第5話真の姿

おつかいも終わり、小屋に戻る道。

「ザナ!木苺がある!取っていこう~!」

「ミナミ、さっきからそう言って寄り道ばかりだの。なかなか帰れぬぞ。」


私はザナトールをザナ呼びしていた。

ザナトールって長いし、本人も何も言わないので、好きに呼ばせてもらうことにした。

なんだか距離が縮まった感がして、嬉しくなる。


「ザナだって木苺のケーキ好きでしょ?

木苺をトロットロに煮詰めたのを、スポンジケーキの間と上にたっっぷり乗せて、やや甘めのホイップクリームを…」

「さ、ミナミ、カゴを寄越せ。我が摘んでやろう。」

小さい体で、ちょこちょこ動くザナは可愛い!

ふっふっふっ、知ってるんだからね。おやつに焼いた木苺ケーキを出すと、右の眉毛が少し上がって、恍惚な顔で食べてるのを!


カゴ一杯に摘んだ木苺を摘まみながら、再び帰路につく。


「ん?おかしいな、この道、湖の近く通ったっけ?あれ?」

「どうかしたのか?」

「あ、いや、くーちゃんが溺れてたの思い出して…。あの時は心臓がギュッと握りつぶされるような思いだったなぁって。」

でも、

昨日の湖の様子と…なにか違う。

「ーーーミナミ、気づいたか?この湖、変だ。」

「ザナ、私も…」

言ってる途中で水面がゆらりと揺れた。

風もないのに。


キィシャーーーーーー!!!


瞬間、激しい水飛沫と共に、大きい何かが私達目掛けて襲ってきた!

「くっ!逃げるぞ!」

ザナが私の手を掴み、走り出そうとすると


シュルシュルシュル!


私の足に何かが巻き付いて、派手に転んでしまった!

「え!なにこれ?!へ、ヘビッ!!!」

私の足に絡み付いてるのは、まさにヘビの尾みたいなもの。

湖の中心から出てる。

そしていつの間にか、その湖の中心から大小様々なヘビ達がすごい勢いで這ってくる!


「いっ!痛い!どんどん締め付けてくる!」

ギリギリと音を出し、ヘビの尾が締め上げてくる。

「ミナミから離れろっ!このっ!」

ザナは短剣で切り落とそうとするが、キズ一つつかない。


どうしたらいい?!考えろっ!考えろっ!

ザナだけは助けないと!

神様!助けて!


『私を呼びなさい』


凛 と心の奥から、あの声が聞こえた。


ーーーあなたは、誰?ーーー


「ミナミィーーーーー!!!」


ヘビ達が私目掛けて一斉に飛び掛かる。

動きがスローモーションで見える。

私の内に熱いくらいの光が集まる。

そしてーーー。


【ザナトール(我が剣)よ、行け】


私の内に集まった光が、ザナトールに注がれる。

「くっ!うわっ!!ぐぅぅっ!!!」

ザナトールが苦しそう!

やめて!やめてー!!


パアァァァァンッ!と光がはじけると、そこにはザナトールの姿はなく、


え!?誰?


湖の上に人が浮かんでいた。

長い黄金に輝く髪が、ゆらゆらと揺れている。


ザ…ナ…?


「はあぁぁぁぁー!!」


手に持った銀色の長剣を払うと、その風圧でヘビ達がなぎ倒されていく。

そして、湖の中心に向かって突っ込んで行った!


目が開けられないくらいの閃光。


時間にして本当に一瞬であった。


恐る恐る目を開けてみると、周りになぎ払われたヘビ達の姿はなく…


「ミナミ、大丈夫か?」

そう言って、私に手を差し出してきたこの人は…


「ザナなの?ザナトール?」

「そうだ。これが本来の姿。おぞましい邪神に力を封印されていた。」

「いや、ちょっと待って…情報がなんだか多すぎて…処理できないっていうか、その…」

さっきの恐怖が今頃押し寄せてきて、腰が抜けて立てない。

「奪われていた記憶も大体戻った。後は小屋に戻り、説明しよう。」

そう言って、ザナ(大人)は私をひょいっと縦抱きにし、空に向かって浮上していった…

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