「お、湖が見えてきたな」
そんなことをしていれば目的の場所にたどり着く。
魔の森に湧き水だの小川だの以外の水源があるか怪しかったが、なんとか見つかったようだった。
最悪水魔法付与済みのゴーレムを永久可動式にして設置すればよかったが、畑だとかを作るならこういった水場の傍がいいだろう。ゴーレムを壊された場合が大変だしな。
「この湖の水源はどこだろう？ 川とか見えるか？」
「ちょっとまっててくださいッスよ！」
蜘蛛型ゴーレムの上部入り口から頭を出して、俺が作った双眼鏡で遠くを見るウルスラ。まぁ偵察ゴーレムを回してその視界をジャックすればいいだけなんだが、メイドがやりたがるならやらせてやる。
俺は貴族様の息子なので、下々を働かせて楽をする坊っちゃんなのである。
いや、冗談だよ。たまにはメイドを働かせないとこいつら存在意義に悩みかねないからな。やりたがるならやらせてやるのが吉だ。
もちろん俺を甘やかすという仕事を与えてはいるが、なんでも俺がやると俺たちの主従関係が破綻する。
拠点を作ったあとならまぁ掃除だの洗濯だのと仕事は作れるが、移動中ではそうもいかないからな。
「あー、あっちに川っぽいのがあるッスよ」
「川っぽい。ちょっとゴーレム回すか。湖の水より川の水の方がいいからな」
湖の水はなんだかんだと微生物だの苔だので細菌の宝庫だからな。煮沸したところで濾過しないで飲むと俺みたいな坊っちゃんは腹を壊すから、川の水の方がいい。
川は川で寄生虫がいるが、こっちの方が処理は楽だしな。
（つか、井戸掘るかぁ。そもそも水場に近づきすぎると増水や水を飲みに来た獣が怖いか）
そもそもこの湖の中にもモンスターがいそうだ。巨大湖って感じだもんなこの湖。さっきＴレックスがいたし、半魚人とか人食い魚とかネッシーとかいそうだ。ここはネス湖じゃないけど。
「水面がキラキラ光って綺麗ですねー。レオンハルト様」
オーレリアが呑気にそんなことを言っている間にも俺はＭＰを消費して湖内のモンスターを排除するための水中戦闘用ゴーレムを作成していく。水魔法と風魔法を付与して水中戦ができるようにしたゴーレムだ。
二種類の魔法を付与すると維持コストが多くなるが仕方がない。水中で水魔法が使えないと水魔法が使えるモンスターに周囲の水を操作されて圧殺されるし、水中でも威力が減衰しにくい風魔法が使えなければ水魔法に耐性を持つモンスターに致命傷を与えるのが難しくなる。
奮発して、湖に戦闘用と素材回収用に百体ほどのゴーレムを投入する。周囲の土を利用できないために無限再生型ではないが、ゴーレム修復用の整備用船型ゴーレムを湖に浮かべてやったので、水中戦闘用ゴーレムが破損したら回収ゴーレムで船に回収するように自動で設定を組んでおく。
こういった命令も『ゴーレムマスター』のスキルが手に入ってから組みやすくなった。今まで複雑な行動をさせるときは単一行動しかできないゴーレムを組み合わせて、複雑な命令に耐えられる機能を持つゴーレムを作っていたが、スキルとして設計システムが組み込んであるゴーレムマスターなら複数の複雑な命令だって、ゴーレムに組み込むことができる。
更にゴーレムの設計図をスキルに保存しておくことで、以前作ったゴーレムが急に欲しくなってもすぐに作れるようになった。
あと今まではいちいち構造を思い出して作ってたがこれのおかげでそういったことも考えなくてよくなったのが嬉しい。
早速回収された湖の魚やモンスターたちが燻製ゴーレムによって燻製にされていくのを横目に俺たちは湖に水を流し込んでいる川に向かって移動していくのだった。
◇◆◇◆◇
「じゃあ、この辺でいいか」
川からそこそこ離れた森を拠点設置場所に定めた俺は、ゴーレムで木々を切り開き、岩や切り株を取り除いて平地にしてから、ようやく蜘蛛型ゴーレムから地面に降りる。もちろんメイドたちも一緒だ。
「この辺でいいか、ですか？ テントでも張りますか？」
「いや、屋敷作るよ」
「さて、ええと、まず地盤か」
『ヴィクターの地にて伏して誓う』や大賢者の称号効果もあって、俺の
土の中を操作して地盤を見つけると、俺は地盤に向かってここに来るまでに集めておいた土中の金属を使って生成した金属杭を打ち込んでいく。
そうしてその上に巨大な金属プレート置き、その上に土魔法で作った石で屋敷の土台を作っていく。地盤に杭を打っているから屋敷がどれだけ重くなろうとも、地面の中に沈んでいくということはないだろう。
