第34話 手袋
手ぶくろ
彼女は貧血持ちで更に末端冷え性を持っているから、何時でも手先が冷えきっているのだけれど格別冬は冷たくなる。
かく言う私の手は何時でもポカポカと暖かいので、バスをおりてから学校に向かうまでの坂道と、学校からバス停までの坂道は手を繋いで登校するのが日常になっていた。
私はバス登校で彼女は自転車通学。毎朝自転車に乗るために手袋をつけているけれど、わざわざ手袋を外してこっちの方が暖かいからと微笑みながら私の手を取る。
「ごめんね、一緒に登校できるのもあと1月になってしまった。君は私と同じ道を歩んじゃダメだよ、ちゃんと進級して私より1年先輩看護師になって。一緒に進級出来なくてごめん」
今年の秋、心の中に大きな嵐を飼った私は体調が優れず、登校がおもうようにできなかった。欠席日数がかさみ、進級が難しいと担任に伝えられた日の帰り、初めて彼女に伝えた。
涙をうっすらと浮かべた瞳を隠すように俯いて何も答えてくれなかった。
それでも繋いだ手はぎゅっと握られたままで、
そんな彼女を見ているのがどうしようもなく辛かった。
来年、寒い冬のこの時期彼女は隣の県に泊まり込みで実習に行く。私はきっと座学を受けるためにこの坂を一人で登るのだろう。
再来年、今度は私が隣の県に泊まり込みで実習をしに行く。彼女はこの時期国試勉強に全力をつぎ込む。彼女が看護師として働き出す年に私は看護師になるための酷使を受ける。
だから一緒に授業を受けるのも一緒に登校することが出来るのも、今年で最後。
「…手袋あるから、大丈夫だよ。手袋をしていてもまた冷えてしまうかもしれないからその時は、」
そう彼女は別れ際ぽつりと呟いた。
続きは強い風が吹いて聞き取ることができなかった。
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