第9話 好きな人


【篠宮朱理 視点】


「んっ~~~~!!」


 アタシは言葉にもならない声を上げる。

 ど、どどど、どうしようっ!!

 坂田くんのほっぺにキスしちゃったっ……。

 なんであんな恥ずかしいことしたんだろうっ。

 アタシのバカ……。


 昨日、アタシは東条先輩に襲われた。

 胸やお尻を触られて、キスされそうになった。


 嫌だ、こんな男とキスしたくない……。


 お願い、誰か助けて。

 アタシのこと助けてよっ……。


 そう願った瞬間だった。

 坂田祐二くんが助けてくれた。


 もし彼が助けてくれなかったら、アタシは東条先輩に襲われていただろう。

 それを想像した瞬間、ゾッと背筋に寒気が走る。


 坂田くんには感謝してもしきれない。

 本当にありがとうね。


 坂田くんの第一印象は『顔が怖い』だった。

 彼の顔は本当に怖いの。

 態度も悪い。

 正直、この人は性格も悪いんだろうな、と思っていた。

 けど違った。

 アタシの想像以上に坂田くんは優しい人だった。


 イケメンで、

 喋りやすくて、

 優しくて、

 昨日は東条先輩からアタシのことを守ってくれた。


 坂田くんの顔を想像した瞬間、ドキドキと胸が暴れ狂う。

 頭の中が真っ白になる。


 最近のアタシは変だ。

 坂田くんのことばっかり考えてしまう。

 今日は授業中も坂田くんのことばっかり考えていた。 

 

 もっと坂田くんの声を聞きたい。

 彼に『可愛い』と褒められたい。

 甘い声で『愛してる』と囁かれたい。

 無数の欲望が渦巻く。

 本能が坂田祐二くんを渇望している。


(これって……)

 

 たぶん、アタシは坂田くんのことが好きだ。

 彼に恋してしまったのだ。

 

「……」


 どうやったら坂田くんと付き合えるんだろう?

 もっと積極的にアピールしないとダメなのかな……?

 

 アタシは恋愛経験ゼロだ。

 だから、好きな人との距離の縮め方が分からない。

 インターネットで『好きな人と付き合う方法』と検索してみたけど、全然参考にならなかった。

 はぁ、どうすればいいんだろう……。


「ん?」


 突如、誰かが電話をかけてきた。

 誰だろう?

 気になったアタシは電話に出た。


「よう、朱理」

 

 スマホのスピーカーから羽島正人の声が聞こえてきた。

 アタシと正人は幼馴染なの。

 幼稚園の頃から仲良しなんだ。

 ちょうどいい。

 正人に相談しよう。


「ねぇ正人。坂田くんの好きな人って知ってる……?」

 

 正人は「は……?」と間抜けな声を出す。


「お前……祐二アイツのことが好きなのか?」

「ふぇっ!?」


 正人の言葉に動揺を隠せなかった。

 なんでアタシの好きな人が分かったんだろう?

 正人って人の心が読めるのかな?


「な、なんでわかったの……?」

「ん? マジで祐二アイツのこと好きなのか?」


 正人の言葉にアタシは「うん……」と頷いた。


 正人に好きな人がバレてしまった。

 なにこれ、凄く恥ずかしいんだけどっ……。

 ベッドの上で足をバタバタさせる。


「アタシの好きな人……誰にも言わないでね?」

「ああ、分かってる。誰にも言わないよ」


 正人の返事にアタシは「はぁ……」と安堵のため息を吐く。


「ねぇ正人……」

「あ? なんだよ?」

「どうやったら、坂田くんと付き合えると思う?」

「ん? なんだよ、お前。祐二と付き合いたいのか?」

「うん、付き合いたいっ……」

「ならデートに誘え」

「で、デートっ!?」


 アタシは大声を上げる。

 どうやってデートに誘えばいいんだろう? 

 恋愛経験ゼロのアタシにはわかりません……。


「デートの誘い方なんてわかんないよ……」

「普通に『明日、遊ぼう』って誘えばいいんだよ」

「え? それだけでいいの?」

「ああ、それだけだ。簡単だろ?」

「……」




 ◇◇◇



【坂田祐二 視点】


 昨日、篠宮朱理しのみやあかりが僕の頬にキスしてきた。

 なんで篠宮は僕のほっぺにキスしたんだ?

 もしかして、アイツは僕のことが好きなのか?

 僕のこと好きだからほっぺにチューしたのか?

 

 クソっ、篠宮のことが気になって仕方ない。

 電話で『お前、僕のことが好きだろ?』って訊いてみようかな?

 いや、流石にそれはキモいなぁ……。 

 やめておこう。


「ん……?」


 突如、篠宮が電話をかけてきた。

 僕は電話に出る。


「もしもし、篠宮か?」

「う、うん、そうだよ……」


 スピーカーから篠宮の声が聞こえてきた。

 彼女の声は緊張混じりだった。

 

「僕に何の用だ……?」

「えーっと、その……坂田くんって明日は暇?」

「明日は……暇だな」

「じゃあさ、アタシと一緒に遊ばない?」

「2人だけで?」

「うん、2人だけで……」

「……」


 篠宮の言葉に僕は黙り込む。


 これってデートのお誘いだよな?

 僕とデートしたいってことだよな?

 え? なに……まじで僕のこと好きなの?

 ははっ、まさかな……。


 黙り込んでいると、スマホのスピーカーから不安混じりの声が聞こえてきた。


「嫌かな……?」

「嫌じゃないっ! 全然嫌じゃないぞっ!」

「ほんと……?」

「ああ、本当だ」

「よかった……」


 スピーカーから「はぁ……」と安堵のため息が聞こえてきた。

 安心している様子。


 集合場所を決めたあと、僕たちは電話を終了した。


 明日、篠宮とデートすることになった。

 なんだこれ……。

 夢か?

 


 ◇◇◇

 


【篠宮朱理 視点】



 明日、坂田くんとデートすることになった。

 

「坂田くんとデートか……えへ、えへへっ」

 

 ダメだ、ニヤニヤが止まらない。

 こんな顔、坂田くんには見せられないよ……。

 

「ん……?」


 また正人が電話をかけてきた。

 アタシは電話に出る。


「どうしたの?」

「祐二をデートに誘えたか?」

「うん、ちゃんと誘えたよ」

「そうか、そうか。頑張ったなぁ」


 正人のおかげで坂田くんをデートに誘えた。

 けど謎だ。

 どうして正人はアタシに協力してくれるんだろう?


「ねぇ正人」

「ん? どうした?」

「どうしてアタシに協力してくれるの?」

「……」


 アタシの言葉に正人は沈黙する。

 部屋に静かな空気が流れる。

 物音ひとつしない。


 しばらくして正人は口を開いた。


「さぁなんでだろうな……」

 

 謎だ。

 なんで正人はアタシに協力してくれるの?

 アタシに協力しても、正人にメリットはないはずだ。

 にも拘わらず、彼はアタシに協力してくれる。


 正人は何を考えているの……?

 それが気になって仕方ない。

 


 

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