第2話 神おさめのワイン
【語り手:リル】
5月も末。
まだまだ爽やかだけど、屋外のテラスに居るのは紫外線が気になる季節ね。
そういう訳で、今日のお茶はハトムギ茶。
古くから「いぼ取り」のお茶として飲まれてきたお茶で、美容効果が高いといわれているんだって。吹き出物に対する効能があるのだそう。
また、新陳代謝を促進する働きがあり、肌のターンオーバーをサポートしてくれるといわれているため、肌の調子を整えたい方に特に人気だとリタが言っている。
まあ、私達は魔女なので、自分で作った美容薬の効果の方が確実なんだけれど。
「「「リル先輩、ミラ先輩、私達にも美容薬のレシピを教えて下さい!」」」
こう言っているのは、私達―――私とミラ―――の後輩にして従業員たち。
ご主人様は「3人娘」と呼んでいたわ。
私たちは全員魔女。
魔帝陛下に身も心も捧げているけれど、直接従っているのは魔界の公爵様。
5人全員が公爵様にお世話になり、今も面倒を見て貰っている。
なので貢物は、魔帝陛下と公爵様のお二方に。
差し上げるものが全然違うから、何とかやっていっている。
公爵様は日常の品々―――天然の毛糸や蜂蜜、毛皮etc―――と、この店でお客様から頂く血液を。魔帝陛下には人間を、それぞれ捧げている。
「リル!公爵様の亜空間収納に手紙とお菓子が届いたよ!」
「ほんと?何ておっしゃってる?」
「任務のメンバーが貢物を自分たちも使わせて貰ったから、お礼に「食用の金」で作ったショートケーキを差し入れてくれた。有難く食べるように、ですって!」
「ショートケーキ!今食べましょう」
私はリタとベルに紅茶を淹れてくるように言う。
「紅茶は何にしましょうー?(ベル)」
「セイロンのミルクティーで良いんじゃないかしら?(リル)」
「私はレモンティーがいいな(ミラ)」
「じゃあとりあえずストレートで淹れてきますわ(リタ)」
「私はケーキを切り分けるね!(エナ)」
さっき朝ごはんを食べたばかりだけど、甘いものは別腹ね。
「ねえ、このケーキ、聖気がしない?(ミラ)」
「しますけど、私達は人間ですし、問題ありませんわ(リタ)」
「ご主人様のお仲間は天使なのかなぁ?(ベル)」
「ご主人様は変わり者だっていう噂だし、そうかもね(リル)」
♦♦♦
昼過ぎ、来客があった。
私たちの先生である、上級魔女フランチェスカ先生(フラン先生でいいらしい)だ。
彼女ににかかれば私達なんて、単なるひよっこね。
エナが荷物を持ち、リタがお茶とお菓子を取りに行く。
ベルは、教室のセッティングだ。
お茶の席(バルコニー)で、3人娘の熱い要望を聞いた先生。
「そう?じゃあ今日は、ここで採れる材料を使って美容薬の作り方を教えましょうか。あなたたち、今から言うものを集めて来てくれる?」
はい、と3人娘と私とミラの返事が唱和した。
メモに書かれた材料は―――
まず薔薇の品種は、ラブリーブルー、アンナプルナ。ショッキング・ブルー。
これだけだと青い薬になりそうだけど、他の材料は―――
ベラドンナ、液状ミスリル銀、粉にした真珠、処女の生き血。
道具は、私たち自身の魔力と、両手サイズのミニ魔女の釜、すりこぎ。
私たちが帰ってくる頃には、フラン先生はもうお茶を飲み終わっていた。
「うん、それでいいわね。じゃ、教室に移動しましょうか」
全員でぞろぞろと、2Fの教室にカスタムしてある教室に向かう。
「まずは、バラの花びらを散じてちょうだい。痛んでる花弁は入れちゃダメよ」
みんな、黙々と作業。
「ベラドンナは茎まで使うから、ハサミでバラバラにして窯に入れるの。入れたら、バラの花びらも入れて、すりこぎでよーく潰してちょうだいな」
「できた?じゃあ液化ミスリル銀を投入して、再度すりこぎでなじませて。この最中に、できる限り魔力を注ぎながらつぶしてね」
ごりごりごり………鍋の中がミルキーブルーになり、ポコポコと泡立って来たわ。
「粉末の真珠を大さじ1杯入れて、まだまだ潰していくわよ。
花びらや茎が残っていてはダメよ。
水分が足りなければ液化ミスリル銀を足してね。
魔力を注ぐのを止めないようにするのよ」
何だかキラキラしてきた、綺麗だわ。
青白い光を放つ、パールブルーのクリームになった。
