仕事もらいました 3
(入賞はできたけど、大賞じゃないから画家として雇ってもらうのは難しいわね……)
レナは窓枠に頬杖をついて、はーっと息を吐きだした。
絵画コンテストに応募したものの、結果は佳作入賞。賞金の銀貨百枚はありがたかったが、一年間、美術館で絵が展示され、その後、五枚の絵の買い取りが約束されている大賞と違い、佳作入賞者は展示期間が終わればその絵は返却される。
展示中に買い手がつけば別だが、ついたとしても、その後の活躍が約束されるわけではない。
(結構自信があったのにな。画家への道のりも遠いわね……)
レナが思っていた以上に、画家の道は高く険しいようだ。
しかしこれで諦めるわけにはいかない。何としてもアレックスが伯爵家を継ぐまでには、自力で生きていくために画家にならなくては。
「かくなる上は絵の持ち込みかしら?」
美術館に絵を持ち込めば、もしかしたら若手作家の展示スペースの端っこに展示してくれるかもしれない。若手作家の展示スペースは販売も行っているので、何度か展示してもらっているうちに買い手がつくかもしれず、買い手の中には画家として専属雇用したいと申し出てくれる人が現れるかもしれない。……甘く見すぎだろうか?
窓の外を見ながら次の手を考えていると、家の前に見たこともない馬車が停まったのが見えた。黒塗りの、見るからに高そうな馬車だ。
(お父様のお客様に、あんな高そうな馬車を使う方いたかしら?)
何となく疑問に思うものの、父もあれで伯爵の地位にいる人だ。金持ちの友人の一人や二人、いるだろう。たぶん。
「ともかく次はどうしようかしら……。賞金をもらったから、画材は買えるけど……目的もなく高い絵の具を使うのはもったいなさすぎるわ」
好き放題に絵を描いていたら、銀貨百枚と言えどすぐに底をついてしまう。
運よく展示作品を見て誰かが声をかけてくれないものだろうかと思っていると、部屋の扉が叩かれて、慌てた顔のキャサリンが飛び込んできた。
「お、お嬢様! 大変でございます!」
「なに? お父様が滑って転んで怪我でもした?」
「違いますが、旦那様は今にも倒れそうになっておいでです!」
「え? 嘘でしょ?」
元気だけが取り柄のような父が、病気にでもなったのだろうか。
「お父様はどこか悪いの?」
「いえ、そうではなく……! ともかく、お嬢様、早く支度をしましょう!」
「支度?」
どういうことだと首をひねっている間に、キャサリンの手によって部屋着のワンピースがはぎ取られた。あれよあれよという間に、手持ちのドレスの中で一番高いものを着させられる。
「ちょっと説明して頂戴。これはいったい……」
「お、お、お城から、王弟殿下の使者の方がおいでです!」
「はあ?」
「お嬢様にお会いしたいと! お化粧! お化粧急ぎますよ!」
「ええ⁉」
何かの間違いではなかろうか。
何故、王弟の使者がレナに会いに来るのだろう。
「王弟殿下って、どなたの使者なの」
キャサリンは化粧筆を握りしめて、緊張からか浅い呼吸をくり返しながら叫んだ。
「クラウス殿下の使者の方でございます!」
「……なんですって?」
レナはあんぐりと口を開けた。
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