第11話 キャンドル

キャンドルを人に分け与え共存するのは青色のキャンドルと赤色のキャンドル同士でないといけない。

これが現代における日本のルール。

大多数の人が赤色か青色のキャンドルを持っている。けれど中には違う人もいる

私のように、青色赤色関係なく分けあたいと思う人に分け与え共存したいと思う人もいるし、青と青同志、赤と赤同志の人と共存したい人もいる。

キャンドルの色も、青と赤だけでなく紫や黄色、白など様々な色で溢れているのに。

自分のキャンドルの色がわからない人だっているのに。

何故赤と青どうしでしか分け与えることを許してくれないのだろう


夏の暑さがうだる日、涼しいクーラーが効いた部屋で私はスマホを開いていた。

「ももちゃん、また怪我したの?」

「うん、でもこんなのか擦り傷だよ〜痛くもないし」

「でもすごい血、それに痣になってる」

「親に殴られ慣れてるから大丈夫だよ笑ゆきちゃん心配症だなぁ」

いつもどこかに怪我をしている彼と出会ったのは初夏

初めましての時は本当に怖かった。大型犬の一匹狼、痛みも優しさも何も知らない、孤高に立つ、そんな感じだった。でも本当は誰よりも優しさを持ち、人のつらさを理解することができる子。それだけ傷つけられて育ってきた子だった。

養育環境が非常に悪く、虐待される日々。家に帰りたくないからいつも街で男の人に声をかけて泊めてもらうと話していた。

無知だった私はそれがどれだけ危険なことか、どう言っ

た意味合いを持っているのか全く知らなかった。


「親がももくんとかももって呼ぶの。だから絶対そう呼ばないで」

「みんなからはなんて呼ばれてるの?」

「…」

「わかった、じゃあ私はももちゃんって呼ぶね」

「そんなの初めてなんだけど笑」


「死にたい時は死んでいいよ。止めない。睡眠薬飲んで堕ちるまでずっと頭撫でてあげる、ここまでよく生きたね、って。眠りについたら、心臓をひとつき刺して、そこにまっ白の花をさすの」とみんなに話していたのをよく覚えている。

彼も私も死にたがっていた。

お互いまだ17年しか生きていないのに、現実に絶望しか抱けなかった。


そんな彼は秋の訪れと同時に1人の男の人とであった。

「温かいご飯出されて、無言でじっと食べろって圧かけてくるの。俺お腹空いてないから要らないって言ってもだめ、動こうとしても座らせて食べるまで動けないの。夜もそう、ベッド連れてかれて寝るまで一緒。俺不眠だから眠くならねえし朝まで起きてるんだけど、絶対白さんも起きてるの」

「ええすごい人だね、人間なんだよね笑

良かった今は安全で暖かな場所にいるんだね。」

「うん」

「白さんはどんな人?」

「マスクしてるの、だからあの人の顔を知らない。ずっと一緒にいるのにご飯食べてるところも水飲んでるところも見ない、寝てるところも」

「ロボットみたいだね笑」


白さんと出会った彼は、希望と幸せを手にいれていった。暖かいことを知って言った。それと同時にどんどん壊れていく彼を見ているのが辛かった。

「俺白さんのことが好き。夢に出てくるの、俺汚い人間だからさ、もう綺麗じゃないから、白さんのこと好きじゃダメなのに」

「私も、綺麗な人間じゃないよ。でも人を愛するのって自由なんだよ」

「夢を見るんだ、毎日。違う人とホテル行ってた頃の俺が今の俺に向かって言ってくるの、穢れてるから白を黒に染めるだけだって、お前は死ぬべき人間だろって。」

「違うももちゃん、ももちゃんは汚くないよ。そんなこと言ったら私も、」

「ゆきちゃんは綺麗な人だよ。」


秋が濃くなるにつれて、あれだけ強かった彼の灯火はどんどん弱くなっていった。

「ねえゆきちゃん、キャンドルの色が一緒なのに、共存しちゃいけないっていうのに、それでも好きでいいのかな」

「世間はだめっていうけど、ももちゃんはももちゃんでしょ。私も私。皆それぞれキャンドルの形も色も違っていいんだよ。一緒でいなきゃ行けないなんてそんなのおかしいよ。」

「そうだよね、」


とある冬の日。関東では珍しく雪が降った日。

聖夜の夜、ホワイトクリスマスなんて言われる日。

沢山のキャンドルがお互いの火を共有する日。

彼は自分の火で自分のキャンドルを燃やしきった。


すごく綺麗なキャンドルだった。少し桃色が混ざった青のキャンドルの持ち主だった。

もうお話をすることも出来ないけれど、きっとどこかでどうにかして自分のキャンドルを灯し続けていることを願いながら、私も自分のキャンドルを灯し続ける。

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