第5話
人とは徐々に欲深くなるもので、安祐美は和樹が週2日本当に会社に泊まり込むくらい忙しいのか知りたくなった。母に相談すると心配するので弟の翔に連絡をした。
「翔。本当に彼の会社が忙しいのか調べられる? 毎週2日も泊る程なのかしら。」
「旦那の会社は今上り調子なことは確かだし、海外との取引もあるから遅い時間に話し合いもあるだろう。でも保々毎週というのはなぁ・・・ちなみに曜日決まってる?」
「大体月曜日と木曜日。たまに違うけど・・・」
「ふーん。ちょっとその曜日に見張ってみるか。ダチにも手伝わせるよ。」
「ダチって達也? 」
「そう。あの達也。あいつの母ちゃんの弁護士事務所で一緒にアルバイトしているから毎日のように会ってる。」
「二人とも司法試験で忙しいんでしょ。」
「そうだけど、今回二人とも一次は受かったから少しなら大丈夫さ。ずっと勉強していると息詰まるしな。たまにはいいさ。」
「ありがとう。お願い。」
翔はこの曜日の夜に見張ることにした。和樹の会社は総合ビルの最上階の26階にあり、そのビルは24時間空いているのでロビーにいることができる。最上階行のエレベーターは1台だけ。専用だったのでそれが見えるところを見付けてパソコンで仕事をしているふりをして見張った。たまに達也と代わったりして怪しまれずに見張ることが出来た。
そのエレベーターは稼働するとライトが付くので見張りやすかった。
たしかに和樹は泊るといった日はずっと会社にいるようだった。
26階専用のエレベーターは帰宅時間の18時から20時をピークに稼働し、21時前には動かなくなった。
見張り初めで4回目に翔はあることに気が付いた。21時半から22時ごろにモデル風のきれいな男がいつも同じエレベーターに乗る。但し、乗るエレベーターは和樹の会社専用のエレベーターではなく。一般用のエレベーターだった。でも気になったのでその男をマークした。その男はいつも25階で降りていることがわかった。
25階はいくつもの会社がある賃貸のフロアーだった。プレートで会社の名前を確認した。弁護士事務所や会計事務所など硬い会社ばかりで、あんな男が出入りするような会社はみあたらなかった。さらにこんなに遅くにやっている会社ではない。翔は25階にエレベーターで上がった。
25階はセキュリティがあり、カードが無いとエレベーターホールから中には入れなかった。どこの会社も営業が終了しているのかても静かだった。今はどこにも人がいないようだった。日中はセキュリティが稼働していないことがわかったのでまた明日早い時間に来ることにした。
翌日、お昼時だと人の動きが多いと思い、その時間に来た。思った通りお昼に行き来する人で動きがあり目立たなかった。
25階のフロアーを端から端まで見て歩いた。ドアには社名が書かれていてほとんどが開いていた。しかし、一番奥の部屋だけが何も看板がかかっていなかった。そこは重厚なドアが付いていた。(ここは何だろう・・・)ひとつ怪しい部屋を見つけた。25階から26階には階段でもエレベーターでも行けないようになっている。きっとセキュリティでそうなっているんだと確信した。
その週の木曜日の夜、翔はまたこのビルに来た。和樹の車は駐車場にあり、まだ26階にいるようだった。21時半過ぎに例の男は25階に上がっていった。すると直ぐに、26階専用のエレベーターに動きがあった。26階から25階に動いて止まった。
(26階からは25階に行けるんだ・・・階段でもきっと・・・。男だ。和樹の相手はあの男だ。あの部屋は密会部屋だ・・・)
あの男が下りてくるのを待った。
約2時間後、あの男は一人で降りて来た。男の後を付けた。男は麻布にあるバーに入っていった。和樹はスマホでこのバーのことを調べた。コメントを見ていると男性との出会いの場所のようだった。翔は一人で入るのは怖かったので、達也を誘って別日に来ることにした。
もう一日、同じようにあの男を見張った。結果は同じだった。
達也にそのことを話すと目の色が変わり、興味を持った。そして二人でそのバーに行くことを承諾してくれた。
達也はソフトな顔立ちをしている。いつもはメガネをかけて硬いイメージを醸し出しているが、メガネを外し髪を少しクシャクシャとすと今風のいわゆるいい男になった。
翔は達也をからかった。
「お前、モテても知らないよ。」
「待ってくれ、俺男に興味ないからちゃんと助けろよ。それより、俺たちがカップルを装った方が良いんじゃない。」
「そうだな。でもあまりくっつくなよ。気持ち悪いから。」
「手くらい繋ぐか?」
「達也、お前楽しんでないか?」
「楽しんでるよ。なかなか出来ないからな。」
「まぁ、うまく頼むよ。さあ行くぞ。」
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