ちなみに杭とプレート、土台とすべてに劣化防止の魔法を施しているので、錆びて崩れるということはない。
俺はそうした下準備を終えてから、木材を加工して、ゴーレムを操作して屋敷を作っていく。
ガラスは……買ってこないとな。蜘蛛型ゴーレムに使う程度なら採取した分で賄えたが、屋敷に使うほどになると流石に材料になる砂が足りない。ただ窓がないと虫が屋敷内にたくさん入ってきて困るから開閉できる木窓ぐらいは作っておくか。
そんな作業をしつつも、錬金魔法で切り倒した魔の森の木材を素材に加工して、自然魔法である木魔法を使って木をどんどん加工していく。当然、木窓や扉を大量に作るなんて作業をいちいち俺がやるわけにもいかないので、一度自分で作って満足できる形のものを作ったら、窓や扉を作る単一機能をもたせた大工ゴーレムたちに作業を任せていく。
「すごい、ですね」
アシュリーが呟く。俺は木で椅子やテーブルを作成してメイドたちを座らせた。
「しゅ、主人に働かせて休むなどできませんよ」
とオーレリアが言うが、俺は「だから俺が休みたいからお前ら座ってろ」と言って、オーレリアの膝の上に座って、頭をオーレリアの普乳に預ける。ウルスラやアシュリーの豊満おっぱい枕でもいいが、俺としては今はオーレリアの普乳な気分だった。
「ほら、お前らは俺を全力で甘やかせ。めちゃめちゃ働いてる主人を全力で癒やすのだ」
慌てて立ち上がった他の四人のメイドが実家から
また料理スキル持ちのエミリーが軽食を作るべく竈を要求するのに合わせて、俺は竈を作ってやる。ピザでも焼けるようなピザ窯も作っておこう。料理スキル持ちはピザ作れるって聞いてるしな。
その間にも屋敷予定地の周囲に土魔法で頑丈な石壁を作る作業を並行して行う。
壁ができたら石塔を作って、監視ゴーレムや護衛ゴーレムも作成しておく。当たり前だがこんなところに屋敷を作っても、襲撃されたら簡単に陥落するからな。防御施設は必要だ。
また土の中からモグラモンスターやミミズモンスターが来たら怖いので土魔法を付与した土中戦闘用ゴーレムを地中に配置していく。
空も怖い。
敵を自分で発見して、矢を自分で装填して、自分で狙って撃つゴーレムである。矢は特別製だ。土中の金属を収集して作った金属矢である。殺せずとも撃ち落とすぐらいはできるだろう。死体を回収するゴーレムも周囲に配置する。
また光矢魔法や闇矢魔法、風矢魔法が使える維持コストの安い小型ゴーレムを大量に壁面に埋め込んでいく。火魔法は火事が怖いからセットしない。火魔法自体は
（これだけゴーレムを作るとゴーレムマスターがあっても屋敷の維持には俺の全魔力の五割はもってかれるな）
移動狩りならともかく拠点防衛ともなると流石に維持がきついか。
ちなみに、人類でも数少ないレベル２００を越えた超越者、その魔法特化型の俺の総魔力の五割で攻撃魔法を撃てば、俺の実家であるヴィクター男爵領を領地まるごと一撃で消失せしめることも可能である。
アレクシアたちは苦しめて殺したいのと、領民が哀れなので流石にやらないが。
（あとは、館だけ作ってもしょうがないか）
一応、館自体は増築可能にして、今のところはキッチンや大部屋、応接室、素材倉庫や俺の研究室などを別として部屋数は客室などを想定して十前後にしておく。こんな地獄めいた魔境に客が来れるかはわからんが。超強い冒険者とかがふらっと来るかもしれないし。
部屋数に合わせて、棚とかテーブル、椅子にベッドなども量産していく。布団や枕も作る。鳥系モンスターの羽毛を虫系モンスターの糸で作った布に詰め込んでいく。もちろん俺じゃなくてゴーレムにやらせる。
布はどうしたって？ 錬金魔法に『モンスターの糸玉』から糸を作る魔法があったし、錬金術の本に機織りの構造もあったからな。錬金魔法を付与した機織りゴーレムを制作、全力稼働させ、大量に布を作っていく。
そうして作られたシルクっぽい布をメイドたちに渡してやれば、わぁぁ、とメイドたちは肌触りの良い布に感動している。
「れ、レオンハルト様！ 申し訳ありません。これで服を作って欲しいのですが」
「デザインは全部同じになるがいいか？」
