第3話 魔物退治と行きましょう……?
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転送装置から転送装置に移動するのかと思いきや、戦場に送られる場合はそういうものではないらしい。
「はっはっは。きみ、舌を噛むんじゃないぞ」
指定ポイントは中空で、転送されるなり自由落下を始めて驚いた。下は廃墟だ。俺はオパールに抱えられている状態で、恐怖のあまり動くなんてできなかった。
絶叫マシンなんかよりずっとスリリングだし、指令自体が殺意高めじゃないですかね?
単独で乗り込んでいたら、いきなり手詰まりだったのだと考えると生きた心地がしない。チームメンバーと仲良くなっていてよかったと思う。
「……いきなり足手まといで申し訳ない」
「いや、こういうのはよくあることだ」
廃墟の一角、元は百貨店だったのだろう建物の屋上に着地し、状況を確認する。
瘴気の濃さに、吐き気を感じる。においは特になく、乾いた風が吹き荒れる。魔物の気配は俺にはわからなかった。
「移動しちゃったかな?」
エメラルドが崩れかけのビルの端に移動して遠くを見やる。オパールも俺を手放すと周辺を見やった。
緑柱石も蛋白石も目にまつわる逸話を持つ石だ。その逸話由来の能力で偵察をしているに違いない。
そういうものだとは聞いていたが、こうして近くで観察できるのは興味深い。
「そういえばきみ、守り石は持ってきているよな?」
「ああ。ちゃんと首からさげてる。持っていなかったら、この瘴気に当てられて動けなくなっているところだ」
一応確認のために紐をたぐって、守り石があることを確認する。紐をネット状に編んだその中に守り石が入っている。それを見て、俺の守り石も蛋白石だったことを思い出した。とても地味な色合いだし俺の親指の爪よりも小さいこともあって、蛋白石だと意識することがないのだ。
俺の守り石を見て、オパールはふっと笑う。
「魔除けにはちょうどいいな。安心した。手放すなよ」
「そりゃ、もちろんだ」
この国の民ならば生まれると同時に握りしめている石が守り石である。その生涯、ずっと御守りとして持ち歩くことが慣習となっており、災害時には身を守る盾となるとされる。俺も慣習に従い、肌身離さず持ち歩いているわけだ。
「……妙だな」
オブシディアンがボソリとつぶやいた。
「索敵完了。視界には魔物の姿はないよ」
「オレも同意見だ。なんだ、ガセ情報か?」
エメラルドが戻ってくると、オパールと答え合わせをした。互いに不思議そうな顔をしている。
「だが、瘴気が濃いだろう? 魔物がいた場所にはこうして残るものなのか?」
「それは俺も気になる。この地域自体はここまで瘴気が強くはないはずなんだ」
ルビが補足した。念のために、小さいディスプレイを浮かべて情報確認もしている。転送先を誤った訳でもないようだ。
「じゃあ、何が――」
俺が言葉を発しようとしたところでズズズと地鳴りがする。オパールが俺を引き寄せた。
「地震か⁉︎」
捕まれるような場所はないし、廃墟でもある都合上、足場自体が脆い。周辺が大きく揺れたかと思うと、床が抜けた。
「ひえっ」
この地域に送り込まれたときにも落下したというのに、また落下するのかよ、と思いながら俺はオパールたちとともに階下に呑まれた。
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