第5話 恋

 ――お昼休み――


 やっと午前の授業が終わった。

 僕はカバンの中からお弁当を取り出して、屋上に移動する。

 

「ん? あれは……」


 屋上のベンチに優衣が座っていた。

 彼女はスマホをいじりながら焼きそばパンを食べている。

 何してるんだ、アイツ……。


「優衣」


 そう声をかけると、優衣は顔を上げる。

 彼女は僕の顔を見て、不思議そうな表情を浮かべる。


「あれ、祐二くん……? なんでここにいるの?」

「それはこっちのセリフだ。こんなところで何してるんだよ?」

「見ればわかるでしょ。お昼ご飯を食べてるの」

「お前……いつもここで食べてるのか……?」

「ええ、そうよ」

「友達は?」

「友達? そんなのいるわけないでしょ」

「……」


 こいつ、友達いないのか。

 なんか泣けてきた。


「祐二くんもここで食べるつもりだったの?」

「ああ」

「なら、一緒に食べない?」

「いいのか……?」

「もちろんよ。ほら、ここに座って」

「あ、あぁ……」


 僕は優衣の隣に座る。


 お弁当の蓋を開けて、パクパクと食べ始める。

 ずっとお弁当を食べていると――


「祐二くん、もう友達できた?」


 ――優衣が話しかけてきた。


「ああ、一人だけ友達ができたぞ」

「え?」


 優衣は目を丸くする。


「もう友達できたの?」

「まぁな」

「ふーん、凄いわね……。誰と友達になったの?」

「篠宮朱理ってヤツだ」


 優衣は「え……?」と間抜けな声を出す。


「篠宮さんと仲良くなったの……?」

「ああ」

「ふーん」


 優衣がジト目で睨んでくる。

 なんで不機嫌になっているんだ……?


「もしかして、篠宮さんのこと好きなの?」

「いや、別に好きじゃないけど」

「そう、ならいいわ」


 別に篠宮のことは好きじゃない。

 ちょっとだけ気になってるけど……。

 

「お前はどうなんだ……?」

「ん? なんのこと……?」

「好きな人いるのか?」


 僕の質問に優衣は目を丸くする。


「なに、気になるの?」

「ああ、気になる。教えてくれ」

「好きな人はいないわ」


 好きな人はいないのか。

 コイツ、恋愛に興味なさそうだもんな。


「けど、気になる人はいるわ」

「え……?」


 好きな人はいないけど、気になる人はいるのか。

 一体、彼女は誰が気になっているんだ?


 気づいたら疑問を口にしていた。


「誰が気になってるんだ?」

「あなたよ」

「……は……」


 時間が止まったような感覚に襲われる。

 僕のことが気になっているだと……?

 おいおい、冗談だろ……?


「僕のことが気になってるのか……?」

「ええ、そうよ」 

「あはは……じょ、冗談だろ?」

「ええ、冗談よ」

「……」


 なんだ、冗談かよ。

 ちょっとだけ期待してしまった。

 





 ◇◇◇





 

【坂田優衣 視点】


 私の父と母は仲良しだ。

 二人が喧嘩しているところなんか見たことない。

 けど、急に二人の仲が悪化した……。

 原因は父の浮気だ。


「どうして……どうして浮気したのっ?」

「すまん……」

「っ……」


 父の謝罪に母は涙を流す。

 父は申し訳なさそうな表情で俯いていた。


 私が小学五年生の頃、父の浮気が発覚した。

 浮気相手の名前は成瀬結奈なるせゆな

 義兄――祐二くんのお母さんだ。

 

 父の浮気が発覚して、母は壊れてしまった。

 いつもリビングでたばこを吸っている。

 話しかけたら、八つ当たりしてくる。

 殴り殺されそうにもなった……。


 最低な母親だ。

 こんな人間にはなりたくない……。

 おそらく、父の浮気は母にも原因があるんだろう。


 最終的に父と母は離婚した。

 母と一緒に生活するのは嫌だったので、私は父についていった。

 私が「お父さんと一緒にいたい……」と言うと、父は驚いた表情になる。

 嬉しそうにも見えた。


 どうやら、父はお母さんのことは嫌いだけど、私のことは好きみたい。

 変な父親だ。


 ――二年後――


 私は小学校を卒業して、中学生になった。

 何回も転校を繰り返したせいで、私は中学校でボッチになってしまった。

 誰も私に話しかけてこない。


 あっ、けど、1人だけ私に話しかけてくる男の子がいるわ。

 その男の子の名前は羽島正人はねしままさと

 彼はいつも私に話しかけてくる。

 なんで私みたいな根暗に話しかけてくるんだろう?

 謎だ。


 


 ――ある日――


 

 父が話しかけてきた。


「優衣……」

「ん? なに……?」

「そのだな……」


 父は深刻な表情を浮かべていた。

 どうしたんだろう?


「父さん、再婚することになったんだ」


 どうやら、父は再婚するらしい。

 再婚相手の名前は成瀬結奈なるせゆな

 父の浮気相手だった人だ。

 再婚相手にも子供がいるらしい。

 子供の名前は成瀬祐二くん。

 私と同い年みたい。

 

 正直、どうでもいいわ……。



 ――次の日――

 

 私の家に再婚相手とその連れ子がやってきた。

 父の再婚相手が話しかけてきた。

 

「よろしくね、優衣ちゃん」

「はい、よろしくお願いします……」


 私は父の再婚相手と握手する。


 父の再婚相手は優しそうな人だった。

 しかも、美人で胸が大きい。

 けど、ちょっとだけ不気味だ。


 横に目を向けると、1人の少年と目が合った。

 中世的な顔立ちをしている。

 男の子にも見えるし、女の子にも見える。

 少しだけ顔が怖い……。

 この少年が再婚相手の子供か。


「お前、名前は……?」


 少年が話しかけてきた。


「坂田優衣よ。あなたは……?」

祐二ゆうじだ」

「そう、よろしくね、祐二くん」

「ああ……」


 私たちは手を伸ばして握手する。


 祐二くんの第一印象は『怖い』だった。

 彼は本当に顔が怖いの。

 祐二くんを見て、『性格も悪いんだろうな』と思った。

 けど、それは私の勘違いだった。


 彼は意外と優しい人だった。

 愚痴を聞いてくれる。

 宿題を見せてくれる。

 相談にも乗ってくれる。


 彼は顔が怖いだけで、私の想像以上に優しい人だった。

 そのギャップに惹かれた。


 ふと横を振り向く。

 祐二くんと目が合った。

 彼の顔が視界に入った瞬間、胸の奥がキュンってなる。

 頭が回らなくなる。

 

 私は慌てて目を逸らした。


 最近の私は変だ。

 祐二くんと一緒にいると、ドキドキする。

 いつも彼のことばっかり考えてしまう。

 

 おそらく、私は祐二くんに恋している。

 これが私の初恋だ。

 けど、祐二くんは私のことなんか好きじゃない。

 そもそも、彼は恋愛に興味なさそうなんだよね。


 はぁ……どうやったら、彼と付き合えるんだろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る