008 転生者、魔の森のユニークボスを討伐する


 名前 :レオンハルト・ヴィクター

 レベル:121

 職業 :大賢者

 称号 :《転生者》《追放者》《超越者》《大賢者》《魔物虐殺者》

 スキル:『自然魔法』『錬金魔法』『神聖魔法』『転移魔法』『付与魔法』『性魔法』『魔力回復』『魔力増強』『身体強化』

 固有スキル:『スキルコネクト』『ゴーレムマスター』


 『ゴーレムマスター』……ゴーレム設計能力上昇、ゴーレム作成能力上昇、ゴーレム作成・維持コスト軽減、ゴーレムインベントリ使用可能


                ◇◆◇◆◇


「レオンハルト様ッ! すごいッスよ!! 無敵じゃないッスか!! このゴーレム軍団!!」

 元気娘のウルスラがおっぱいを押し付けてくるので顔面で受け止めつつ、俺たちは森の深く深くへと進行していった。

 レベルアップに伴う最大MPの上昇によって俺が操るゴーレムは500体を越え、またさらなる能力を俺は得ていた。

 『スキルコネクト』、これの効果によりイリシアから借り受けた『ヴィクターの地にて伏して誓う』を自分に使用。レベルアップ時のステータス上昇値を上げてレベリングしつつ、『付与魔法』が習得できるように意識して魔法を操りつつレベルを上げていれば当然のように俺はスキル『付与魔法』を取得した。

 どうにもレベルアップというのはスキル取得を助ける効果もあるようだった。

 なお『付与魔法』――これはバフやデバフを対象に付与する魔法であるのだが、これを錬金魔法と組み合わせることでゴーレムの強化が行えるのである。

 ちなみに錬金術と錬金魔法は微妙に違う。真理を追求して鉛を金にしたり、不老不死の薬を作り出す術を探るのが錬金術で、その錬金術の成果を魔法で再現するのが錬金魔法だ。

 俺は素材加工のために錬金術を勉強しようと思っていたが、レベルアップで錬金魔法を覚えたことで錬金術の勉強はとりあえず不要になった。

 錬金術自体に興味はあるものの、とりあえず即効性のある魔法を手に入れたので後回しにしたい。

 それで、なぜ付与魔法が必要なのかと言えば、錬金魔法の『皮なめし』をゴーレムに使わせるのに、付与魔法が必要だったからだ。

 ゴーレムに錬金魔法を使えるようにするためには魔導回路を刻んで魔道具化するか、付与魔法の『スキル付与』でスキル『錬金魔法』を付与するかのどちらかが必要なためである。

 ちなみに錬金魔法『皮なめし』とは『魔物の脳』と『沸騰した水』『魔物の皮』を素材にして合成物である『魔物の革』を作成する錬金魔法である。この魔法を使うことでスキル『革職人』の『皮なめし』で加工した革と同一のものを作成することができるのである。

 さて、俺は付与魔法でこの皮なめし魔法が使えるよう、錬金魔法を組み込んだ専用のゴーレムを十体ほど作ることで、移動しながらでも回収した魔物の皮を加工できるようにした。

(皮はほっとくと腐るし、虫が湧くからな……)

 それと俺の手間を減らすために、水魔法で清潔な水を出すだけの追加パーツや火魔法で火をつけるだけの追加パーツなどもこの皮なめしゴーレムには組み込んでいる。複数のパーツを連結させたゴーレムを作ることで一体ごとの維持コストは上がるが、レベルアップで手に入れた『ゴーレムマスター』のスキル効果もあって、そこまできつくはない。

(それに、まさか新しい固有スキルが得られるとはな)

 先程は気づかなかったがレベル101に上がった時点で、『ゴーレムマスター』なる固有スキルを俺は取得していた。

 ちなみに人間の限界レベルは100レベルのようだったが、称号の《超越者》の能力で通常の人間の限界であるレベル100を越え、レベル101になることができた。

 なぜレベル100が限界だとわかったのかと言えば、メイドたちがどうやってもレベル100より上のレベルに上がらなかったからと、称号の《超越者》を鑑定したところ、レベル限界を越えるための称号だとわかったからだ。

 メイドたちがレベル100になってもメイドたちに称号が発現しないことから、何かしらこの超越者を取得するための特別な条件があるのだろう。自力でレベル100になるとか、そういう奴だな。

 メイドたちのレベルを上げるために取得条件を調べてみようとも思ったが、メイドたちが人間を越えることを望まなかったので何もしていない。

 さて、俺は『ゴーレムマスター』の能力の一つである、ゴーレムを収納する能力がある『ゴーレムインベントリ』の仕様をチェックしながら『劣化防止』の錬金魔法を魔物素材に使用するためだけの錬金ゴーレムを作りだし、取得した素材が劣化しないようにしていたのだが――俺たちが移動に使っている蜘蛛型ゴーレムの外から轟音が聞こえてきたために、作業を停止した。

