第2話 色とりどりの宝石たち
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「あんたら、何やってんだ?」
あきれる声に、俺とオパールは白熱していた議論をピタリと止めて声の主に顔を向けた。
赤い髪赤い瞳の少年が立っている。童顔であることと、小柄で線が細いために少年のように見えるが、この気配は鉱物人形であり、俺と比べたらおそらく歳上だろう。軍服を崩したような衣装を着ており、光沢のある赤を基調としている。紅玉の鉱物人形だとすぐにわかった。
「ああ、ルビか。今日から配属になった彼に、オレがどれだけ論文を読み込んできたのかをアピールしていたところだ」
「アピールポイントはそこでいいのかよ……」
ルビと呼ばれた彼はため息をついた。
俺も彼には同意である。
すると、ルビは何かを思い出したらしくハッとした顔を俺に向け、まじまじと見てきた。
「――あ。ということは、あんたがバル・メルキオーなのか」
「そうだな」
頷くと、ルビは目を輝かせた。
「あんたの論文、参考にしているぜ。特に魔力の効率的な利用についてはすごいな。魔力を常にたくさん抱えているから考えたことがなかったんだが、論文のおかげで出力の調整が上手くなった。感謝している」
「それはどうも」
自分が魔力をあまり蓄えられないこともあって、少量の魔力であっても動力や術として利用できる方法がないか探っていて気づいたことを論文にしたことがあったのを思い出す。あれはまだ学部生時代のものだったと思うのだが。
「会えて嬉しく思う。研究所を追い出されて正解じゃないか。これからは俺たちを使って検証すればいい」
「君ら、そういう仕様なの?」
なんで身体を差し出そうとするのか。俺が指摘すると、ルビの後方からもうひとりやってきた。
緑色の髪と緑色の瞳、頬にうっすらと傷がある美しい青年が笑った。ふんわりとした薄緑の衣装は、戦闘には不向きなデザインだ。色と傷から、彼は緑柱石の鉱物人形だろう。
「キミらがバル先生を贔屓にしているのはよく知っているけど、本人にそれをぶつけたら気味悪がられるって」
「エメラルドは興奮しないのか? 本人だぞ、ご本人!」
オパールが不服そうに告げる。
エメラルドと呼ばれた緑色の彼は肩をすくめた。
「ボクだってバル先生の論文に助けられた鉱物人形ではあるから、尊敬はしているし同じチームで働けることを光栄に思ってはいるさ。でもね、彼はボクたちに講義をするためにここにきたわけじゃない」
「そうだ。感謝を伝えるのはいいが、余計な感情は任務の妨げになる」
別のところから声がして見やれば、部屋の入り口に肌の浅黒い大男が立っていた。俺の周りにいる鉱物人形たちと違ってガタイがよく、実に戦闘向きな体格だ。艶のある真っ黒な髪、深淵のような黒い瞳。光沢のある黒いローブをなびかせてこちらに向かってくるのは、その特徴から黒曜石の鉱物人形らしい。
「アンタも、気をよくしているところ申し訳ないが、ここは研究所でもなければ同好の士が集うような場所でもない。生命のやり取りをしている最前線だ。そのつもりでいないと、アンタ自身も身体を失うぞ」
射抜くような視線は鋭さがあって肝が冷える。
彼の言い分はその通りだと思えた。彼らは魔物退治のために作られた兵器であり、この特殊強襲部隊はその魔物を発見次第現場に直行して速やかに屠ることを目的としている。俺の実験動物でもなければ、聴講生でもない。
「オブシディアンさあ、そんな言い方しなくてもいいと思うぞぉ」
「いや、その通りだ」
緊張感に満ちた空気を変えようとオパールが口を開いたが、俺は立ち上がってそれを片手で制した。
「俺はここに魔物退治の任務を与えられてやってきた。研究一筋で腕力には自信はないし、体力もない。おまけに魔力もいまひとつなので、戦場では供給することもままならないだろう。だが、足手まといになるつもりはない。なので戦場では俺に構わず任務を遂行することを約束して欲しい」
俺が宣言すると、それぞれがそれぞれなりに理解したようで、バラバラに頷いた。オパールにとっては面白くないようだが、オブシディアンは納得してくれたのか視線に含まれていた棘が和らいだ。
「メンバーはこの四人か?」
「慣れるまでは少数精鋭で……って話にしておいてくれ」
「前任者が独立するにあたって連れていっちゃったからね。特殊強襲部隊全体としてはもっといるけれど、この部屋を使っているメンバーはボクたちで全員なんだよ」
オパールの言葉にエメラルドが補足した。なるほどなるほど。
「少ない方がありがたい。俺は魔力当たりをする体質でさ。魔力が強すぎる鉱物人形に囲まれると酔うんだよ」
「だろうな。だから、ここにいる全員、あんたの論文を読み込んで、人前では魔力の放出量をぐっと抑え込んでいる。それを習得できなかった奴はここに入れないつもりだ」
ルビが説明した。
論文、役立ってるじゃないか。
「厄介な人間が配属されていろいろと面倒だと思うが、まあ、それなりに仲良くしてほしい」
ほどほどに挨拶を終えたところで、前触れなくディスプレイが展開して警告音が鳴り響く。ディスプレイに表示されているのは地図だ。あるポイントが明滅を繰り返している。
「おっと。出動要請だな」
ルビがすぐにディスプレイに近づき、詳細を手元に表示した小型のディスプレイで確認している。オブシディアンも同じように任務内容をチェックしているようだ。
「きみも行くかい?」
各々が準備を始めるのを見ていると、オパールが声をかけてきた。
「それが上の望みだろうからな」
「ここから指示を出すのもアリだと思うが」
「現場を見ておきたいんだ」
「了解」
現場では俺が考えもしなかった現象が起きている可能性が高い。体質上、フィールドワークを避けていたのだが、これは好機だ。死んだらそれまでではあるが、足掻けるだけ足掻きたい。研究者としてのサガだろうか。
「転送装置の準備ができた。全員で出撃せよとのことだ」
ルビの声がけに全員が頷いて、部屋を出たのだった。
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