第4話それは突然に

「やぁ、素晴らしい朝だね。そしてミナミはヒドイ顔だね。」

朝の爽やかな空気と共に、グランが小屋にやって来た。

「ーー今日は随分早いのね、グラン。」

「可愛いミナミの顔が見たくてね。」

バチン!とウィンクをしたグランだったけど、何かしいつもと雰囲気が違う。

「……何か大変な事でも起きたの?おばあちゃんもくーちゃんも昨日から変なんだよね。」

一瞬、見慣れない真剣な表情になったグランだったけどすぐに、

「何?何?とうとう俺に惚れちゃったの?ダメだよミナミ~。俺、案外一途なんだよね。その人にもう、ずっと。」

驚いた、グランに好きな人居るんだ。

適度な筋肉がついた長身。

髪も落ち着いた栗色、目は透き通ったグリーン。

いつもニコニコ愛想がいいし。

そりゃ、モテるだろうなぁ。


私と少年は老女におつかいを頼まれた。

というか、追い出された感じ。

グランも含め、雰囲気がトゲトゲしい。

なんだか私もソワソワする。いや、ザワザワする。

体のずっと奥がチリチリ痛いのは、気のせいなんかじゃない。


「娘、どうした浮かない顔で。」

考え込んで、下を向いて歩いていた私の顔を、心配そうに眉を寄せて、覗き込むように少年が聞く。

ここのところ、この少年の不意打ちにやられてる。

洗濯物を干すときも、背伸びして、足プルプルさせながら竿を支えていてくれたり、

料理してるときも、すぐ隣で

「手伝うか?何かやるか?言ってくれ。」

と可愛いモフ耳とブンブン振ってるしっぽが見える幻覚に襲われること多々あり。

優しいんですけどーー!!

どうしちゃったのよ、最近ーーー!!

「大丈夫だよ。ま、少し寝不足かな。えへへ。」

「そこの木下で休もう。急ぐ用件でもないしな。」

そう言うと少年は、エスコートするように私の手を取り、座らせた。

「少し寝た方がいい。起こしてやる。」

私の隣に座り、私の頭を自分の肩に寄せた。

ーーー少し高さが足らないけど、少年相手にドキドキしてしまった。

やっぱり背徳………。


『そろそろ目覚めなさい。

あなた達を待っているわ。


ハッと目が覚めた。

目の前には少し前と変わらない風景。

「どうした娘?すごい汗だな。」

訝しい顔の、でもキレイな顔の少年がすぐ近くにあって、二度ビックリした。

「あ!やぁその…大丈夫。少年の顔が近いからビックリしちゃった。あははは…。」

「ーーーザナトールだ。」

キョトンとしている私に、少年は顔を赤くして、

「ザナトールだっ!!」

と同じことを言った。

「それって…名前?少年、ザナトールって言うの?!」

うなじまで真っ赤にしながら、コクンと頷く。

かぁわぁいいっ!!

お姉さん、キュン死しそうだよ。

ワシャワシャとザナトールの頭を撫でてると、顔色が赤から青に変わっていった…。

ーーごめん、ごめん。

名前を教えてくれて、私の心配もしてくれるようになった事が、すごく嬉しくて…。

「あのね、ちよっと信じられないかもしれないんだけどね、実は…」

「どうした?」

「私、元々この世界の住人じゃないの。」

「?」

心配そうな顔のザナトールに、今までの事を全て話してみた。

今まで誰にも言えなくて、

未だにどうしていいのか分からなくて、

不安に感じてた事、全てを話す。

話しているうちに、ポロポロ涙が出てきてしまったけど。

話終わると、ぎゅっと抱き締められた。

実際には抱きつかれた感じだけど…。

「ミナミは一人で、色々大変だったんだな。でも変な奴らだが、無害な者達が近くにいてよかった。」

「そうね、おばあちゃんもくーちゃんも、グランも、みんなすんなり私を受け入れてくれた。ザナトールも。」

まだ涙が止まらない。

私の頭をゆっくり撫でるザナトール。

「そして、正体も分からない、我の事もミナミは見捨てず助けてくれた。」

「そりゃあ、血だらけで倒れてる人を、しかも子供をほっとけないでしょ?」

「ほっとくどころか、とどめを刺そうとする輩は沢山居る…。」

ザナトールの撫でる手が止まった。

ふと顔を覗き込むと、

「ミナミ、お前には返しきれない恩がある。そして我が頑なに心を閉ざしていた時も、ずっと笑顔で世話を焼いていてくれた。感謝する。ありがとう。」

天使の微笑頂きましたっ!

悶えてる私に、ザナトールは手をちょいちょいとして、私に屈めとジェスチャーをした。

体を前傾にした瞬間、チュッとリッブ音がして、額なキスをした。

「ミナミに幸福を。幸、多いことを我、願う。」

ニコッとしたザナトール。

何が起きたのか、理解するのに数秒固まった私。

「息はした方がよいぞ?」

「ぐはぁっ!何ですかこの小悪魔は!私の命を止めにかかってかてる!死ねるわ!」

「ーーー体調も戻ってきたようだし、おつかいの続きをするか。」

半目になって私を見るザナトール。

思ってること口に出してました。恥ずかしい…

さっさと歩いていく彼を、慌てて追いかけた。





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