「最後に自分の指先を切って、血を小さじ一杯溜めたら、入れて混ぜるのよ」
ここに居るのはみんな処女だものね。
血を投入すると、美容薬はさっと淡いパールピンクになった。
「それに、魔力を注ぎながら、だまや粒子の類がなくなるまで混ぜてちょうだい」
再度こりごりごりと。
輝くパールピンクの滑らかなクリームになった。
フラン先生は全員の釜を覗き込み
「うん、できたようね。容器は………ちょっと待ってね」
フラン先生は亜空間収納をごそごそすると、大き目の円筒形の容器を取り出す。
「スプーンで、これに移し替えなさい。ちなみにこのクリームは、いつでも使えるものよ。化粧下地にも、ナイトケアにも使えるからね。そばかすも消えるわよ」
「「「「「フラン先生、ありがとうございました」」」」」
みんな、作った美容薬を大事そうに抱えている。全員レシピはメモったわ。
「じゃあ次は、ボディクリームを教えてあげる。美容は大切だからね。ミニドレスでも誇れる姿じゃないと、他の魔女に馬鹿にされるわ」
「「「「「よろしくお願いいたします」」」」」
♦♦♦
そして夜中―――リーンゴーンと鐘が鳴る
私達(リルとミラ)は飛び起きた。
3人娘を叩き起こして回る(リタだけはちゃんと起きていた)
そして「生活魔法:ドレスチェンジ」で制服に。
私、リル。
私の制服。深い青のドレスは、ややかっちりした作り。
全体に真白いレースがふんだんにあしらわれ、丈は足首まである。
頭上は青い薔薇のカチューシャ。片手に金の杖を持って。
髪は輝く金髪、そして青色の美しい瞳。
相棒はミラ。
彼女の制服。真紅のミニドレスはオフショルダー。
つけ袖の手の側と、上衣の裾からはたっぷりフリル。スカートはフレアスカート。
頭上は赤い薔薇のカチューシャ。片手に銀の杖を持って。
髪は細かく波打つオレンジブラウン、同色のぱっちりした瞳。
3人娘の制服は、いいところの子女といった服装。
レースのカチューシャ、ボートネックでハイウエスト。
柔らかそうな膝丈のパニエ入りスカート。それぞれ、紫・黄・桃に染めてある。
真珠のチョーカーにはそれぞれの色の薔薇が揺れている。
【語り手:リタ】
「あのう、どなたかいませんかー?」
不安そうな声が聞こえます、急がないと帰ってしまうかもしれませんわ!
「お待たせしました、店長のリルです(リル)」
お客様がホッとした顔を見せ「セリーナといいます」と自己紹介を頂きました。
良かったですわ。
私とベルは応接室にエナを置いて、お茶の準備にかかりましたの。
ベルはドジっ子ですので、私はエナの方が―――いえ、彼女も物を壊しかねませんので、ベルの方がマシかしら?正直、一人の方がいいかもしれませんわね。
選んだのはラベンダーティーですわ。
セリーナ様は不安そうにしてらっしゃいます。
ですのでリラックス効果のある物をチョイスしましたの。
ベルはのんびりした仕草で「黄金のショートケーキ」を切っていますわね。
「お待たせ致しましたセリーナ様。こちらはラベンダーティーと黄金のショートケーキですわ。リラックスなさってください(リタ)」
「あっ、ありがとうございます。金色のケーキ………食べてもいいのですか?」
「とても美味しいですわよ(リタ)」
セリーナ様が、ケーキを食べ終わったところでリル先輩が声をかけました。
「セリーナ様、叶えたい願いは何でしょう?(リル)」
「実は私、すごく不運なんです。10歳ぐらいから始まったんですが………原因があるなら突き止めて治したいのです。ここへ来るまでにも、犬にかまれたり、木が倒れて―――何とか抜け出しましたけど―――下敷きになったり」
「なるほど。では魔道具を持ってきます。ミラ、お代の説明をお願い(リル)」
リル先輩は店の奥に消えていきました。
「料金はお金ではなくて、ヴァンパイアが飲むための血です。それ以外の用途には使いませんし、変なこともありません。魔道具ひとつにつき、1回の採血です(ミラ)」
「構いません、それでこの状態から抜け出せるなら………」
「セリーナ様、とりあえず強力な厄除けの「ミスリル銀のアミュレット」と、原因を探るため「真実の鏡」を持って来ました(リル)」
リル先輩は、まずアミュレットを差し出します。ブローチ型ですわ。
セリーナ様が小さな五芒星型のそれを身に着けます。
