破・後編 目星
「では、佐野さん。今日一日の動きを、教えて頂いても。」
一人目は、漫家三六こと、佐野
「今日は、正午頃からこの
終始ニヤ付きながら、右手で頬杖を作り、佐野は答える。
「証言をしてくれる人は?」
「近くの喫茶店で昼食べたんで、聞けば、わかるかと。それに、俺が着く頃には、前座が何人か既にいたんで。」
「わかりました。」
次は円禄こと、
「貴方は、円游さん。いや、
「えぇ。
「そうですか、では、道觀さんと岸柳さんは、何を食べましたか?」
すると、岸柳の様子が一変する。
「鰒と、俺は海鮮丼でしたけどぉ。あのぉ、まさか、店疑ってますぅ?正気ですかぁ?昔から、通っていたあの店で?今更、毒の処理を怠っていましたって?フザケんな!」
激しく貧乏ゆすりしながら、頭を
「こっちだって、真剣なんです。では、今日一日、何していました?」
体を壁に向かわせて、頭を掻いている右手越しにこちらに視線を送りながら、仕方なさそうに答える。
「駅で父と集合し、さっきの店に行って、そのまま傘幌亭に来ました。」
「それを証明する人は?」
「死人に口なしですよ…」
「そうですか。」
次に、馬田
「今日一日、ここに来るまでは何を?」
「昼頃迄は寝とりました。昨日は
「頭は、つまり、
「ええ、そうです。何でアイツは飲んでんのに、8時に起きれんのや…」
「越後屋さんのことは、どう思っていましたか?」
「そやなぁ、まあ、狸親父やな。」
「と言うと?」
「あの爺さん、普段は只の噺が上手い爺さんや。せやけど、裏じゃ、ぎょうさん汚い事しとったらしいで。殺されとうないから、詳しくは知らんがな。」
次いて、落語家の頭
「高砂さん、昨日今日は何をしていましたか?」
「昨日は馬田と深夜くらい迄飲んでました。今日は起きたら、ジョギング行って、歯医者行って、1時頃に傘幌亭に。」
「そうですか。馬田さんは昼頃まで寝ていた程ですが、お酒強いんですね。」
斜め上の返事に面喰らった様で、
「え。えぇ、まあ、強い方かと…」
そして、清時
「清時さん、今は金属加工会社にお勤めなんですよね。」
「ええ、そうですが…」
さっさと帰りたそうだ。
「貴方は越後屋さんに破門を言い渡されましたね?何故ですか?」
そういうのを聞くのはどうかと思ったが、案の上、
「あぁ?」
「お願いです。」
「俺を疑ってんのか?」
「皆さんを平等に疑っています。」
清時が背中に大袈裟に
「俺さ、噺家目指す前さ、ちょっとヤンチャしててさ。悪い仲間とかいたのよ。3年ぐらい前かな、俺が二つ目なりたてだったから。一人さ、金に困ってた奴がさ、俺に
「じゃあ、今日寄席見に来たのは…」
「円禄兄さんが目当てさ。成長したね。」
気付いたら、清時は前屈みになって、穏やかな表情になっていた…
「山寺さん、私、犯人の目星がつきました。」
「ほう。」
私は耳打ちする。
「やはりですか。」
「え?」
「態度、わかりやすかったですもんね。もしかしたら、二上さん、いらなかったかも。」
少しむっとするが、まあ良い。
「で、逮捕する程の証拠はあるんですか?」
「そこが問題です。」
「あ、じゃあこういうのは?」
再び耳打ちする。
「丁度、容疑者の持物はまだ預っています。」
「完璧じゃあないですか。」
「だが、成功率は100じゃないでしょう…」
私は口角を上げる。
「心理学者の腕の見せ所です。」
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