第24話 理不尽

 三階の空き教室。

 その中に無数の机と椅子が並んでいた。

 教室の中は薄暗くて、窓から野球部やサッカー部の声が聞こえてくる。

 その空き教室の中に僕と羽島がいた。


「なぁ羽島」


 僕は羽島に話しかける。


「なんだよ……?」

「なんで朱理に嘘ついたんだ?」

「……」


 僕がそう言うと、羽島はビクッと身体を震わせる。

 動揺している様子だった。


 謎だ、どうして羽島は朱理に嘘をついたんだ?

 こいつは何を考えている?

 それが知りたくて仕方ない。

 しばらくして羽島は口を開いた。


「嘘……? なんのことだ?」

「惚けるな。朱理に『祐二は浮気してるぞ』って嘘ついたんだろ?」

「……」

「どうしてそんな嘘をついたんだ? 答えろっ、羽島」

「――せいだっ……」

「え?」

「お前のせいだぁぁぁぁっ! 祐二ぃっ!!」


 羽島の言葉に僕は眉を顰める。 

 僕のせいだと?

 一体、なんのことだ?

 

 僕は視線で『どういう意味だ?』と問うと、羽島はまっすぐ言葉を投げる。


「お前のせいでっ……お前のせいで俺は優衣に振られたんだよっ!!」

「……」


 僕のせいで優衣に振られた?

 おいおい、急に何の話だ? マジで意味が分からない……。

 

 混乱している僕を無視して、羽島は話を続ける。


「祐二と朱理が付き合ったら、優衣はお前を諦めてくれると思ったんだよっ……だから、朱理の恋を応援したんだっ。けど、優衣アイツはお前を諦めてくれなかった……。全部、お前のせいだぁぁぁっ!! 祐二っ!!」


 羽島はそう言って、僕に鋭い目を向けてくる。


 羽島の話が本当だとすると、優衣は僕のことが好きなのか。

 あっ〜、なるほど。だからあのとき優衣は僕にキスしてきたのか……。

 色々と納得だ。


 羽島の話を整理する。


 羽島は優衣のことが好きだ。

 けど、優衣の好きな人は羽島じゃない。彼女の好きな人は僕だ。

 それを知った羽島は優衣と付き合うために、僕と朱理の恋を応援した。

 結果、僕たちは恋人になった。


 『これで優衣と付き合えるっ』と判断した羽島は、優衣に想いを伝えた。

 けど、優衣は僕のことを諦めていなかった。そのせいで、羽島は優衣に振られてしまった。

 ってことだよな?


「許さないっ……」

「は?」

「お前だけは絶対に許さないぞっ!! 祐二っ!!」

「ちょ、ちょっと待て……僕は何も悪くないだろ? なんで僕が悪人みたいになってんだ? 意味わかんねぇよ……」

「うるせぇぇぇ!!! 全部、おめぇが悪いんだよっ!!」


 羽島は思いっきり地面を蹴って、僕に接近してくる。

 そして、力任せに僕の顔面を殴りかかってきた。

 僕はU字を描くように上半身を屈めて、なんとか羽島のパンチを回避する。

 この野郎、本気で殴ってきたぞ。何考えてるんだ……?


「ちっ! 避けんなよ!! このクソ野郎がぁぁぁっ!! 死ねぇぇぇぇ!!!」


 再び羽島は思いっきり拳を振るう。僕は羽島のパンチを回避して、奴の腹部に蹴りを入れる。


「ぐはぁっ……」


 すると、羽島はお腹は抑えながら床に倒れ込む。

 床から起き上がろうとしている羽島の顔面を、僕は思いっきり踏みつける。

 そして、そっと口を開いた。


「さっきの会話は録音してるぞ」

「な、なに……?」


 僕の言葉に羽島は眉を顰める。

 僕はポケットの中からスマホを取り出して、再生ボタンをタップする。

 すると、さっきの会話が再生された。


『なぁ羽島』

『なんだよ……?』

『なんで朱理に嘘ついたんだ?』

『……』


 スマホのスピーカーから僕と羽島の声が聞こえてきた。

 それを聞いて、羽島は困惑している。


 そう、僕はさっきの会話を録音していたのだ。

 やっとそれに気が付いた羽島は、ガタガタと歯を震わせる。

 パニック状態に陥っている羽島を、僕は睨みつける。


「優衣がこの会話を聴いたら、お前のことどう思うだろうなぁ?」

「……」

「下手したら、アイツに嫌われるぞ?」

「っ……あっ…あぁっ……あぁっ……」


 僕の言葉に羽島の顔は真っ青になる。目には熱い涙が溜まっていた。

 

「い、嫌だ……」

「ん?」

「優衣に嫌われるのは嫌だっ……」

「……」

 

 もし優衣がこの会話を聴いたら、羽島のことを嫌いになるだろう。

 羽島はそれを恐れているのだ。

 僕はバカみたいに泣いている羽島を睨んで、ゆっくりと口を開いた。


「もう二度と僕と朱理の邪魔をするな。分かったな?」

「は、はい、分かりました……」

「本当にわかってんだろうな? 二度と邪魔するなよ?」

「はいっ、絶対に邪魔しません……」

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