第4話 転校

 ――一年後――



 僕は小学校を卒業して、中学生になった。


 この中学校は部活動の加入が義務づけられている。

 正直、部活動なんかしたくない。

 面倒くさそうだし……。

 けど、先生が「部活に入れっ」と怒ってくる。

 仕方なく僕はテニス部に入部した。


 テニス部の練習はキツイけど、先輩は優しい。

 クラスでもたくさん友達ができて、充実な生活を送っている。


 楽しいなぁ。


 


 ◇◇◇



 ――ある日――


「ねぇ祐二」


 母が話しかけてきた。


「なんだよ……」

「私ね、再婚することになったの」

「再婚……?」


 母の言葉に小首をかしげる。

 再婚だと……?

 視線で『どういう意味だ?』と問うと、母は答えた。

 

「そのね――」


 どうやら、母は再婚するらしい。

 再婚相手の名前は坂田海さかたかい

 母の浮気相手だった人だ。

 相手にも子供がいるらしい。

 

「明日、アタシと一緒に挨拶に行くわよ」

「断る。明日は友達と遊ぶ約束をしてるんだ」

「そんなの断りなさい」

「なんだと……? お前は――」


 母は僕の言葉を遮って言った。


「あと、あの人の家に引っ越すから、学校の友達とはお別れよ」

「……ぇ……」


 僕たちは再婚相手の家に引っ越すらしい。

 そのせいで、学校の友達と別れることになった。


 なんでこうなるんだよっ……。

 クソがっ。

 




 ◇◇◇


 母の再婚相手の家にやってきた。

 三階建ての立派な家だった。

 ここに住むのか……。


 母の再婚相手が話しかけてきた。

 

「祐二くん、よろしくな」

「はい、よろしくお願いします……」


 僕は母の再婚相手と握手する。


 母の再婚相手は優しそうな人だった。

 それを知って僕は安心する。

 よかった、怖い人ではなさそうだ。


 ふと横に目を向ける。

 1人の美少女と目が合った。


 夜空を連想させる綺麗な黒髪。

 凛々しい顔立ち。

 白いワンピースを着こなしていた。

 コイツが再婚相手の子供か。


「お前、名前は……?」

坂田優衣さかたゆいよ。あなたは……?」

「祐二だ」

「そう、よろしくね、祐二くん」

「ああ……」


 僕たちは手を伸ばして握手する。

 こうして、僕に新しい父と妹ができた。

 あと、僕の苗字は『坂田』に変わった。

 


 ◇◇◇



 教室の中。

 黒板の前に担任の先生と転校生――僕がいた。


 担任の先生の横にいる僕を見て、生徒たちは不思議そうな表情を浮かべる。


「この子が転校生よ。ほら、坂田くん、挨拶して」

「は、はい……」


 僕は黒板に『坂田祐二』と名前を書いて、ゆっくりと口を開いた。


「坂田祐二です。よろしくお願いします……」


 僕の声は震えていた。

 緊張しているのだ。


 1人の生徒が口を開いた。


「坂田くん、趣味は?」

「趣味は……読書だ」


 次々と生徒たちが質問してきた。

 淡々と彼らの質問に答える。

 質問タイムが終了した後、担任の先生が話しかけてきた。


「坂田くん、あの席に座って」

「分かりました……」


 僕は先生に指示された席にゆっくりと腰を下ろす。

 今日からこの学校で勉強するのか……。 

 新しい友達できるかな?

 ちょっとだけ不安だ。

 

 

 しばらくしてチャイム音が学校中に鳴り響く。

 やっと一限目の授業が終了したのだ。

 はぁ……マジで疲れた。


 ふと横を振り向くと、

 1人の女子生徒と目が合った。


 肩まで伸びた亜麻色の髪。

 アイドル顔負けの容姿。

 中学生離れした胸にゴクリと喉を鳴らす。


 その美少女が口を開いた。

 

「坂田祐二くんだよね?」

「……ん? どうして僕の名前を知ってるんだ?」

「どうしてって……さっき自己紹介してたじゃん。プクク、坂田くんって面白いね」

「……」

「アタシは篠宮朱理しのみやあかり。よろしくね、坂田くん」

「あ、あぁ、よろしくな……」


 コイツの名前は篠宮朱理か。

 可愛いな……。

 僕が今まで出会った女性の中で一番可愛い気がする。

 ぶっちゃけ、タイプだ。

 彼氏いるのかな?


