第3話 母親

【祐二 視点】



  ――一年後――


 僕は小学6年生になった。

 今は父と別れて、母さんと一緒に生活している。

 もう父に会えない。

 そう思った瞬間、バカみたいに泣いてしまう。


 どうして父は僕を捨てたんだ?

 あの人は僕のことが嫌いなのか……?

 ダメだ、考えても分からない。

 クソっ、どうしてこうなった。

 



 ◇◇◇




 僕には好きな人がいる。

 好きな人の名前は佐藤綾さとうあや

 綾とは幼稚園の頃から仲良しなんだ。


 僕は小学6年生の頃、綾に告白した。


「あなたのことが好きですっ! 僕と付き合ってくださいっ!」

「……」


 僕の告白に綾は目を見開く。

 驚いている様子だった。

 しばらくして綾は口を開いた。


「ごめん、祐二とは付き合えない……」

「……ぇ……」


 綾に振られた。

 その事実にショックを受ける。


 勝手に綾の好きな人は僕だと思っていた。

 けど、違った。

 僕の勘違いだった。


「なんでダメなんだよ……?」

「なんでって……祐二と一緒にいても楽しくないもん」

「っ……」


 綾の言葉にギュッと胸が締め付けられる。

 僕と一緒にいても楽しくないのか。

 なんだよそれ……。


 こうして人生初の告白は失敗に終わった。

 

 

 ――次の日――


 綾に告白したことが学校中に広まっていた。

 おそらく、綾が『昨日、祐二に告白されたんだ〜』と友達に話したんだろう。

 アイツは口が軽いからなぁ……。

 

「おい、祐二」


 クラスメイトが話しかけてきた。


「なんだよ?」

「お前、綾に振られたの?」


 クラスメイトの言葉にビクッと体が震える。

 動揺している僕を見て、クラスメイトは笑う。


「マジで振られたのかよ。だせぇな〜」

「……」


 色んな生徒が「だっせえぇ〜」と僕を馬鹿にしてきた。

 クソっ、告白なんかしなかったらよかった……。

 もう二度と告白なんかしないぞっ。

 そう心に決めた。


 ◇◇◇

 



 ――放課後――

 

 やっと午後の授業が終わった。


 僕は教室を後にして、自宅に向かう。


 ――10分後――


 自宅に到着した。

 僕は玄関で靴を脱いでいると――

 突如、寝室からギシギシとベッドの軋む音が聞こえてきた。

 なんだこの音は……?

 

「んっんっ……」


 今度は女性の切ない声が聞こえてきた。

 

(これは母さんの声か?)


 嫌な予感がする……。


 僕はゆっくりと寝室に向かう。

 慎重に寝室のドアを開けて、中を覗いた。

 

「え……?」


 寝室の中を見て、頭の中が真っ白になる。

 母と謎の男が肌を重ね合っていた。

 2人とも裸だ。


 当時の僕は性行為の意味を知らなかった。

 だから、2人が何をしているのか分からない。

 

(裸で何してるんだ……?)

 

 僕はボーッと母と謎の男の行為を眺める。

 しばらくして母と目が合った。

 僕の顔を見て、母は「っ……」と声にもならない声を上げる。

 信じられないって顔をしている。


「祐二っ! 何してるの!?」

「っ……」


 母さんの怒鳴り声にビビってしまう。

 ガタガタと足が震える。


「あっちに行ってなさい!!」

「……」

「何してるの!! 早く出て行けっ!!」

「っ……」


 母の言葉に従い、僕は荷物を置いて外に出る。

 ずっと街の中を走り続ける。


 しばらくして近くの公園に到着した。

 僕は公園のベンチに座って考え込む。


 なんで僕は母に怒られたんだ?

 そもそも、母とあの謎の男は何をしていたんだ?

 クソっ、訳がわからない……。



 ◇◇◇



 ――夜――


 もう夜だ。

 冷たい風が肌に当たる。

 寒いなぁ……。


 公園の時計に目を向けると、『23時14分』ということが分かった。

 そろそろ家に帰ろうかな?

 けど、また母に怒られるかもしれない。

 どうすればいいんだ……?


 ずっと悩んでいると――


「君、そんなところで何してるんだ?」


 ――警察が話しかけてきた。

 こっちに近づいてくる警察を見て、僕は混乱する。


 なんで警察が話しかけてきたんだ?

 クソっ、どうなってんだよ……。

 

 警察が住所、家の電話番号、学校名を教えろ、と言ってきた。

 僕は大人しく住所、電話番号、学校名を教えた。

 しばらくして公園に母がやってきた。


 警察は母に注意する。

 警察に怒られている母を見て、僕は「情けないな……」と思った。



 ◇◇◇


 家に戻ってきた。

 リビングにパシンと乾いた音が鳴る。

 母が僕の頬にビンタしたのだ。


「何するんだよっ!?」


 僕はそう言って、母を睨む。


「祐二っ! 今までどこにいたのっ!! あなたのせいで警察に怒られたじゃないっ!?」


 また母がビンタしてきた。

 それと同時に激しい痛みが走る。

 僕が「やめてくれ!?」と言っても、母は殴るのをやめない。


 この出来事をきっかけに僕は母のことが大嫌いになった。

 母の血が流れていると思うと、死にたくなる。


 なんで僕は生きているんだ……。

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