第17話「冬の始まり」

この部屋にいる限り、季節は無いから冬は来ないはずなのに時折凍てつくような寒さが訪れることがある

強制終了した冬だが、また訪れ始めているのかもしれない。それが春を迎えるためなのか、はたまた神の気まぐれなのかは分からない。


時折この部屋に来てから涙が何故か止まらないことがあった。人前でも何故か止まらなくて、学校にいて授業を受けてる時も何故か涙が溢れて止まらなくなり抜け出すことが多々ある

誰かと出かけても、1人になりたいことが多くてこの部屋に帰ってくることもある

一人でいると塞ぎ込んでしまうのは明確なのに、一人でいるのが嫌だから誰かといるのに一緒にいたくないと思ってしまう、人前では絶対に泣きたくないのに、思うように感情をコントロール出来なくなっていた自分に苛立ちを抱えてどんどん制御が効かなくなる悪循環

どうしたら止められるのか分からなくなって途方に暮れていた。


冬なんて、一生来なくていいのに

ずっと春や夏、秋でいることは難しいのはわかってる

それでも冬のはじまりが来ないことを願うしか無かった

冬は1番好きな季節で、来るのを待ち望んでいたのに

やっと冬の始まりが訪れたと思ったら拒んでいるなんて矛盾してるね


いつの日か、秋風に問いかけたことがあった。

「どの選択をすればいいのか分からないの。自分がしたいことはきっと心の中にあるんだけど、それを言葉にできない」

「言葉にできないの?それとも、言葉にしたくないの?ひとつの言葉でもその人によって意味合いって変わってくるものだよ。教えてもらったじゃないか、だれかと一緒に花を咲かせることはお互いの愛情が無いとできない事だけれど、一緒に花を咲かせる準備をすることは出来る。ずっとそばで待ってくれている人がいる。…過去のことを忘れられないのかい?」

「忘れたいけど、忘れられない、思い出すと苦しくなることもあるけれどそれだけ幸せだったからで、大切に取っておきたい。けれどこの部屋を出ていったら全部消えてしまいそうで怖い」

「きっと1年後でも覚えているよ。5年後も、きっと覚えているはず。冬が終わった日も始まった日も懐かしく思えるよ。思い出は時が経つ事にきっと段々と忘れてしまうだろうけど、それでも君の中で思い出は生き続ける」

「…うん、そうだよね」


「ねえ秋風。何時になったら私は前のような自分に戻れる?」

「それは君次第だよ。とにかく今はゆっくり休んだ方がいいよ」


冬はもう終わったと思っていた

けれど違ったのかもしれない

冬が来ないと、季節なんてここには存在しないと思っていたけれどほんとうの冬がここから始まる気がした

ただ寒いだけの冬ではなくて、少しの温かさを孕んだ冬が、訪れようとしてるのかもしれない。

凍てつくような風を巻き起こす冬、けれど次に進めと言っているのかもしれない

誰にも冬の本心なんて分からない

冬にしかわからない。

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