はい！ とアシュリーに頼まれたので俺はついでに服も作っていくが頭の中に入っている服のレパートリーが少ない。前世じゃそこまでファッションに興味なかったし、実家じゃメイドたちは同じ服しか着てなかったし。
あと頼まれたので下着も作る。
加えてレベルの高いモンスター素材で作ったこの布は普通の鋏じゃ切れないので、デスレックスの報酬宝箱から得たミスリルインゴットを溶かしてミスリルの鋏やミスリルの針を作る。鍛冶はやったことなかったが錬金魔法の中に金属整形魔法があって助かった。
それと染料もそれなりに採取しているので、布を染めて様々な色の布を作っていく。
この作業は、サンプルを作成したあとは大量生産用のゴーレムを作って任せるので一度やれば手間ではない。
なおこんなに作業して忙しないと思うだろうが、そうでもない。
オーレリアのおっぱいに頭を預けて、スキルを通して魔力を操作しているだけだし、エミリーやイリシアがフルーツをあーんして食わせてくれるからだ。甘やかされながらの作業である。美少女メイド最高。愉悦。
◇◆◇◆◇
水脈を探して井戸も掘ったし、メイドたちと裸でわちゃわちゃするために、水魔法と火魔法を調節したお湯ゴーレムを作って風呂場やプールも作った。
ついでに川をこっちまで伸ばして、壁の周囲に作った掘に水を流した。この作業では当然ながらモンスターが流れ込んでこないように工夫もしているし、掘の中には戦闘用と掃除用にゴーレムを泳がせてもいる。
畑予定地も耕して、腐葉土をばらまく。耕運機ゴーレムも作った。持ってきた果樹も植えていった。
「ただ、畑や果樹の世話は誰かにやってもらわないとな」
ゴーレムにやらせてもいいが……うーむ、さすがにそこまでゴーレムを配置していると魔力が持たないか？
まぁ魔力はまだあるからやってもいいんだが、植物知識や農業スキルを持つ人間がいればスキルコネクトでスキルを借りてゴーレムに付与して効率化ができるよな？ スキルはレベルアップしまくってる俺が覚えればいいかもだが……今やってるのってできることだけやってるだけだし、なんでも俺がやるのなんかだるいよな。
生活が安定してきたら転移魔法で移動して、どこか別の貴族の領地で雑務用の奴隷を仕入れるか。
「あのー、レオンハルト様。さすがに、私たちがやりますよ？」
「そっスよ。なんでも任せるわけにはいかないッス」
アシュリーとウルスラに言われて、そうだな、と頷く。そう、俺がやりすぎてもよくないのである。ゴーレムは便利だが、便利すぎて仕事を奪いまくると仕事がなくなったメイドたちが暇になるからな。
俺が守っているとはいえ、生活空間は地獄の一丁目である魔の森だ。
あんまりにも暇になると、余計なことを考えてメイドたちが鬱になるかもしれない。
「まぁお前らの仕事のメインは俺を甘やかすことだからほどほどにな。なので明日にでも産婆の奴隷とか、農業用の奴隷買ってくるわ」
「転移魔法だっけ？ レオンハルト様ってすごいのね」
エミリーが呆れたように言う。
「うむ、すごいんだよ俺は」
こうして拠点ができたので長距離転移魔法用の魔法陣も設置できるようになったからできることだがな。
もちろん俺のＭＰの多さなら魔法陣はなくても転移はできる。だが、長距離ならあった方が消費魔力が少なく済むし、魔法陣を設置することで購入した奴隷などを大量に転移できる。
「ついでに塩だなんだと買ってくる。お前等は美人だから連れて歩くと目立つか？」
奴隷や調味料を買う軍資金はデスレックスから手に入った。
他にも、ここは森に見えてダンジョンだから、木々に隠されるように設置されていた通常の宝箱からも通貨は手に入っている。
そんなことを言えば、アシュリーが「ではエミリーとイリシアをお連れください。子供が一人で歩いていても目立ちますよ」と忠告された。
「それもそうだな。では購入してほしい物資をまとめておくように」
小麦粉が足りなくなってきたのよ！ と料理担当のエミリーが叫ぶようにアシュリーに要求すれば、はいはい、とアシュリーはエミリーに対して落ち着きなさいと言いながら、メイドたちの要求をまとめていくのだった。
（俺は、とりあえずガラス用の砂と、本かな）
メイドたちも暇だろうし、転生者の定番であるオセロとかボードゲームとか、あとは買う本を収納する図書室も作っておくか。
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