「なんだぁ? 今の音」

 さぁ? というメイドたちの顔。

 後頭部を預けていたウルスラのでっかいおっぱいを退けて、腹筋で上半身を持ち上げると俺は森の奥に先行させているゴーレムの視界を乗っ取って、自分の視界に重ねて見る。

 ちなみにこれは転移魔法の応用だ。魔女なんかが使う使い魔の視界を得る魔法は使役魔法の領分だが、これは俺が作成したゴーレムの視界に映る映像を転移魔法で俺の視界に転移させているだけである。

「ああ? Tレックスがいるのかよ、この森」

 ゴーレムの視界には、群がるゴーレムたちを圧倒的な物理攻撃フィジカルで蹴散らしているT-REXティラノサウルスの姿が視界に入ってくる。

 そう、湖を目指して先行していたゴーレムが湖に繋がる獣道で恐竜型モンスターと遭遇していた。

 蜘蛛型ゴーレムの足を止める。このままだと俺たちも接触しかねないからな。

 その間にも俺が作成した無限再生ゴーレムたちが次々とTレックスに襲いかかっては撃退されている。

 この辺のモンスターと戦えていたゴーレムが、一撃で半壊する。触れただけで圧縮された土でできた腕や足が吹っ飛んでいく。俺のレベルアップと共に性能が上昇しているゴーレムがこんなに簡単に破壊されるとか、普通に悪夢だな。

 アシュリーから借り受けた鑑定スキルで対象を鑑定すれば、『ユニークボス:デスレックス レベル250』と表示が出る。250かよ。そりゃ勝てんわ。どう見ても厄災級モンスターである。もし魔の森が魔物暴走スタンピードを起こして、魔物が溢れ出したときにこいつが混じっていたら王国の一つや二つは簡単に滅ぶだろうぐらいに強そうだった。

 何しろ重戦車みたいな石製ゴーレムが簡単に破壊され、拘束するために重量特化の泥状のゴーレムが覆いかぶさっても、なんら速度や力が減っているように見えないからである。

「どうされましたか? レオンハルト様」

 アシュリーが問いかけてくるが、俺はうーん、とデスレックスを観察して、ああ、と解決法を見出した。


                ◇◆◇◆◇


 魔の森を徘徊するユニークモンスターであるデスレックスはぶんぶんと長い尾を振り回しながら縦横無尽に暴れていた。

 知能が低い恐竜型モンスターであるデスレックスであるが、レベルが高いことから人間程度の知能を持てている。

 そんな彼は、突然襲撃してきた柔らかい・・・・巨大人形どもがなんらかの魔法的産物であることを理解している。

 こいつらはデスレックスがいくら潰しても復活することからどこかに術者がいるのだと思われるが、彼にとってはそんなことはどうでもよいことだった。暴れて暴れて、とにかく暴れられるのだから何も問題はないのだ。

 この石人形どもは見たことがない珍しい獲物である。倒しても倒してもどんどん溢れてくる。楽しい。楽しい。暴れるのは楽しい。壊すのは楽しい。楽しい。楽しい――とても楽しい。

 歓喜に溺れるデスレックス。だから気づかなかった。

 徐々に自分の全身が沈んでいくことに。

 気づいた頃には身体の半分が沈んでいた。抜け出そうにも跳躍するための地面も足も泥の中に沈んでいた。

 所持しているスキル『大跳躍』で飛び出そうとするも、足の先まで抜け出る。また使う。ほんの少しだけ飛んで、しかし飛んだ先にも、泥濘があり、ずぶずぶと身体が沈んでいく。なんどもなんども大跳躍で抜け出そうとする。だがそのうちにスキルを使うためのSPスタミナを消費しつくしてしまう。