「坂田くんって前の学校でも部活してたの?」

「ん? ああ……してたぞ」

「何部だったの?」

「テニス部だ」

「へぇ〜、テニス部か。似合うね」

「篠宮は部活してるのか?」

「うん、アタシもしてるよ。何部だと思う?」

「吹奏楽部だろ」

「ブッブー、ハズレです。アタシはバスケ部だよ」


 篠宮は女子バスケ部に所属しているのか。

 絶対に吹奏楽部だと思ったんだけどなぁ……。

 珍しく僕の予想は外れていた。


「あっ、そうだ。連絡先交換しようよ」


 篠宮はそう言って鞄の中からスマホを取り出す。

 僕は彼女のスマホを見て、小首をかしげる。

 

「この学校はスマホの持ち込みを禁止してないのか?」

「もちろん禁止してるよ」

「じゃあなんでスマホを持ち込んでるんだよ……?」

「ふふ、先生にバレなきゃ大丈夫だよ」

「犯罪者みたいな考え方だな」

「もう酷いこと言わないでよっ」


 篠宮はそう言ってプクーッと頬を膨らませる。 

 なにそれ、可愛い……。


「あっ、もしかしてスマホ持って来てない……?」

「いや、一応、持って来てるぞ」

「じゃあ連絡先交換しようよ。ね?」

「お、おう……」


 僕はカバンの中からスマホを取り出して、篠宮と連絡先を交換する。


 正直、こういう距離が近い女は苦手だ。

 『こいつ、俺のこと好きなんじゃね?』と勘違いしそうになる。

 

「これからよろしくね、坂田くんっ」

「ああ、よろしくな」


 まだ転校初日なのに友達ができた。

 しかも、相手は超がつくほどの美少女だ。




 ◇◇◇





 ――放課後――


 やっと午後の授業が終わった。


 僕は教科書と筆記用具を鞄の中に仕舞って、教室を立ち去る。


 しばらくして自宅に到着した。

 「ただいま」と言っても返事がない。

 誰も家にいないのかな……?


 僕は自室に移動する。

 僕の部屋には机、椅子、ベッドが見受けられた。

 机の上にはパソコンが置いてある。

 ここが僕の新しい部屋だ。


 突如、誰かがコンコンと部屋のドアをノックしてきた。

 ん? 誰だ……?


 僕は椅子から立ち上がって、自室のドアを開ける。

 それと同時に坂田優衣の姿が視界に入った。


「ねぇ祐二くん」


 優衣が話しかけてきた。


「ん? なんだよ……?」

「アナタってゲーム好き?」


 優衣の言葉に「は……」と間抜けな声を出す。

 なんだこの質問は……。


「それとも嫌い?」

「いや、嫌いではないけど」

「そう」


 僕の返事に優衣は嬉しそうに微笑む。


「よかったら、私と一緒にゲームしない?」

「今から……?」

「ええ、今から」

「別にいいけど」

「え? ほんと……?」

「ああ、本当だ」

「ふふ、ありがとう」


 優衣は優しい笑みを浮かべる。

 彼女が美しくて、思わず目を逸らしてしまった。

 コイツ、可愛いなぁ……。


「どこでするんだ?」

「私の部屋でしましょうか」

「わかったよ」


 僕たちは優衣の部屋に移動する。 


 優衣の部屋は女の子っぽくなかった。

 机の上にはゲーミングPCがある。

 棚には大量の漫画とゲームソフトが見受けられた。

 所謂、オタク部屋ってヤツだな。


「お前ってオタクなのか……?」

「ええ、そうよ。ドン引きした?」

「いや、親近感が湧いたよ」

「ふふ、それはよかったわ」


 優衣はテレビとゲーム機を起動して、床に座る。

 僕も彼女の隣に座った。


 優衣からフルーツのような甘い香りがする。

 良い香りだ……シャンプーの匂いかな?


「はい、これ」

 

 優衣がゲームのコントローラーを渡してきた。

 僕はゲームのコントローラーを受け取って、テレビの画面に集中する。


 現在、僕たちがプレイしているのは『モンスター・ファンタジー』というゲームだ。

 『モンスター・ファンタジー』は魔法を使って強いモンスターを倒すゲームだ。

 

 ――30分後――


 やっと僕たちは強力なモンスターを討伐した。


「やったわねっ!」

「ああっ」


 僕たちはハイタッチする。

 このゲームを通じて僕たちは仲良くなった。


 にしても、優衣がゲームオタクだったとはな。

 ちょっとだけビックリした。

 それと同時に『こいつとは仲良くなれそうだ』と思った。

 僕もゲームとアニメは好きだからな。

 

「ねぇ。もう一回、さっきのモンスターを一緒に倒さない?」

「え? あっ、うん、いいよ」

「ふふ、ありがとう」


 義妹――優衣とは上手くやれそうだ。

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