第39話

「どうやって、神君を欺いているのか知らないけれど……演技は、もうやめたら?」


「演技?お嬢さんこそ、その神君さんのシモベ、残り2匹をどこにやったんだ…?」


どちらを信じるべきか……


すぐに判断できるわけがない。


こんな状況で、尚更だ。


大きな地響きとともに、ほんの数百メートル先で細い煙が上がる。

すぐ近くで人々の悲鳴がする。

素早く蔦を伸ばして、ひとまず銃を弾いて、自らの手を伸ばす。


生まれて初めて手にした。


とても冷たい、だけどずっしりと重さがある。小さな鉄の塊に過ぎないのに、数多の命を奪う。


こんなもの、どんな形にせよ、一生手にしたくなかったな。


「神君!?」


「ここで、争っている場合じゃない。」


「さすが、わかってるな!そうだ、オレの方がアンタの味方だ!」


「……勘違いしないで。」


姉をぎりりと睨みつけ、そのまま大芽にも同じ顔をした。


焦げ臭い風のする生暖かくて煙たい空に銃を舞い上げて、蔦で巻いて花弁に変換かえる

ひらひらとすっかり軽くなって地面に還る。


バケモノでも見るような2人の目線がズキズキと痛い。

いい加減、慣れたら楽なのにと、心底思う。

どうしてこの感覚は変わらない?


「……神君、大変失礼をいたしました。わたくしは、救護に急ぎます。」


姉はそう告げると視線をサッと逸らして、悲鳴の聞こえた方角へ逃げるように早歩きで去ってしまった。


「……大芽さんは、どうするの?敵の兵士がどこに隠れてるかわからないし、そうじゃないとしても、俺は自分に危害を加えようとするニンゲンを、誰であれ、さっきみたいにするよ。」



敵?


敵なんて本来はいないはず。


みんな同じ人間なのだから。

新人類、旧人類、関係なく

みんな同じ。


いつからそんな風になってしまったのだろうか?


戦争こんなことを、過去の自分は望んでいない。


だからこそ、オワリにする。


そうなのか…?


自分に問い掛けても、答えはわからないままだ。


でも、なんとなく納得はいく。


「相変わらず見慣れないもんだが、覚悟の上でアンタの隣にいることを選んだんだからな…すまん。」


「そう……。」


素っ気無い返事をしたせいか、大芽は渋い顔をする。


「……そうだ、ここはもしかしたら、アレかもしれんぞ…」


「………心当たり…」


話しの途中だろうと、なんだろうと、敵が待ってくれるわけがない。そんな都合のいい現実は存在しない。

こちらに向けられて放たれた無数の銃弾に数倍の緑を鋭く突き返す。


「セキ、大芽さんを頼むよ!」


「要様!!」


自分を呼び止める声を無視して、全力で走って敵の前へ躍り出る。

迷いなく瓦礫の上に緑を広げ蔦を伸ばす。

時々、身体に鉛の玉がぶつかって痛みが走るが気になるほどではない。

目を見開き、けして逸らしたりはしない。

一瞬でその場の殺意の全てから武器を奪い、命を吸い取る。


紅い花弁が色のない空を無惨な程、鮮やかに染める。


額を伝う一筋の液体に気付いて手を当てるとやっぱり赤い。


「……頭、撃たれても平気なんだ…?」


視界が狭くなったような感覚があるような、ないような…


すっかり緑色になった瓦礫を見下ろすと、まだ小さな亡骸が無数に転がっている。


忘れかけていたあの日。


みんなも、まだ、多くの未来があったのに奪われた。


どんなに辛かっただろう。


足をそちらに進めようとして、視界が真っ暗になってふらつき転びそうになったが、ぼんやりと見えた大きな影に身体を包まれた。


覚えていない、だけど懐かしい手だ。



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