そうすると、ほんのりオレンジ色に光りましたわね。効果発動ですわ。
「これで、厄は軽減されますが………原因を探るため、鏡も使いますか?(リル)」
「はい、よろしくお願いいたします」
「では、この手鏡をお手に取って、質問してみて下さい」
セリーナ様は深呼吸してから
「私が不運なのは何故ですか?」
『子供の頃、遊んでいて小さな神の祠を壊しており、その神が祟っています』
「ええ!?場所はどこですか!」
鏡に何の変哲もない田園風景が映りましたわね。
「え………ここはどこですか?」
鏡に広域地図が映し出されましたわ。
不安そうな様子を見かねたリル先輩が、追加の魔道具を取りに行くようです。
お客様はその間、地図を必死に眺めていますわね。
リル先輩はすぐに帰って来られましたわ。さすが探すのがお早いですわね。
「セリーナ様、これは目的地に導いてくれる、「魔法の矢印」です。それとこれが神を宥める事の出来る「神おさめのワイン」といいます」
「それがあれば凶運から逃れられますか?」
「おそらく。サポートにこのペンダントにうちの従業員を封じて、解決までの間だけフォローをしますので持って行って下さい。今回はリタ、お願いね」
あら、ご指名されてしまいましたわ。では行きましょう。
わたくしは、
体は力を失いますが(エナが抱きとめてくれましたわ)精神はペンダントに宿ります。リル先輩がセリーナ様に渡してペンダントと魔法の矢印の説明をしています。
「無くなることはありませんが壊さないで下さいね。問題が解決した後は、従業員(リタ)はいなくなりますが、強い厄除けの護符になります(リル)」
セリーナ様は「お代」を4回分支払って、私の宿るペンダントを身に着け、魔法の矢印を起動させてそれに従って店からお出になりましたわ。
途中、野犬がうろついていましたが気付かれずに切り抜け、森の外に出てからは矢印の導きに従って畑の多い場所に行ったのですが、肥溜めを踏み抜く寸前で回避。
五芒星のアミュレットは、ちゃんと機能しているようですが、いつ何かあるかとヒヤヒヤしますわ。私の出番がない事を祈りますわね。
魔法の矢印が導いたのは、お客様の家の近くだったようです。
田んぼと森の広がるのどかな風景ですけど、この近くに神様の祠があるのかしら?
魔法の矢印は、セリーナ様を森へと導きます。
森の中に入りしばらく歩くとベンチがあるだけの、シンプルな広場に出ましたわ。
「懐かしいわ、確かにこの辺りで遊んでた記憶がある」
魔法の矢印は、広場の片隅にある壊れた何かの前で、力を失い落ちました。
どうやら、ここが目的地のようですわね。
『お客様、『生活魔法:
「あ、はい。そうですよね、かけてみます………『リペア』」
壊れていたものは、綺麗に小さな祠へと復元されましたわ。
ご神体は、石製の狐でした。祟るわけですわね。
『お客様、「神おさめのワイン」をお供えして、非礼を詫びて下さいまし』
「はい………これをお納めください、子供の頃の非礼をお詫びします。これからも時々お供え物を持って来ますので、許してください」
≪その言葉を守るなら、許してやろう。ゆめ忘れることなかれ≫
お許しが出ましたわね、必要ない約束もしたようですけど。
それから1週間ほど、私はセリーナ様の元にとどまって様子を見ました。
特に何も起こりませんわね、セリーナ様も驚いていらっしゃいます。
「不運が来ない………やっと解放されたんですね、ありがとう!」
『どういたしまして。神様にお供え物を忘れてはいけませんわよ?祟れるぐらいの力はあるのですから、尽くせば幸運を呼んでくれるようになると思いますわ』
「わかりました、ご加護がもらえるぐらいお世話します」
『それでは、私は店に帰りますわ。何かあったらおいで下さいな』
そうして、私は店に戻りました。
不思議な縁を感じるお客様でしたわね、また会う気がいたしますわ。
目を開けると、仲間と先輩「何でも喋るラジオ」が目に入ります。
「「「「お疲れ様ー!」」」」
「ただいま帰りましたわ」
帰ってきたと、ほっとしましたわ。ペンダントの中は、何だか狭いのですもの。
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