第2話

その日和樹は帰ってこなかった。

安祐美は何度も和樹の携帯に連絡を入れたが、返事はなかった。戻ってくることを信じ安祐美はずっと和樹を待った。そして、居間のソファで朝を迎えた。


朝、ドアが開く音が聞こえた。6時だった。

「和樹さん、どこに行っていたの? 何度も連絡したのよ。」

「悪い、ちょっとトラブルが起きて会社に行っていた。連絡できなかったことは謝る。これから着替えてまた出かける。」

和樹は安祐美の顔も見ずに言った。

安祐美はいきなり不安になった。

(結婚したばかりなのに・・・)


その後も和樹は帰ってきたり来なかったりわからない日が続いた。

安祐美が訊ねると、

「俺の仕事では仕方ないんだ。慣れてくれ。」

そう言うばかりだった。

そして、徐々に安祐美を抱く回数が減っていった。

初めのうちは抱かれていれば安心した安祐美だったが、さすがにおかしいと思い出した。


安祐美の母から連絡が入った。

「安祐美、北海道の叔母さんから蟹がいっぱい届いたの。取りにいらっしゃい。」

「うん、わかった・・・」

新婚旅行のお土産を渡しに行って依頼、3ヶ月ぶりの実家だった。

「お母さん、ただいま。」

母は安祐美の顔を見て、直ぐに聞いた。

「安祐美、何があったの? こんなにやつれて・・・」

「別に、何もないよ。少し疲れているだけ。」

「安祐美・・・なんかあったでしょ。ちゃんと話なさい。」

安祐美はこらえていた涙があふれ出た。

「ちょっと・・・安祐美・・・」

「お母さん・・・和樹が帰ってこないの・・・」

「えっ? ずっと?」

「ずっとではないけど・・・今では週に2日位しか返ってこない。」

「和樹さんは何て言っているの?」

「仕事柄仕方ないって・・・忙しいんだって・・・でもね、それだけじゃないと思う・・・」

「安祐美・・・」

母は安祐美を抱きしめた。

「忙しいのよきっと。少ししたらまた大丈夫よ。」

そう言うしかなかった。


次の日、母は友人の弁護士をしているおかに相談し、興信所を紹介してもらった。


2週間後、興信所から調査結果が来た。忙しくて会社に泊まっている日も確かにあった。でも女とホテルで会っていたことがわかった。相手はキャサリン・マッケンジー、アメリカ人だった。

母は迷った。安祐美に言えば取り乱すだろう。先ずは直接和樹と話そう。

母は和樹をホテルのロビーに呼び出した。弁護士おか 晴美はるみに付き添ってもらった。

「和樹さん、お忙しいところお時間取って頂いてすみません。ちょっとお聞きしたいことがあっておいでいただきました。」

「お義母さん、何でしょうか。」

和樹はいつものように笑顔を絶やさずやさしい眼差しで語った。

母は興信所の報告書を和樹の前に差し出した。

「この報告にあるキャサリン・マッケンジーとはどういうご関係ですか?」

「・・・調べられたのですね。・・・正直にお話します。彼女は元カノです。」

「まだ、切れていないということですか?」

「僕としては終わっています。でも彼女がまだ吹っ切れないみたいで、アメリカの取引先のお嬢さんなのであまり無下にも出来ず、話し合いをしています。」

「ちゃんと別れてくださるのかしら。家にもあまり帰らないと安祐美が心配しています。でもこのことはまだ安祐美には話していません。どうですか、ここでちゃんと別れると約束してくださいますか?」

「はい。お義母さん。ちゃんと別れますからご心配なく。裏切るようなことはしません。」

「そうですか、ではお願いします。安祐美を泣かせるようなことはしないでくださいね。」

「はい。申し訳ございません。」

和樹は頭を下げて帰った。

「岡さん、どう思いますか?」

「彼は、あれだけいい男ですし心配ですね。冷静を装ってはいましたが少し目が泳いでいました。また数ヶ月経ったら調べた方が良いかもしれませんね。」

「そうね。まったく・・・安祐美がかわいそう。あんなに彼のことが好きなのに・・・これで収まるといいけど・・・」


母の行動が効いたのか、和樹が家に帰って来る日が増えた。

安祐美は和樹が帰って来ることが増えて少し安心した。でも相変わらずあまり抱いてくれない。付き合っていた時はあんなに抱いてくれたのに・・・

夫婦で出席するパーティや実家に行くときなどは、和樹は優しかった。常に安祐美を優しく扱ってくれた。でも家に帰ってくると違った。

安祐美の不安は消えなかった。

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