004 転生者、燻製を作る
実家の夢を見た。
庭で日向ぼっこをしている俺。
そんな俺の傍に脳筋の父親の面影を持つ、金髪碧眼の小さな暴君が現れた。兄だ。シヴィル・ヴィクター。
兄は寝転がっていた俺に向かってサッカーボールを蹴るようにつま先を繰り出してくる。
兄に蹴られて俺は痛い痛いと泣きながら逃げ惑う。そのときには魔法の能力に目覚めていた俺は、魔法で殺してしまいたいという感情を抑えながら、兄貴に蹴り飛ばされる。反撃はしない。反撃などして義母に知られたら、食事に毒をいれられかねない。
痛みと屈辱にぐすぐすと泣いている間にメイドたちがやってきてクソ兄貴から庇うように俺の前に立ちふさがってくれる。
舌打ちしたクソ兄貴が「侍女にかばわれるとかだせー」と去っていく。
抱きしめてくるアシュリーの胸に顔を寄せながら俺は涙を流す。悔しい。殺してやりたい。クソが。畜生。うんこもらせ。
「最低な夢を見た」
呟き、目覚める。目の前には女性の裸がある。
性魔法と呼ばれる――俺が適当に名付けただけ――夜のハッスル魔法を使った結果だ。五人分の裸を堪能しようと――いや、バタバタと土魔法で作られたシェルターの外で動いている気配がある。メイドの数を数えればいない奴がいる。ああ、じゃあ、アシュリーやエミリーが朝食の支度をしているのだろう。
(メイド連れてきてほんとよかった。食事だの洗濯だのを自分でやるとかめんどくさすぎるからな)
黄色い髪の元気娘、ウルスラの豊満な胸に顔を寄せながら俺は目を閉じた。夢の中で受けた精神的な痛みと怒りを女の肌で落ち着かせていく。ついでに女体に入れっぱなしであった下半身の疼きも精神を集中して鎮めていく。
(っていうか、今どうなってんだ外は)
解除していた魔法感覚を外につなげる。つなげた先は念のために壁の外にも配置していたゴーレムだ。
器用さは最低だが力は強く、また壊れても地面の土を使って自動修復するようにした重機型ゴーレム。
とにかく図体がでかいそいつが三体、壁からちょっと離れたあたりにいた。
(何やってんだ? こいつら?)
危険に対して自動で排除するように命令しているから、何をやっているかはわからない。
ただ、ゴーレムがいる位置には土魔法で地面の下にパイプを作り、風魔法でドーム内の臭いを排出している穴がある。
このシェルター内の男女の臭いも風魔法でその穴から排出されているのだが――ああ? なんだこりゃ。
(死体が大量にあるな)
探知魔法、というよりは風魔法の魔力感覚で周囲を探る魔法で死体を確認する。百体を越える――これは、ゴブリンか?――ゴブリンの死体が転がっており、そのゴブリンの死体に惹かれてやってきた獣型モンスターの死骸も転がっている。
(淫臭を嗅ぎつけたゴブリンが換気口に集まって、そのゴブリンをゴーレムが排除して、排除されたゴブリンの死肉を食うために獣が来て、それがゴーレムにまた排除されたのか)
考えながらも魔力を遠隔操作して壁外の土を使って、解体能力を持つゴーレムを作成する。皮や肉などの資源に加えて、魔物の体内にある魔石を回収させる器用重視の多腕型ゴーレムを十体だ。
(消費魔力は、まだまだ余裕があるか)
転生してよりずっと魔力トレーニングは欠かしていなかった結果、俺の魔力は人外の領域にある。正式な魔法は学ばなかったが、ある種の脳内に発生した
まぁ代わりに精神系や結界、契約の魔法は不得意だが、それらだってできないわけではない。
「くすぐったいッスよぉ……レオンハルト様ぁ」
ぴちゃぴちゃとウルスラの乳首を口に咥えながら考え事をしていたら目覚めたウルスラがぎゅっと俺の頭を豊満な胸に抱え込んできたので朝から励むのだった。
◇◆◇◆◇
「空間魔法は覚えてないんだよな。誰かアイテムボックスとか持ってないか?」
「私たち、ただのメイドですよ?
