第19話 ありがとうとごめんなさい
「孫の姿を見せることが出来なくてごめんなさい」
私は両親に初めて頭を下げた。
男女が恋に堕ちて幸せになると定義付けたのは、アダムとイブが禁断の果実を食べたことから由来しているのだろうか
それとも、雄と雌の生存本能によるものから由来しているのだろうか
皆性別で恋愛対象が決まるという。同性のことは好きにならない人が多い。
けれど私は、同性の子しか恋愛対象に入らなかった。どうしても男の子を好きにはなれなかった。
いつだって恋の感情が芽生えるのは女の子で。
「君が男の子だったら好きになって幸せにして貰えてたのかな」と、よく言われる。
確かに身長もそこそこある、女の子らしい性格というより男の子っぽい性格で、女の子を幸せにできる自信は誰よりもある。ほんと、男だったらモテてたんだろうな。
ただ生まれついた性格が女だというだけで女の子からモテることは無い。
だから男の子に生まれたかった。
20歳の誕生日を迎えた時、家族一同で会食をする機会があった。
「お前はいつになったら彼氏ができるんだ…早く孫の顔がみたい」
そう親戚に言われる度「そのうち作りますよ〜」と笑い返していたが、今日は言おうと決めていたことがあった。
「私は女性のことが好きです。男性と結婚する気はありません。皆さんに孫の姿を見せることが出来ません。ごめんなさい。」
ワイワイしていた雰囲気が、一気に崩れた。
「な、何を言っているんだ!?お前女だろう、ふざけてるのか!」
「女性同士の恋愛なんて成立しないでしょう。」
「お前をここまで育ててきた両親に申し訳ないと思わないのか!」
やっぱり、まだ世間の目は厳しかった。
ただ好きになった人と幸せになりたいだけなのに、それすら許してくれないのか。
腐った世の中でもがきながら生きていくしかない、それは分かっている
けれど好きでもない男の人と結婚させられるくらいなら死んだ方がマシだった。
だからカミングアウトをした。けれどそれも無意味だったかもしれない、そう思った時だった。
「僕は別に、娘が幸せならそれでいいと思ってますよ」
ざわめいていた空気が一瞬で凪いだ。
口を開いたのは、父だった。
「小さい時からこの子を見てきて、ああきっとこの子が彼氏をうちに連れてくることはないんだなと思ってました
好きになった人がいる、幸せになりたい人がいる。それでいいじゃないですか。」
「私も、それでいいと思いますよ。幸せになりなさい。いつか可愛い子をうちに連れてきてね」
親戚一同の中で唯一味方をしてくれたのは、1番理解してくれなさそうな両親だった。
「…ありがとう。孫の姿を、見せられなくてごめんなさい」
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