第37話 安心と不安

「炒飯作ってくるけど、どうするテイクアウトする?」

「する!おにぎりにして欲しいな帰り運転しながら食べて帰ろうと思って」

どうしても一緒にドライブをしてみたかった私は車で送ることを提案した。

今日は彼女が夜ご飯を作る日だったらしく、得意料理の炒飯を作るとの事だった。私も1度食べた事があるが、私の作る炒飯とは比べ物にならないくらい美味い。

「どうしよう、家上がらない方がいいよね、ご家族いると思うし。」

「そうだね〜、まだ帰ってきてないと思うけど、君1回家上がったらなかなか帰らなそう笑」

「それは否定できないなぁ、ちょっと疲れちゃったから車で休んでいてもいい?」

「いいよいいよ、そうしな。出来たら持ってくるね」

彼女が降りたのを確認してエンジンをきると10年に一度の寒波が訪れていることもあり急に車内が冷え込んだ。ずっと隣にあった温もりが無くなってしまったから寒い訳では無い。きっと。

「お待たせ。」

何分経ったのだろう、彼女は頬を赤らめながら手に温かい炒飯のおにぎりを持って助手席に戻ってきた。

「え、何どうしたの、なんで泣いてるの笑大丈夫?」

「大丈夫、あれ、なんでだろうね」

ひとりでいるのが不安だった。

うとうととする意識の中、彼女が戻ってきてくれたと思ってふと目を覚ますといなかった、それを何度も繰り返していた

もう彼女は戻ってきてはくれないのでは無いかと思った。

ひとりで一緒に来た道のりを帰るのが、どうしようもなく怖かった。寂しいと思ってしまった。

このままずっと時間が続けばいいのに続かない。

ずっと一緒にいたいのに叶わない。

会いたいと思えば会える距離ではある方だと思うけれど、それでもすぐに会える距離では無い。

まだ帰路に着くわけではないのに、どうしようもなく悲しくて寂しかった。

「…おにぎり食べる」

そう言うと彼女はラップを剥いて差し出してくれた。

おにぎりと言うよりも包んできたという方が正解なのか、彼女の作る炒飯はパラパラだからなのか分からないけれど涙と一緒に膝の上に落ちた。


ほんの少し昔に、逆の、彼女の立場だったことがあった。

別れ際運転席に座る君が泣きながらハンドルを握っているのは、ただ次に会えるのが何日も先で途方のない未来だからだとしか思えなかった。過去の私は理解したつもりで理解することが出来ていなかったことを痛感した。

初めて自分が運転席に座って、誰かを送り届けるということをして味わう感情があった。

まだ蒸し暑くて太陽の日差しが眩しくて、海がキラキラと輝く

とある夏の日の話だ。

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