だよな、と頷く。
魔力を持ち、有用なスキルがあるなら彼女たちはメイドではなく、領地の内政官や領軍の支援兵にでもされていただろう。
そんなことを話す俺たちの前で、壁に一時的に作り出した入り口より大量の魔物の肉と皮に魔石がゴーレムによって運ばれてくる。先程、壁外部にある通気孔でゴーレムに殺された魔物の素材だ。
なお、当然ながらゴブリンの肉は捨ててきている。臭くて食えたものではないからな。
「よくもまぁ、ここまで魔物が集まってきたもんだな」
俺は箱型ゴーレムを作り、そこに肉を吊るすようにメイドたちに指示を出す。箱ゴーレム自身にも細かく大量の補助アームを作ってあるので、ナイフ状のアームで肉を切りながらゴーレム自身の中に肉を収納していく。
ちゃんと長期保存したいなら塩が必要だが、ううむ、まだそこまで資源に余裕はないんだよな。
「とりあえず虫がつかないように、煙で燻して燻製作るか。味に変化がほしいから魔の森で露出した岩塩でも見つかればいいんだが。魔物って塩食ってんのかな?」
俺の問いにアシュリーは肉を箱型ゴーレムの中に吊るしながら首をさぁ、と横にかしげる。
「魔の森は様々な資源が取れる現実侵食型のフィールドダンジョンと聞いてますけど。岩塩の位置はわかりませんね。地図も持ち出せませんでしたし」
現実侵食とか絶対に意味がわかってないだろうな、と思いながらアシュリーの言葉を聞く。メイド五人娘は領主の館で働くほどなので農村の娘よりも賢いが、きちんとした学校に通ったわけではない。現実侵食とか、そういう概念に関しては知識もない。
それとヴィクター家には初代当主の時代から作ってきた魔の森の地図があるらしいが、俺もメイドたちも全く見たことはない。領軍が管理しているらしいから当然ではあるが、地図があれば資源の位置もわかっただろうな。
「そうか。まぁいいや。手持ちの塩が尽きる前に適当に買い出しに行かないとな。金は、ああ、金もないな。この肉だの皮だの魔石だのを売れば――あー、冒険者ギルドに登録だとかする必要があるか?」
レオン様、とイリシアが話しかけてくる。短髪青髪のメイドは「ヴィクター領に冒険者ギルドは領都ぐらいにしかないよ。行ったら殺されるんじゃないの?」と言ってくる。
「じゃあ隣領か、王都のギルドでいいだろ」
オーレリアがおずおずとどうやって? と問いかけてくるので「転移魔法使えるから。今、座標ポイント付きのゴーレムを自走させてるから、明日には隣領には移動できるはずだ」と答えた。
まぁいくら転移ができても、契約があるから俺は魔の森で最低半年は活動しないといけないわけだが。
転移魔法? と首をかしげるメイド娘たちに「遠くに移動できる、そういう魔法があるんだよ。実家にいた頃は周囲の目もあったからあんまり使えなかったけどな」と答えておく。
転移魔法を使わなかったのは、俺が館からいなくなるとこいつらが兄貴にまたいじめられたのかと過剰に心配するからだ。だから俺は誰かの目の届く場所にいなければならなかった。
ちなみに空間魔法は使えるが、アイテムボックスは習得していない。空間に穴を開けて物をしまったとして、同じ空間に接続して収納した物資を取り出す方法がよくわからないからだ。
たぶん空間に対する錨の役割として、契約要素を満たす必要があるのだろう。だから契約魔法が苦手な俺ではアイテムボックスの魔法を作ることはできなかった。する必要もなかったしな。
「ここまでできて、レオン様って、なんで男爵家を乗っ取らなかったの?」
肉を吊るしながらのイリシアの言葉に「零細男爵家なんて継いでどうするんだよ。まともに生きようとするだけで胃が痛くなる人生だぞ」と答えておく。
考える。親父やシヴィルをぶっ殺して男爵家を継いだところで何がどうなるのか。
王国に媚びへつらって、領地にいる脳筋の家臣どもを制御して、どっかの領から妻を迎えて、と考えて吐き気がしてきた。めんどくさい。
俺の能力もまた、あまり内政に興味を持たせなかった。
鑑定スキルがあれば奴隷を購入して人材チートなどもできただろうが、俺ができるのは所詮、生命と自然を、魔力を使って多少自分の都合が良いように動かすだけの魔法だけだ。
俺が全力で行動すれば内政無双なんかもできたんだろうが、そんな領地は俺が死んだあと絶対に荒廃することを考えればそんな無責任なことができるわけもない。
俺たちの前で、木材を切ってくるように指示を出したゴーレムが木々を粉々に破砕していく。
ちなみに魔の森の木材は高級木材である。ここはまだ浅層だが、そんな浅層の木材でさえ、王都とかだとめちゃめちゃ高い金額で取引されるらしい。
そんな高級木材でスモークチップを作っていけば、肉を収納し終わった箱型ゴーレムが作り出されたスモークチップを自分の中に放り込み、俺は準備が終わったゴーレムから、火魔法をゴーレム内部で持続発動してスモークチップを炙っていく。
香ばしい匂いが周囲に充満していく。ほんの少しの緊張感がメイドたちの間から漂っていく。
「あの、これは、大丈夫なんでしょうか?」
魔物が引き寄せられてこないかと不安な、黒髪美少女メイドであるオーレリアの言葉に俺は「周囲にゴーレム配置してるから、大丈夫だろ」と答えておく。最悪、土壁でも作って耐えればいい。匂いに誘われてやってきた魔物と無限に再生するゴーレムとの戦いなら結果はゴーレムの勝ちだからな。余裕である。
「とはいえここにずっといてもな。移動しよう。車型ゴーレム作ったから。お前ら、さっさと乗れ乗れ」
メイドたちを急かして車に乗っていく。「なんなんですかこれ?」「移動ってこれも動くんですか?」「作ったご飯もってかないと」なんて騒がしい。食事はゴーレムで回収してやる。中でダラダラしながら食おうや。
なお俺が作ったのは奇襲を受けても大丈夫な、圧縮石製の装甲板付きの車――というより八足歩行の蜘蛛みたいな大型ゴーレムだ。
魔の森は当然ながら森林環境なので、大木の根とかが地面から突き出していたりして、車輪での移動に向かないのである。
「川か湖を見つけたらそこに拠点作るぞー」
ウルスラとエミリーを、ガラス製の窓が嵌った前席に座らせる。進行方向を確認させるためだ。
俺自身は後部座席に座ると、アシュリーの豊満な胸に頭を預けようとして、周囲の森のざわめきに気づく。
燻製の匂いに惹かれて魔物がやってきたのだ。
俺が何をするまでもなく、周囲に設置した護衛ゴーレムが反応して武器を両手に走っていく。
「じゃあ、いくぞー」
おー、というメイドたちの声。疑問も疑念もあるだろうが彼女たちは全ての理解を放棄して魔法すごいねで完結させたらしい。
戦いの気配を他所に、俺たちは移動を始めるのだった。
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