 畜生、クソが、抜け出せない。なぜだ? どうして? ありえない? デスレックスの身体がずぶずぶと泥に埋まっていく。こんな広範囲がいきなり泥になるなど、ありえない。

 威力を伴った怒声を上げれば、周囲のゴーレムどもが一斉に破壊された。だが泥濘は消滅しない。

 そうして彼の最後の抵抗はなんの意味もなく、彼は地面の下に埋まっていくことになる。

 圧倒的なステータスから繰り出される即死級の物理攻撃だけが驚異の、レベルが高いだけのフィールドボス。それがデスレックスであった。


                ◇◆◇◆◇



 ――魔の森中層域ユニークボス『デスレックス』を討伐しました。


 お、レベルが50以上も上がったな。

「『泥濘スネアゴーレム』はこういうフィールドボス相手だと強いな」

 空を飛べる鳥型や浮遊魔法が使える亜人型ボスには無力だろうが、こういうのは使い分けである。

 デスレックスを殺すためだけに作成した、地面を泥化させる泥濘スネアの魔法だけを使える泥濘ゴーレム百体。

 それをゴーレムインベントリに回収し、俺は泥の中で窒息させ、膨大なHPを削りきったデスレックスの遺体を重機ゴーレムたちを使って地上に引きずり出す。

 十メートルを越える巨体のモンスターの死体が俺たちの傍まで運び込まれ、なんで進軍を停止していたのかよくわかっていなかったメイドたちがひぇぇ、と怯えたようにユニークボスの遺体を見た。死体だけでもどれだけやばいかわかるもんだ。

「お、称号が入ってる。《ジャイアントキリング》《魔の森のユニークボス2討伐》か」

 称号には能力が設定されていることもあるが、どんなもんだ?

 鑑定して見ればジャイアントキリングは自身よりレベルが高い敵に対する能力値上昇効果、魔の森のユニークボス2討伐は……何もないな。まぁ収集用かな? あとはフレーバーとして、ステータスバレしたときの名声上昇効果があるとか?

 そんなことを考えていれば、ゴーレムたちの手によって、デスレックスを倒した位置に出現ドロップしたらしい豪華な宝箱が運び込まれてくる。宝箱……? あー、ボスだからか。へぇー。

 良いもの出るといいな、とスキルコネクトでウルスラと共有した『幸運』スキルを付与させたゴーレムに開けさせれば中には金銀財宝とともに武器や防具が入っていた。

「いや、豪華だが、俺が使える武器がねぇじゃん」

「きゃー! 綺麗な宝石がありますよ! レオンハルト様!!」

 オーレリアやエミリーたちが喜んでいるものの、俺としては現金入ってて嬉しいな程度の感覚でしかない。

 ちなみにダンジョンやモンスターから手に入る通貨はこの世界の基軸通貨だ。ダンジョンはどこの国にもあるからな。あと魔法的な価値が付与されていることもあって偽造もできないので、どの国でも安定して使えることができる。

 しかし、武器と防具がしょっぱいな。

 鑑定スキルでいろいろ見てみるが、物理系ボスだったためか、宝箱の中身は剣や鎧が多い。しょっぱいと言っても、どれも伝説級と言うべき性能だが、剣も鎧も今はいらないのだ。十二歳児だからな俺、近接戦闘するつもりないからな。

 そして、売るにもこのレベルの武具を買い取れる人間がいるのか? わからん。この世界で250レベルのユニークボスがドロップした武具がどのぐらいで売れるのかわからん。俺の感覚で考えれば、デスレックスは簡単にハメ殺せるが、普通の人間には無理だろう。

 レベル限界までパワーレベリングで育てたメイドたちレベル100だって一撃で殺されるレベルの強敵だ。

 父親のレベルは知らないが、あの父親でさえ、魔の森をこうも簡単に進めるわけがないことは知っている。浅層でちまちまと、魔物が王国に溢れ出さないよう、雑魚モンスターを狩るのが辺境の弱小領主の役割だからだ。

 そういう前提を頭に入れてからこの武器の価値を考えればどうだ?

 下手に流出したら狙われるレベルの武具なのか? それともそんなことはなく、俺と同じことを考えた人間がユニークボスを乱獲して、このレベルの装備が世界には溢れてるのか?

 ヴィクター男爵家の家宝の剣とか見せてもらったことないからな。この世界の貴重な武具のレベルがマジでわからねぇ。

 武器に関しては諦め、宝箱に入っていた装飾品を見る。お綺麗なアクセサリーが多いな。効果は腕力の上昇や、クリティカル補正値の上昇なんかだ。知力上昇や魔法攻撃力アップ系はない。

(金や素材が嬉しいが、今のところ外れ、か)

 こういった武具はゴーレムに装備させてもいいが、ゴーレムに装備させても余り意味ないんだよな。ぶっ壊れても良いのが無限再生ゴーレムの利点だから、高価な装備を身に着けさせたところでぶっ壊されたら困るだけだ。無限再生の利点が失われるだけである。

 十二歳児で魔法系の俺としてはローブや杖が欲しいのだが、この森でそんな装備を得られるか微妙なところである。

 いや、魔法使いタイプのボスがいれば別なんだろうが、未だに拠点すら作ってないのに、わざわざそんなボスを探して装備を手に入れようとはまだ考えられなかった。


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