第7話「秋風」
恋をしていた。
中学三年生の時、親戚の子を好きになってしまった。
付き合ったはいいものの、親戚同士だから薄い血の繋がりはある建前上家族にバレるなんて以ての外で彼氏が出来たなんていえなかった。中学生、ましてや受験生だったこともあり会うことも出来なくて、隣の県だったけれど実質遠距離恋愛状態だった。
大学生になったら私の住んでる県に来ると思うからその時は親を説得して一緒に暮らそう、なんて話していた。だからそれまでは会うの我慢しようね、と。
秋も終わりが近づこうとしていた頃、「クラスの女子から遊びに誘われた、2人きりじゃなくて男子女子合わせて4人なんだけど行ってきていい?」と言われた。
不安性でかまってちゃんの自覚はある。それに加えて束縛女子になんて絶対なりたくなかった私は、「青春だね笑楽しんできてねお話待ってる!」と返事をした。男女4人で遊ぶことはよくあることだと思うし大丈夫だ、と自分に言い聞かせていた。
彼はその日の夜電話をかけてきて、「楽しかった、途中誘ってきた女の子と2人きりになっちゃったんだけど偶然だから。でもごめん。」と話をしてきた。
楽しかったならそれでいい、そう本気で思ったのと同時に、彼と同じ学校だったら私もその女の子みたいに毎日顔を合わせていられたのかとふと考えると止まらなかった。私たちが一緒になるとしたら大学だけど、きっと私は専門学校に進学して頭のいい彼は大学に行くだろうし、学力的に一緒の学校で一緒に授業は受けられない。その女の子が羨ましかった。
その後すぐ、お互いの両親に付き合ってることがバレてしまった。だから私たちは別れを決意した。
それからも連絡は少しだったけど取り続けていた。
別れてから1週間たっただろうか、珍しく雪が降って辺りが静寂に包まれた日、電話しようとメッセージが飛んできた。クリスマスも目前、何事かと思ったら彼から「好きな子ができた。」と言われた。
ショックだった。本当にショックだった。
人生でいちばん悲しい出来事だった。
こんなに人って早く好きな人ができるものなのだろうか
私はまだ彼のことが好きなのに、そこからなぜ好きな人の恋バナをきいてしかもアドバイスなんてしちゃってるんだ?と自問自答する生活が始まった。
私はチョコパイをひとつ食べ切ることが出来ない。甘いのが苦手だからだ。彼は無類の甘党だった。
「半分こしようね」という約束を彼はその子と叶えたらしい。
私はと言うと、あまりその時のことを覚えていない。
荒れていたのは覚えている。
彼のことが忘れたくても忘れられなかった私は、恋という感情が分からなくて人の恋バナをきいて相談に乗ることで一人でいることの寂しさを紛らわしていた。
こんな思いはもうしたくない、好きな人に好きな人ができるって、自分のことを好きでいてくれた人の恋バナを聴くなんて経験者にしか分からない感情がある。
まだそんなに長く生きていないが、好きな人が他の人を好きになって別れた経験が同世代の人達の中でいちばん多い自信がある。そんなこともあって男の人に敵意の対象を向けることで自分を守り、男性を受け付けられない人間になってしまった。
もう自分は恋をしない。木枯らし舞う中親友に相談した直後、暖かく優しい春が私の元に訪れた。
今度は物理的に遠距離恋愛だった。
付き合ってるときはとっても幸せだった、毎日連絡をとって、こんなに人のことを好きになったことは無いと思える恋をした。中3の時のあの恋を上回ることが出来るなんて思いもしなかった。
このままずっと一緒にいたいと本気で思ったし本気で願っていた。だからこそ中3の時のような失敗は絶対にしないと、決めていた。
ある日、彼から「高校の同級生と遊んでくる」と言われた。楽しそうに話す彼に、私も近距離だったらこんな感じで遊べていたのかなとおもっだけれど、次会える時のことを楽しみにしながら過ごしていた。
その時感じた前と同じ展開になるのではないかという不安は心の外に出さないように鍵を閉めた。
しかし、突然訪れた秋風は鍵を開けてしまった。不安は現実にと変わってしまった。
秋風が私の元を訪れてまもなく彼をその女の子のところへと連れて行ってしまった。
冷たい秋風が1人になった私の頬を同情するようにそっと撫でてくれる。
秋は嫌いだ。いつだって私の大好きな人を連れ去ってしまう。
冬なんて来なければいいのに。冬は冷たくてそれでいて寂しい。辛い時期。もう一生冬なんて来て欲しくなかった。
人生ループしているのかと思うくらい類似した展開を迎えている。まるで四季の訪れのような恋。
春が来て夏をすごしても秋風と共に去って冬が来てしまう、毎回私一人だけ取り残して。
今でもまだ、チョコパイの約束はいつか果たせるのではないかと小さな本当に小さな蕾をポッケから出せないでいる、満点の星空を眺めるという約束も花開いてくれるのではないかと期待してしまう。こんな自分も大嫌い。
なんで、なんでみんな秋風は春の元に連れていくのに私は連れて行ってくれないの。冬が迎え入れていることをここで待っていなければいけないの。
蕾は硬く閉じて咲かないまま、どんどんポッケに溜まっていくのだ。
ねえ秋風さん
どうして鍵を開けて彼と共に去ってしまったの
私にも春をまた見つけることってできるのかな。
蕾が花開くことはあるのだろうか。
秋と共に冬の訪れを予感させるような冷たく、でもどこか寄り添ってくれるような風がそっと包み始めた。
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