破・前編 杞憂
私は高座へ上ると、円游の体を揺らした。すると、すっと私の掌と彼の肩は離れていった。そのまま、彼の体は高座の上に倒れた。やばい、と思った私は咄嗟に救急車を呼び、袖の方で
「
清時と呼ばれた男性は、明らかに不快そうに、眉目に皺を寄せて、辺りを睨むように刑事の方を振り向く。そんな清時を
「さ、皆さんはお帰り下さい。」
とやはり促す。従う客達は、ぞろぞろと出口に向かう。足を動かす気のない私を
「
今回ばかりは自分の心理が最もわからなかった。久し振りの休日に水を差されたのが気に食わなかったのだろう。
「いいえ、私にも犯人探しを手伝わせて下さい。」
「なっ。」
「私は心理学を扱っております。言動から犯人を導き出す補佐をすることができるかもしれません。」
「嫌、だから、その…」
「余計な
何らかの働きかけにより、深く考えず無意識的に行動を起こしてしまう「カチッサー効果」、専門家の意見に従い易くなる「権威性の法則」。つまり、今の場面で言うなら、心理学を扱っている者という専門家の私が、犯人逮捕の補助が出来る可能性があるという理由があることにより、手伝うことを承認しやすくなる、ということだ。しかし、邪魔をしないという「自己呈示」(自分の良い点だけを紹介する印象操作)をしたとはいえ、刑事さんのペースをガン無視し、話を遮ってしまった。これでは、安心感が与えられていない…。(相手の仕草や声の調子、使っている言葉を合わせる「ペーシング」、相手の言葉を受け取め、尊重する「受容」と言葉にある心情を共に感じとる「共感」からなる「傾聴」。これらは相手に安心感を与える。)
だが、幸いにも
「わ、わかった。」
私は笑顔で
「
と感謝の旨を伝える。私は控室に集められた。そこには、関係者と思われる人達が暗い顔して、待っていた。
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