第56話 勿忘草
「私を忘れないでくれ!」
騎士はそう言って、勿忘草を河辺に投げた。
本当は、彼女がこの花を受けとった時微笑む顔が見たかった。けれど川に流されてしまった以上もう出来ない。
流されたのがこの花で私じゃなかったら良かったのに。
霞んでいく意識の中、最期に脳裏に浮かんだのは、彼女の愛らしい笑顔だった。
「…っていう話が残ってるから、この花は勿忘草って言うんだって。花言葉は私を忘れないで、真の愛。素敵だけれど切ないね。」
花屋さんに立ち寄った私は一緒にいる友人にそう説明した。友人は興味無さそうに私の話を聞いていた。
花言葉、素敵だと思うんだけどなぁ。
隠された花言葉というものが存在する。表向きの花言葉ではなく、人知れずの花言葉。
例えば勿忘草には他に真実の友情という花言葉がある。
そんな隠れた花言葉を見つけて撮った写真の題名にするのが好きだ。
紫蘭という花を知っているだろうか。5月から6月にかけて紫色の花弁を咲かせる花。花言葉はあなたを忘れない、変わらぬ愛。けれど実は隠れた花言葉も持ち合わせている。不吉な予感、薄れゆく愛。
表向きの花言葉だけで好きな人に送ったりすると実は反対言葉の意味を持ち合わせていることもある。
花は人間と同じだな、と思う時がある。
表向きはとても綺麗な顔を見せる癖に、内側で思うところがあるのだろう。
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