第7話 助けて……

 朝ご飯を食べたあと、僕は制服に着替えて家を出る。

 学校に向かって歩いていると――


「あっ、坂田くん!」


 ――背後から女性の声が聞こえてきた。

 後ろを振り向くと、制服姿の篠宮が視界に入った。

 今日も可愛いなぁ……。


「おはよう、篠宮」

「うん、おはよう。よかったら、学校まで一緒に行かない?」

「いいのか……?」

「ふふ、もちろんだよ」

「じゃあ一緒に行くか」

「うんっ」


 僕たちは横に並んで学校に向かう。

 篠宮からバニラのような甘い香りがする。

 良い香りだ……。

 ボディソープの香りかな?


「ねぇ坂田くん」

「ん? どうした?」

「あとで昨日の宿題見せてほしいんだけど……ダメかな?」


 僕は「は……?」と声を漏らす。


「お前、昨日の宿題やってないのか?」

「あはは……」

「笑って誤魔化すな」

「えーっと、その、宿題やる時間なくて……あは、あははっ……」


 僕は「はぁ……」と深くため息を吐く。

 

「分かったよ……あとで見せてやる」

「え……?」

 

 僕の返事に篠宮はパチパチと瞬きする。

 

「いいの……?」

「ああ」

「ふふ、やっぱり、坂田くんは優しいね。顔は怖いけど」

「顔が怖い……?」

「うん、ちょっとだけ怖いかな」

「そうか……」


 僕の顔は怖いらしい。

 優衣にもたまに『顔が怖い』と言われるんだよな……。

 ちょっとだけショックだ。

 

 やっと学校に到着した。

 僕たちは校門をくぐって、靴箱に移動する。

 靴箱で上履きに履き替えていると――


「ん? なにこれ……?」


 篠宮は自分の靴箱を見て、不思議そうな表情を浮かべる。

 ん? なんだ?

 気になった僕は彼女に声をかけた。


「何かあったのか……?」

「その……靴箱の中に手紙これが入ってて」


 篠宮はそう言って、靴箱の中から一枚の手紙を取り出す。

 靴箱の中に手紙だと……?

 それって、


「これってラブレターだよな?」

「え……? そうなの?」

「そうだと思うけど……とりあえず、開けてみろよ」

「う、うん……」


 篠宮は封筒の中から一枚の手紙を取り出して、

 それを読み始める。

 しばらくして篠宮は顔を上げた。


「本当にラブレターだった……」

「おぉぉ~、そりゃ凄い」


 本当にラブレターだったのか。

 

「その手紙は誰が書いたんだ?」

「それが……どこにも名前が書いてないんだよね」

「え? そうなのか?」

「うん……」


 手紙に名前は書いてないのか。

 書き忘れたのかな?


「あっ、けど『放課後、三階の空き教室に来てください』って書いてある」


 三階の空き教室か。

 今は使われていない教室だ。

 なるほど、これを書いた男はそこで篠宮に告白するつもりなのか。

 にしても、誰がこのラブレターを書いたんだ?

 うーん、気になるな……。

 





 ◇◇◇





【篠宮朱理 視点】




 ――放課後――


 

 アタシは三階の空き教室にやってきた。


 この教室の中にラブレターを書いた人がいるのか……。

 そう思うと、なんか緊張してきた。


 アタシは緊張を解すために「すぅ、はぁ……」と深呼吸をする。

 そして、空き教室のドアを開けた。

 それと同時に一人の男が視界に入る。


 その男を見て、アタシは思わず目を丸くする。


 彼の名前は東条健とうじょうたける

 部活の先輩だ。


 どうして東条先輩がここにいるの……?

 もしかして、このラブレターを書いたのは東条先輩なのかな?

 

「えーっと、東条先輩がこのラブレターを書いたんですか?」

 

 アタシはそう言って例のラブレターを東条先輩に見せる。


「ああ、それは俺が書いた」

「……」


 これは東条先輩が書いたのか。

 

「朱理」

「は、はい、なんですか……?」

「お前のことが好きだ。俺と付き合ってくれ」

「……」


 東条先輩の告白にアタシは沈黙する。


 告白は嬉しい。

 けど、それだけだ。

 東条先輩のことは好きじゃない。

 そもそも、恋愛に興味ない。

 だから――


「ごめんなさい、あなたとは付き合えないです」

「なっ!?」


 アタシの返事に東条先輩は絶望に染まった表情を浮かべる。

 鋭い眼をアタシに向けてきた。


「なんでダメなんだよっ……?」

「アタシ、恋愛に興味ないんです。だからその……アタシのことは諦めてください」

「――けんなよ……」

「……ぇ……?」

「ふざけんなよっ!? お前は俺のもんだぁぁ!」


 東条先輩は思いっきり床を蹴って、アタシに向かってくる。

 そして、ギュッとアタシのことを抱きしめてきた。

 

 東条先輩はスカートの中に手を突っ込んで、アタシの臀部を触ってくる。

 ちょ、ちょっと!? 何してるの!?


 混乱しているアタシを無視して、東条先輩はアタシの臀部を撫で続ける。


「お前のお尻、最高だなぁ」

「ちょ、ちょっと何してるんですか!? やめてくださいっ!?」

「あぁ? やめるわけねぇだろっ!」


 東条先輩は何度もアタシのお尻を触る。

 アタシが「やめてっ!」と叫んでも止めてくれない。


 ダメだ、抵抗しても東条先輩の力には敵わない。

 自分の無力さに絶望する。


 今度はアタシの胸を触ってきた。


「お前のおっぱいっ、やわらけぇぇぇ~。これって何カップなの? ねぇねぇ何カップなの~?」

「……」

 

 東条先輩は何度もアタシの胸を堪能する。

  

「やめて……お願いだからやめてっ……」

「やめるわけねぇだろっ! ここでお前を犯してやるっ!」

「っ……」


 目頭が熱くなる。

 熱い涙が頬を伝って床に零れ落ちる。


 東条先輩がアタシの唇に顔を近づけてきた。

 アタシの唇を奪おうとしているのだ。

 嫌だ、こんな男とキスしたくない……。


 お願い、誰か助けて。

 アタシのこと助けてよっ……。


「ぐはっ……」


 突如、誰かが東条先輩の顔面を殴った。

 東条先輩は床に倒れ込む。


 東条先輩を殴った人がアタシに声をかけてきた。

 

「大丈夫か、篠宮……?」

「……ぇ……?」


 その男の子の顔を見て、アタシは目を見開く。

 なんで彼がここにいるの……?


「さ、坂田くん……?」


 そう、東条先輩を殴ったのは坂田くんだった。

 彼がアタシを助けてくれたのだ。

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