第39話 閉ざされた日記
日記を付けるのが旅行後の日課だった。
どこのお店が美味しかったとか、どこから見た景色が綺麗だったとか。
そしてもう一度行く時に気に入った場所には行って、新しいところを開拓したらまた日記に追加していく。
一緒に旅行に行った人がいたら何を話したのが印象的だったとか、その人が好きそうだったこととかも見つけて忘れないように日記に記録していた。
「マメだね〜、私だったらそんなことできないよ」
「でもさ、私忘れっぽいからさ笑覚えておきたいのに覚えていられない人だからこうやって書いておくの。そしたら忘れたくても絶対に忘れないでしょ。」
「忘れたいって思うのに忘れられないの?それはしんどいと思うよ」
「そうかな、そんなに忘れたいって思うことなんてきっと人生の中でないよ笑どんな事でも私は覚えておきたい」
高校生のときだっただろうか、幼なじみに言われた言葉がまさか現実になるなんて思ってなかった。
しかもこんなに早く。
全部忘れてしまいたかった。全部夢であって欲しいと願った。事実も感情も何もかも破り捨ててしまいたい
いつかもし幼なじみが言うように忘れたいことがあるのなら、その部分だけを破り捨ててしまえばいい、そう思っていたのにどうしても破り捨てることが出来なかった。こんなことになるなら日記なんてつけなければよかったと過去の自分を恨んだ。
目につく度に嫌になる。思い出してしまってどうしようもなく苦しくなるのに、部屋の外に追い出すことも燃やすことも破ることが出来なかった。
あれから少し時がたった。
旅行に行くことはあったけれど、ずっと日記は閉ざされたまま部屋のすみにおかれている。
荒れ狂い自分でも手の付けようのなかった感情は薬によって幾分か収まった。時たまどうしようもなくなる時はあるけれど、前みたいに全く手をつけられないという訳ではなくなった。
そのページだけ、破り捨てればいいのに。
燃やしてしまえばいいのに、それが出来ない。日記帳を開いてしまえば思い出してしまいそうで、怖くて出来ない。けれど表紙を見るだけでも不思議なことに思い出してしまう。
いっその事日記帳を捨ててしまおうと思った。
それも出来なかった。
高校生の死にたくて消えたくてしょうがない時期、弾丸で大阪で行って出会ったおばちゃんのこととか、覚えていることだけじゃなくて忘れてしまった感情も全部そこに詰まってるから
開くことも読み返すことも無く、紐で縛って絶対に開かないようにして今でも部屋の隅に置いてある。
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